表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第五章 不死の黄昏
132/139

惑いの森

「……?」


 ラヴァは唐突な変化に疑問に思った。エキドナのチカラへの対策のため、視界は無く、そのようなところで、イジネが森と化したことに気づくのは無理であるからして、まず、脚を絡め取られた。


「ッ!?」


 咄嗟に、上昇しようと竜翼を羽ばたかせるものの、高度は全く上がらなかった。


 それもそのはず、ラヴァの脚を拘束したのは、大樹の太枝で、それが蔓蔦のようにラヴァに巻きついている。大地にしっかりと根を張った巨木の重さも相まって、竜魔族の膂力をもってしても、容易には引き剥がせない。


 勿論、それは所詮、ただの植物にすぎない。


 邪竜魔法を纏った片腕を、ラヴァは太枝の拘束に振り下ろした。あっさりと切り離された太枝が力無く地に落ちる最中、次なる攻撃がラヴァを襲う。


「ちっ!」


 軽く千を越した数多の葉っぱ。それが刃となって、ラヴァの鱗を削る。


「カァアア!」


 ラヴァは思わず息吹を放って、葉刃を退けた。


「ッ!?アァ!!ウゼェ!!!」


 息吹の隙をつき、今度は四肢それぞれに太枝が巻きついた。太枝は確かに!ラヴァの膂力に打ち勝ち、その高度を徐々に下げてゆく。


「【負蝕(エクリプス)】!」


 ラヴァが邪竜魔法を行使する。ラヴァの身体から瘴気が吹き荒れ、太枝をボロボロと崩壊させる。


 拘束から抜け出たラヴァであったが、すでにそこは森の中であった。


 ラヴァは空に舞い戻ることを試みた。しかし、森の天井は枝葉に覆われ、それに手こずっている間にまた、拘束されて引き戻される。息吹で穴を空けようと一瞬で再生された。


「チッ」


 何度目かの挑戦。繰り返されることに油断が生まれていた。セイの神聖魔法に気づくのが遅れる。


「ッ!?」


 なんとか身体を捻り、急所を外す。そして、ようやく捉えた敵を追いかける。


「待ちやがれェエエ!!」


 あまりにもお粗末にすぎる。いくら邪竜魔法の影響で、精神に昂揚があったのだとしても、ラヴァは当初、イジネの切り札を知っているかのような口振りがあった。もしくは、切り札があることを知っているだけだったとしても、魔王国軍の四天王の地位にある男が、この森に対して疑問に思い、その対策を優先しないなどあるのだろうか。


「憐れねぇ」


 エキドナが白い花の匂いを楽しみながら、そう言った。


『よく嗅げるな。それが原因だとわかっているんだろう?』


 森そのものと化したイジネの【念話】が、エキドナの脳に響く。


「えぇ、私は視覚から惑わすけれど、貴女は匂いで惑わせるのね?」


『……一緒にしないでもらいたいな』


「あら、つれないわねぇ」


 イジネはエキドナから離れ、意識をラヴァに戻した。


「どこ、だ?ど、こに?……なに、お、れは何して、る?」


 すでに、セイを見失い、それどころか、森の中心に誘い込まれていた。


 そこは花畑となっていた。四季折々の花々が、季節感を無視して咲き乱れている様は、美しくもあり、どこか不気味でもあった。


「心地よい……」


 遂に、ラヴァは花畑にその身を委ねた。


 花粉を媒体とした魔法の毒に負けたのだ。


 ラヴァの安らかな寝息が聞こえてくる。その身体を蔓蔦で雁字搦めに包み込み、既に遺体となったそれを地中に引き摺り込んだ。


「こっちは終わった。セイ、お前はジャックの元に行け」


「チッ!」


 イジネは森から元の美しい森妖精の姿に戻り、セイを送り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ