精霊魔法
連日投稿だよ
昨日読んでない方は、前話からよろしく
ラヴァが次の行動に移る様子がない。それは、ラヴァの遠距離攻撃手段が竜の息吹しかないからであった。
竜の息吹は威力が大きい分、隙もまた大きい。先程もイジネの精霊魔法に狙い撃ちされた。邪竜魔法によって、かなりの耐久性を誇るものの、ラヴァとて全く効いていないわけではない。
イジネたちとて、防御体勢のラヴァに攻撃を当てるのは難しいと考えて、隙を伺っている。
事態は膠着していた。
「ねぇ、イジネちゃん?」
「何だ、エキドナ?」
イジネは、親しげに問い掛けてくるエキドナに訝しげに応える。イジネはエキドナを警戒していた。先の戦いの様子からして、此方を裏切る可能性は低い。そもそも、ジャックの血魔法の契約で縛られた彼女はしたくてもできはしない。
だからといって、感情はすぐさま許容しない。エキドナは、一族の庇護を求める先を魔王からジャックに変えてから、常にジャックに媚びるようなところがある、気がした。
考え過ぎだろうか。そもそも、自分はなぜそんなことを気にしているのか。不意に、かつて、シュテンに言われたことを思い出した。
「どうしたの?」
「……なんでもない。それで」
すぐにそれを頭から振り払う。実際の肉体も動いたようで、エキドナに問い掛けられるが、流して続きを促す。
「そう、あの鼠、セイちゃんだったかしら?彼の相棒なのでしょう?ここにいるのは、少し不安だわ」
「何?それは負ける、とでも」
イジネの心がざわついた。その変化に気づいたのか、エキドナが即座に訂正する。
「いいえ、彼のチカラは確かよ。それに魔王は勇者と相対した以上は斃れる、あれはそういう宿命だもの。問題は黒騎士よ」
「正体不明の総司令だったか」
「そう、そして、実のところ、その正体は既に予測できているわ。彼自身が言ったことだったでしょう?」
「そうだったな」
星宮獣帯で行われた軍議の時、エキドナはいくつかの情報を提供していた。そして、その話から黒騎士が、〔仮面舞踏会〕の首魁、真祖ファントム・ブラッドオペラであることは、ジャックの予想したところであった。
「真祖とは、吸血鬼の支配者を指す。その支配権は基本的にはその真祖の血族にしか及ばないけれど、ブラッドオペラの血族は吸血鬼の本質的チカラが最も強い。だから、どれだけ強大な彼であっても、何かの拍子に負が増幅させることぐらいはあるかもしれない」
「なるほど、そうかもしれない。カーラも、セイがいるからこそ、ジャックが聖人性を持っているのだと言っていた……」
吸血鬼が怪物である理由は、負の魔力にある。その原則は、ジャック・ネームレスという男にも適応されていた。
その話には、一理があった。
「あるのなら、使いなさい。決着をつけておいた方が良いわ」
エキドナの言葉に、イジネは無言で頷く。
そして、自身の握る神霊鋼の細剣の刃を躊躇いなく、左手で握り込んだ。当然、左手からは血が零れ落ちる。
「チッ!?」
「待て、セイ」
突然の行動に、セイが驚くも、イジネは冷静に治癒を止めた。
そして、古き言葉を紡ぐ。
「『我が血に眠りし、始祖の力。今再び、憐れな汝の子の呼びかけに応え給え。我は汝、汝は我。ここに肉体より精神を解き放つ。森霊よ、此処に』」
それは森妖精たちの秘奥である。
魔術王が彼らより倣った精霊魔術をシャーマニズムと名付けた由来でもある。
イジネはそれに成功したことがない。これを使えるのは、各里の長老たちと神子、そしてその側仕えと限られた者たちだけ。
だが、成功する確信があった。神匠の鍛えた神霊鋼の細剣が、イジネに力を与える。
勿論、それだけで始祖は応えたりしない。肉体と技術は整っても、覚悟がない。
成功する者は森を守るために覚悟を決めてきた。しかし、イジネはなまじ才覚があった。故に、成功する必要はなかった。
しかし、今ここに才覚だけでは困難な障害がある。それは森の敵だ。
覚悟が決まる。
「【精霊化】」
イジネの肉体が変換される。
そこにあったのは、森だ。
森そのものが、イジネだった。
「妖精族って理不尽だわ」
エキドナが艶然と微笑んだ。
描写が足りない気がするので補足。
イジネは実際、森になったけど、仮に映像化した場合、精神体が別で読者の方には見えることになる。つまり、ジャックの真理眼だとばっちりイジネが普通にいる。森の真ん中らへんに浮いてる感じで。
でも、ラヴァやエキドナ、セイからしたら、イジネが森になったようにしか見えない。(じゃあ、描写の不足じゃなくね?)
もちろん、イジネは元に戻ります。
イジネ「……成功したのは良いが、森になる必要性はあるのだろうか?」
作者も、イジネが戦った方が見映えすると思う。でも、森です。森が戦います。
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