靴を履こう
下手な脅威よりも恐ろしい虫の悪夢からしばらく。
俺たちは、扉付きの小部屋を発見した。この前は確か、中に宝箱があったはずだ。俺は、いそいそと扉を開ける。
案の定、小部屋の中央に、木造の宝箱があった。
二回目ともなれば、警戒の必要は無い。真理眼さんも、罠はないと言っていた。いや、真理眼は喋らないか。
ともかくとして、俺はワキワキと無遠慮に宝箱を開いた。
シュン!
「うわ!?」
宝箱から何かが飛び出し、尻餅を打ってしまった。
生憎と痛覚が無いので、痛みはないがなんとも間抜けな図である。
罠はないんじゃなかったのか?
頭の中に疑問符を浮かべながら、飛んできた物を確認しようと辺りを見渡す。それはすぐに見つかった。
宙に浮く短剣であった。
……なんじゃこれ?真理眼。
『個体名:No Name Lv.14
分類:屍霊
種族:呪怨器 』
『呪怨器:打ち捨てられた武器が長い年月をかけて、負の魔力を溜め込むことで屍霊と化した魔化物。基本的に突進するしか能が無いが、時折、技術的な動きを見せる個体がいる。他の屍霊族と同じく、生者を怨み、その生命そのものを感知することができる。』
なるほど。宝箱に納められていた短剣が屍霊になったわけだな。
「セイ」
「チッ」
俺の呼びかけに、セイはすぐさま反応して、呪怨器を浄化した。
ポスン……
虚しい音を立てて、呪怨器だったそれは土の床に落ちた。
ふむ。それでこの短剣は?
『青銅の短剣:なんの変哲もない青銅の短剣。主には護身用や魔除けの役割を持つ。』
……微妙だな。捨てて行くか。
さてさて、一応確認しておこう。宝箱の中には、呪怨器だけかー?
……。
お!まだ、あった。
『静音の靴:主に忍び寄る蛇の革を素材に作製された魔宝具。隠密の付与効果がある。』
ふむ?付与効果?うーん……。物理的な機能としてじゃなく、魔法的なモノで隠密に補正があるということか?へぇ、そんなのもあるのか。
よし、じゃあ、履くか。
……足裏が汚れてやがる。そりゃそうか、裸足で今まで歩いてたんだもんなぁ。
「チッ?」
暇になったのか、セイが声をかけてきた。
「足を綺麗にしたら行くからな」
「チッ……」
俺の言葉で、セイは俺の足裏に目をやった。そして、しばらく、考えたあと。
「チッ」
なんと、浄化の青白い魔力が放たれた。
って!おい!?俺は屍霊だぞ、何やってんだ!?
咄嗟のことで回避も間に合わず、俺は浄化されたのだが。
「お?」
痛みは無かった。存在が消失しかけた感じもない。足裏を見れば、そこは綺麗になっていた。なるほど、加減して汚れだけ払ったのか。
「ありがとな」
「チッ!」
当然!とばかしにセイが鳴いた。
俺はいそいそと靴を履き
「よし、行くか」
「チッ」
セイの頭を一撫でして、また、歩みを再開させるのだった。