誕生
嫋やかにクリスティーヌは、魔王の玉座に腰掛ける。
みるみるうちに彼女の腹は膨らんだ。
「ふふ、さぁ誕生の時よ」
優しげに腹を撫でる様子を見れば、妊娠しているのだろう。
「ぐっ……あ、アァ……」
クリスティーヌの腹を裂いて、小さな手が現れる。
ゆっくりと、手探りで、クリスティーヌを甚振るように、其れは這いずり出でた。
混色の黒に染まる髪。酸化した血のように暗い瞳。
赤子のようだった肉体は既に青年のそれへと成長を遂げていた。
魔力で編まれた夜闇の如き衣が、白皙の肌を覆い隠す。
「あぁ、ようやく、ようやく。長かった本当に、長かった!これで解放される、私は解放されるの!」
クリスティーヌの感極まった言葉が耳に届く。そして、次の瞬間、産まれたばかりの王が母の心臓を抉っていた。
灰塵へと変じるクリスティーヌ。その心臓から滴る血を啜る王。
魅了の呪縛から解放された俺は、ソイツから目を離さずに口を開く。
「セイ、マサミチ。お前らは、逃げろ」
「ジャックさん何を?!」
「お前の役割は終わったんだマサミチ。それに足手まといだ」
「くっそれは……わかりました。御武運を」
「チッ」
そうそれでいい。勇者だからこそ、魔王には勝てた。だが、アレには通じないだろう。
『個体名:_@aJjmd Lv.100
分類:渇望王
種族:黄昏の吸血鬼 』
『黄昏の吸血鬼:世界の終わりを導く器。生への渇望に喘ぐ不死者たちの王。核を持たぬ其に死は無く、生も無く、故に体は偽りで、心は壊れ、魂さえも空っぽである。』
動力が空っぽだと?
時空魔術【隔離空間】
一先ず、俺とアレ以外を排除する。加減はできないだろう。
No Nameではなく、文字化けした個体名の表記も不気味だ。
何故動く。何を思考している。どうして触れられる。
一体何が生命の三原理である体・心・魂を代替している。
ゆっくりと周囲を確認する渇望王。
やがて、閉じ込められたことを認識したのか、此方を向いて、嗤った。
凡ゆる悪意を煮詰めたようなその笑みが、何故か美しく見えた。
「ッ!?」
いつの間にか目前に迫った渇望王。
右手の爪で撫でられるのを、どうにか躱す。
ガリッと、【隔離空間】の壁が音を立てて削れた。
ただの攻撃が、空間に傷を与えた。
まだ慣れていないのか、動きを止める渇望王。
外は今、夜だろうか。
時空魔術【接続】
封印具らしい魔王城を壊すわけにはいかない。【隔離空間】の外に、魔王城の内と外を繋ぐ道をつくる。
占星魔術【月光の祝福】
夜空に浮かぶ満月を媒介して、強化魔術を発動する。
「ッ!?」
唐突にまた、目前に迫るソレ。だが、少しだけ余裕を持って躱す。
血聖術式【断罪炎】
神聖魔術と血魔法を応用して、正の魔力で血魔法を行使する。
存在の規格が世界に合わない渇望王は、それによって修正されるはずだった。
否、修正はなされた。しかし、次の瞬間には、目の前にいた。
「何!?」
三度の交差。左手に握る夜刀姫を合わせた。
「ぐっ……」
『うぅ……』
重い。ヤトの耐えるような声がする。もう少しだけ我慢してくれ。
血聖術式【血染め桜】
夜刀姫の刃を血が覆う。
渇望王の右腕を斬り飛ばせば、刃を覆う血が飛んで渇望王の身体に桜の花弁を染め上げる。
続け様に、左腕を斬り飛ばす。やはり、桜に染め上げる。
染め上げられたところを中心に、渇望王を修正してゆく。
これでも、倒せはしないだろう。一先ずは、マサミチたちを逃がす時間稼ぎ。
さて、コイツを倒す術はあるのか。
魔術王の遺産は未だに反応を示さなかった。
新規コメントありがとうございます。手厳しい意見もありましたが、その辺りは次回作の反省に活かしていきたく思います。
さて、もうすぐもうすぐと言いつつ、だいぶ引っ張ってきておりますが、読者の皆様にも完結が見えてきたのではないでしょうか?
特に意見がないようであれば、二部に続くと言ったような終わり方ではなく、スッキリと終わらせるつもりです。
拙作は本腰を入れて書いた初めての完結作品となりますが、色々とやりたい放題やった結果、回収していないモノがあります。二部でそれを回収しようとすると思いの外、纏まりが悪く、それ以前に別作品を書きたいので、続きは御蔵入りすることでしょう。
では皆さん、続きをお楽しみに。
ジャック「お前、手厳しい意見のせいで日和ったろ、そうなんだろ?」
違いますー、ホントに別作品の方が書きたいんですー。
「どうだかな。まぁ、しっかりやんな」
はーい、頑張りまーす。




