邂逅
「チッ♪」
ご機嫌な様子で、セイがミノさんに齧り付いた。
相変わらずだな。そんなことを思いながら、レベルを確認する。……20か。進化はなし。
ふむ。ここで成長がストップとかないよな?
……まぁ、その辺は考えても仕方ないか。で、この大斧はなんだ?
『鋼の大斧:なんの変哲もない鋼の大斧。とても重いため、木樵には向かない。』
いらんな。
……。
あっさり終わったから、こんだけかって感じがするな。しかし、そろそろ外に出たいところだなぁ、やっぱ次の進化に期待するしかないかぁ。
「ケプッ……」
ミノさんを平らげたセイがゲップを一つ。ゴロンと横になっていた。
「セイ、いくぞ」
「チッチッ」
あとちょっととばかしに、セイは前足をぶらぶらさせた。
全く仕方ない奴だ。
「チッ?」
俺は自分から動かないセイを拾い上げ、スタスタと階段を降りていった。ふむ、やっぱ靴はいいな。
……。
第三階層は、どこか神殿のような荘厳さを放つ石造りであった。第一階層も石造りであったが、そちらはなんというか荒削りな印象を受けたが、こちらは光沢を放つほど綺麗に磨かれている。
俺たちが今歩いている通路には、等間隔に松明が設置され、妖しげな紫炎を揺らめかせていた。
……しかし、長い。入り口からずっとこの通路を歩いている。敵には遭遇していない。たぶん、ここが最下層なんだろう。あとは、迷宮主が待つばかりというわけだ。
「チッ」
セイも心なしか緊張したように鳴く。
俺はセイの頭を撫でてやった。
「チッチッチッ♪」
セイはもっととばかりに、頭を擦り付けてくる。
……。迷宮主か。会話をこなせる奴ならいいんだが。それならば、俺の状況に対する多少の疑問が解決するはずだ。
俺の死、記憶、この世界のこと。俺は知らないことが多すぎる。
「チッ」
「ん?」
セイの声に、黙考を中断。前方に意識を向けた。
扉だ。両開きの大扉。まるで地獄の入り口かのように、苦悶の表情を浮かべ、必死に手を差し伸べる亡者たちの装飾がなされている。
「チッ?」
「あぁ、行こう」
臆してはいけない。思い切りよく、行動しよう。考えるのはそのあとでいい。
前世の俺はたぶん、考えるだけで行動しなかったから死んだんだ。
ギィィとゆっくり、俺の手に押され、右側の扉が開いていく。空いた隙間から、漂いでるのは、白い煙。それよりも、はっきりと感じられる濃厚な邪気、負の魔力。
俺は扉のうちへと足を進める。
扉から3歩ほどの距離。空間を震わせる声が響いた。
『ようこそ、遅かったね。待ちくたびれたよ』
声の主を探せば、奥に紫の光を見つけた。それを宿す頭蓋骨もすぐに見えた。
その周囲には、それを守るかのように佇む死者の軍団。
「あぁ、それはすまない。ところで、俺を殺したのはお前か?」
自然と言葉が溢れた。
ボロ切れのようなローブを纏い、赤黒く染まった大杖を握る骸骨。それはカタカタと震えて、笑った。
『クククク……クハ、クァーハハハ!!!』
堪えきれなくなったか、大袈裟に天を仰いで盛大に笑い上げた。




