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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第五章 不死の黄昏
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邪なるモノ

今年最後の投稿だぁ!

 【障壁(ウォール)】を殴る様子が透けて見える。


 ラヴァはすぐさま正気を取り戻し、魔力の壁に罅を入れた。

 ガラスが砕けるような音を立てて、【障壁】はその役目を終える。


「追わないのか?」


 静かに佇むラヴァに、イジネが問い掛ける。


「困難だ。そう判断した、ならば、確実に貴様を屠る手段を考えるまで」

「私一人が駆けつけて、向こうの戦況が変わると?」

「妖精族には奥の手があろう。それに貴様がそこに至っていなくとも、その鼠は厄介だ」

「……」

「チッ!」


 イジネが沈黙で返せば、その隣で飛んでいるセイが誇らしげに鳴いた。


「精霊たちよ、我が敵を妨げよ」


 まるで詠うかの如く、意外なことに先制はイジネだった。


 真っ先にその呼びかけに応えたのは、風霊(シルフ)地霊(ノーム)。すなわち、空気と大地である。


 ラヴァの足元は砂地獄へと変貌し、頭上から局所的かつ異常な圧の下降気流(ダウンバースト)が発生した。


 ラヴァはそれを静観した。既に、腰元まで砂地獄に沈み、異常な下降気流によって竜翼による脱出は困難。それであっても、表情に乏しい竜の貌に変化は無いように見える。


 やがて、空気中や地中の水分に僅かに潜む水霊(ウィンディ)たちも呼びかけに応え、砂地獄は底無し沼へと変貌する。水気を得て、粘性と重さを増したそれはラヴァの身体をさらに拘束する。


 仕上げとばかりに、遠方から言葉に応えた木霊(ドライアド)たちの強靭な蔓がラヴァの身体を雁字搦めに縛り付けた。


「流石は、森妖精。精霊の守人だ。ただの言葉に世界が応える精霊魔法。これに対抗するには、山妖精たちが扱う世界を改変する錬金魔法か、失われた古代魔法しかあるまい」

「余裕のある様子でそのようなことを言われても、反応に困るのだが」

「チッ!」


 ラヴァの饒舌に、イジネは怪訝に思う。その横で、セイはさらなる追い討ちとして、ラヴァを【十戒光束(ホーリー・バインド)】で拘束した。


「おや、その鼠は強いとは思っていたが、古代魔法の片割れを使うとは、これは驚きだ」

「気味が悪いな。お前に時間を掛ける理由はないはずだが?」


 相変わらず、抑揚の無い声でラヴァはマイペースに言葉を紡ぐ。

 イジネはその様子に思わず半歩下がり、細剣の鋒を向ける。


「ふむ?貴様ら妖精族は何故、そのようなチカラがあって世界に覇を唱えようとはしないのだ?優れた魔法に実際のところ魔術は勝てないはずだが」

「?長き時の流れの中、そんなことも忘れたのか。我らの魔法は、神霊より借り受けたモノ。悪戯に使えば、世界を乱し、滅びを呼ぶのだ。お前とて、竜魔族ならば、竜魔法を使えるだろうに、魔法の禁則を知らないはずがない」


「くっ……クハッ……クハハハははハハははは!!」


 突如として、堪え切れないとばかりに、狂ったように、ラヴァは大笑した。


「何がおかしい?」

「これが笑わずにいられるか!」


 今までの様子から一変。ラヴァは興奮した様子で言葉を発する。


「吸血鬼の血魔法には何故、禁則がないと思っている?あれが邪神の魔法だからだろう!」

「……お前、自らの信仰を捨てたのか?」

「その通り!我らを見捨てた神なぞ、何故信じられる!」

「見捨てた?待て、魔族の神とはすなわち、地母神ヘルだろう。それがお前たちを見捨てたというのはどういうことだ!」

「知るか!神々の事情など矮小なる我らにわかるわけがなかろう!だが、捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったもの!そもそも、()はチカラさえあれば、それで良かったのだ!見よ!これが邪神より借り受けし新たなるチカラ、邪竜魔法である!」


 その宣言の直後、ラヴァの身体からドス黒い瘴気が迸る。それは精霊にさえ害を与えるのか、イジネの目には逃げ惑う彼らと、逃げ遅れ変質するモノが見えた。


「チッ!」


 咄嗟にセイが【聖域(サンクチュアリ)】を展開する。どうやら、瘴気は負の魔力に由来するものらしい。【聖域】に避難した精霊たちは難を逃れ、また、変質してしまった邪霊たちが襲い掛かってくることもない。


 そもそも、負の魔力とは地母神ヘルの管轄する魔力である。だが、邪神の呪いはその中でも最も強力な怨念の魔力を変質させ、屍霊という新たな機構(システム)を世界に組み込んだ。

 相性の良さもあったのだろう。竜魔法はそもそも、地母神から借り受けたチカラ。そのため、利用する魔力は、負の魔力だった。そこから邪神に鞍替えして、魔法(プログラム)を書き換えるのは簡単だったのだ。


「チッ!」


 セイが邪霊たちの浄化を試みるが、それは意外にもあっさりと成功した。しかし、ラヴァの近くで瘴気に侵され続けているモノは浄化できなかった。


「周囲への影響はただの余波か?セイ、【祓魔の刃(ゾモロドネガル)】を頼む」

「チッ!」


 イジネの願いに、セイは即座に応えた。


 その間に、ラヴァは拘束を外し、空に上がった。


 纏う瘴気が散れば、そこにいたのは刺々しい攻撃的フォルムへと変貌を遂げた竜頭の魔人。


 イジネに向ける瞳は今までのような冷ややかなものではなく、怨念の昏い炎を湛えたギラギラとした瞳だった。


「貴様の魂まで喰ろうてやる!安心して屠られるガイイ!!」


 ラヴァは荒々しく、イジネに襲い掛かった。

来年もよろしくお願い致します。

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