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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第五章 不死の黄昏
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魔王城

 追手はなかった。アルトリアはしっかりと役割を果たしているらしい。


「さぁ、そろそろよ」


 どこか楽しげにエキドナが目的地が間近であることを教えてくれた。


「っ!?……あれが」


 急に開けた視界。それを見たイジネが思わず声を発する。


 四方に聳える漆黒の塔。その中心にあるのは、水晶にて建造されたのだろう暗黒宮殿。


 そう、暗黒宮殿だ。水晶で建造されているならば、本来なら、太陽光を反射してもっと幻想的な光景を見せているはずなのに。


 それは下からの暗黒光によって、暗黒に輝いていた。


 地底に何かあるのか?


「魔王城で良いのか?城下町もないが」


 イジネが問いを発する。それにエキドナが答えた。


「えぇ、あれこそが魔王城。魔王の居城よ。城下町がないのは、私も庇護を求めた時に聞いたのだけれど、あの城は蓋なのですって」

「蓋?」

「えぇ、それ以上は教えてくれなかったわ。何かわかるかしら、吸血鬼さん?」


 蓋?蓋ねぇ?まぁ、そうなのだろう。


「四方の塔と魔力的な繋がりが見える。何かを封じているのは確かだろうな。だが、光が漏れ出しているのもあって、どちらかというと魔王のチカラの源のように見える」

「ふ〜ん?」


 俺のわかったようなわからないような話に、エキドナは興味を失ったようだ。そして、マサミチの方に向いた。


「勇者様なら、こうビビっとこない?」


 小首を傾げて実にあざとい。


「い、いえ、そんなことはないです、はい」

『なに動揺してのよ、マサミチ!そんな女、ホッといてさっさと魔王を討滅しに行くわよ!』


 マサミチの反応に、その腰に佩かれたイルがガチャガチャと揺れながら抗議した。


「それは困る」

「「「っ!?」」」


 と唐突に横合いから言葉がスルリと入り込んだ。マサミチとイジネ、エキドナがそれぞれに身構える。


 そこにいたのは、竜頭の魔人。竜魔族の男だった。


 男は、背中の竜翼を羽ばたかせながら、ゆっくりと俺たちの前に降り立つ。


「あら、ラヴァじゃない?何をしにきたのかしら?」


「愚問だ。我の役割は陛下の近衛、なればこそ、門番も務めよう。貴様こそ何をしている、エキドナ?」


 冷たい瞳がエキドナを見据えていた。それに負けじとエキドナも妖しい瞳を向ける。


「貴方ほどの男が分からないはずはないわ、そうでしょう?」

「……肯定と受け取った。では改めよう。我は魔王国軍四天王『灰燼魔竜』ラヴァ・バハナーガ。勇者とその仲間たちよ、貴様らにはここで灰塵に帰してもらう」


 テンションの低い男だ。しかし、容赦が無い。既にその口腔の内には、竜の息吹(ドラゴン・ブレス)の熱量がメラメラと燃え盛っている。


「フゥゥゥ」


 まるで溜息のように、それは解放された。


 その温度を示すような白炎。ラヴァの吐息は、男の静かな様子とは裏腹に、荒々しい業火を広げる。もちろん、その先にいるのは俺たちだ。


「お前ら、集まれ!」


 俺の言葉に、皆が集まった。


 精霊魔術(シャーマニズム)風霊(シルフ)()加護(バリア)


 周囲を風と真空の結界が覆った。酸素を奪われた空間でさえも、魔力を燃料に竜の息吹は燃え盛った。しかし、次いで烈風がそれを押し返す。遂に、理に反しての燃焼は燃費でも悪いのか、業火は消え去った。


「ほう、我の息吹を難なく防ぐか」


 抑揚のない褒め言葉をラヴァが紡ぐ。


「チッ、褒めるなら、もうちょい感情を込めろ」

「……敵に褒められて嬉しいか?」

「時と場合による、大抵は挑発に聞こえるが?」

「だろう」


 いや、何が「だろう」なんだ!?


「ジャック」

「ん?」


 マイペースな男に心の中で突っ込んいたら、イジネがこちらに呼びかけてきた。


「ここは私に任せてくれないか?」

「……」

「魔王との決着は、早い方が良いだろう。いくらお前でも、戦闘をするとなれば、時間を消費する」


 俺の無言に、イジネが説得の言葉を続ける。


 彼女の述べる通りだ。実際、この状況ではそうするように想定されている。

 マサミチを放置するわけにはいかない。そのため、人類側の最大戦力であろう俺はマサミチの側を離れてはならない。

 そんな俺が残れば、全員が残ることになる。安全には勝てるだろうが、それには時間が掛かる。俺の基礎スペックはあくまで吸血鬼だ。無限に等しい魔力を持つものの、これには出力の面で制限がかかっている。聖龍の血によって、上限は上がったものの、それは変わらない。


 しかし、だ。イジネとあの男の実力は互角か、少し劣るかもしれない。そんな戦場に置いていけるか?


 俺の動向を探っているのか、現状、ラヴァは様子見しているようだが、それもそろそろ終わりだろう。


 迷っている暇は……


「チッ!」


 セイが鳴いた。そして、イジネの元に飛ぶ。


「セイ?」


 イジネが自分の元に来た者の名を不思議そうに呼ぶ。


「フッ……任せたぞ、相棒」

「?……ジャック?」


 俺は小さく呟いた。そして、訝しむイジネに声を掛ける。


「あぁ、任せた、イジネ。セイも一緒に戦ってくれるとさ」

「そうか……あぁ、任せろ」


 イジネは頼もしい笑みを浮かべて、そう答えた。


「行くぞ、マサミチ、エキドナ」

「えっ……あ、はい!」

「は〜い」


「行かせると思うのか?」

「押し通る」


 立ちはだかるラヴァに向かって、俺たちは駆けた。先頭は、イジネ。


 彼女は、神匠の鍛えた細剣を抜き放ち、胸の前に構える。


「愚か」


 一言の感想を添えて、ラヴァが拳を構える。


 もちろん、イジネでは力負けする。だが、抜けるまでは俺とて力を使う。何も問題はない。


 魔力操作(マナ・コントロール)障壁(ウォール)


「は……」


 紫色に透けた壁が、ラヴァの全方位を囲んだ。一瞬、惚ける。


 その横を俺たちは駆け抜けて、イジネとセイが振り返る。


 そして、俺とマサミチは、エキドナの案内に従い、魔王城へと踏み入った。

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