隠れんぼ
甲高い金属音がまるで、悲鳴を上げているかのように響き渡る。
ラヴァはその全身から不規則に、棘を生やしており、それを武器とした徒手空拳でイジネを攻め立てた。
イジネは、そんなラヴァの猛攻に苦戦しながらも、なんとか耐え忍んでいる。ただ、不規則に、長さも角度もバラバラな棘を正確に把握することは困難を極め、風霊のチカラとセイの支援でどうにか防戦しているようなものだった。反撃に転じることはできず、擦り傷が少しずつ、体力を削る。
「ヒャハハハ!どうしたどうした!?その程度かぁあ!!」
邪竜魔法の影響なのか。人が変わったように、ラヴァがイジネを煽る。
イジネはそれに眉を顰めるものの、それだけ。時間稼ぎが、自身の目的であることをよく理解していた。
しかし、ジリ貧であることに違いはない。どれだけ耐え忍べば良いのか、という基準がない以上はどこかで反撃に転じる必要はあった。
「火霊!」
イジネの呼び掛けに応えた火の精霊が、彼女の細剣を火炎で覆う。
目に見える火力を得たそれは、ラヴァの拳を弾き返し、素早く転じる。ラヴァを目指した鋭い刺突が放たれた。
「クハ!」
笑声とともにラヴァは、刺突を蹴り上げた。イジネはどうにか細剣を手放すことはなかったものの、その体勢が崩れる。
容赦の欠片の無い追撃。蹴り足を下ろすことで踏み込みとして、流れるように拳が放たれた。
「チッ!」
そこにセイが神聖魔法の結界を挟み込む。ラヴァの拳はそれに阻まれ、イジネはバックステップを踏んで、体勢を整えた。
「らぁ!」
苛立ち混じりに、結界を叩き割るラヴァ。
「あらあら、荒れているわね?」
そこに掛けられた女の声。思わずラヴァが振り向けば、そこにはエキドナの姿があった。
エキドナは、ジャックたちの案内を終えた後、此方の戦場に戻ってきたのだ。
「エキドナァ!」
「あなた、私と目を合わせて良いのかしら?」
ラヴァは感情のままにエキドナに襲い掛かった。しかし、エキドナは余裕の笑みでそれを迎える。
「シャア!」
気合一閃。しかし、ラヴァの拳はエキドナの幻影を通るだけだった。
「忘れたの?私の瞳は、幻惑の魔眼、故に我が異名は『蛇眼女帝』。既にあなたは私の虜」
「黙れぇ!」
幻影はラヴァに殴られるたびに、場所を変えて出現した。興奮状態にあるラヴァは、体力の損耗を度外視して、延々と殴り続ける。
「クソが!どこに隠れてやがる!」
息を乱す様子はなかった。それどころか、痲れを切らし竜の息吹を全方位に放ち始めた。
「雷霊よ」
そこにイジネの精霊魔法が放たれる。上空を黒雲が覆い、雷霆がラヴァを直撃し続ける。
「邪魔だぁ!」
ラヴァが拳を突き上げれば、雷霆諸共、黒雲が散らされる。
しかし、イジネの姿もまた、エキドナの幻惑に隠されている。
「何処にいやがる?」
流石に、頭が冷えてきたか。ラヴァは静かに気配を探り始める。
「チッ!」
それを乱すように、セイが光球を放つ。ラヴァはそれを避け、しかし、今度は鳴き声無しに幾つも放たれ、迫ってきていた。
「ッ!?」
光球が邪竜魔法を浄化するように、辺りを光の濁流で包み込んだ。
……沈黙があった。エキドナは、人蛇としての感覚でラヴァがまだ、健在であることを悟る。
「まだよ!っ!?」
イジネにそれを伝えるために声を張った直後、視界の端に黒棘を見る。
「きゃあ!?」
悲鳴を上げながら、吹っ飛ばされる。だが、ラヴァを視界から外すことはなかった。咄嗟に、一撃に合わせ、自ら吹き飛んだのだ。それでもなお、重い一撃ではあったが、余裕はある。
ラヴァは目を閉じていた。
エキドナが有する幻惑の魔眼は、実のところ視覚にしか作用しない。そして、エキドナ自身が対象を視認している必要がある。
先程の光の濁流は、実際にはラヴァが邪竜魔法を調整することで意図的に発生させたものであった。これでエキドナのアドバンテージは潰せた。しかし
風霊と地霊のチカラによって、匂いと音を消し去ったイジネの静かな一撃が放たれた。
「ちっ」
ラヴァは舌打ちしながらも、僅かに体を逸らす。イジネの一撃は、ラヴァの肩に生えた棘を掠るに留まった。
「熱か」
イジネは、直前でバレた要因をポツリと呟いた。
今度は、火霊のチカラも借りて、熱さえも消し去る。
これには、流石のラヴァも視覚を使うしかない。だが、目を開けた瞬間には、エキドナの幻惑に囚われるだろう。
故に、ラヴァは空に舞い上がった。相手は魔法が使えるため、安全圏というわけではない。だが、不利な接近戦よりかはマシだった。
特にそんな設定はないが、『隠れんぼ』は『隠恋慕』かもしれない。
さて、久しぶりにおねだりしておこうかな。
もうすぐ、完結なのに寂しいぜ!皆、オラに感想さ書いてけれ!
応援よろしく!
ジャック「……まぁ、いいか」
(今回は、斬られなかったぜ、やった!)




