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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第五章 不死の黄昏
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進軍

 爆音の嵐を聞きながら、俺たちは意識を切り替える。

 いくらかの攻防で敵の数を減らしたのちに、砦の扉が開く算段となっていた。


 陣形は、アトリンテとレオニダスを前に、マサミチとイジネを中において、殿には俺とアナスタシア。


「競うか?」

「ふん、アタシが勝つがな」


 剛毅な二人のそんな会話だけが場に響いていた。


 ふと、マサミチに目をやれば、目を閉じて深呼吸していた。魔力を巡らせている。


 緊張を表すかのように不安定だったそれが定まった時、彼は目を開き、そして、砦の扉も開く。


「「行くぞ!」」


 異口同音。二人の戦士が猛然と突き進む。


 自然な動作でマサミチがそれに続き、イジネが弾かれたように動く。それを確認して、俺とアナスタシアも駆け出した。


 目の前に広がるのは、神話が如き戦争景色。


 空を飛ぶ戦姫と勇士の軍勢が、地を這う妖鬼の群勢を悉く滅ぼしてゆく。


 魔術飛び交うその只中に恐れを知らぬ戦士二人が、それぞれの大得物を振りかぶる。


「はぁぁあ!!」「オリャァア!!」


 衝撃波を伴うほどの一振りは、妖鬼の群勢に亀裂を入れる。その結果、当然と戦士二人は反応示さず飛び込んだ。


「主よ、今ここに守護の御力を【破魔護壁(ホーリー・ガード)】」


 魔術や流れ矢を防ぐための神聖魔術(サクラメント)をアナスタシアが詠唱した。


 順調だ。もう群勢の中ほどまで来ている。ほとんどの妖鬼が前衛二人に蹴散らされ、その威容に呑まれてこちらに襲いくるモノはいない。


 しかし、それで終わりはしない。妖鬼たちの動きが変わる。戦況を見た鬼人族が命令を下したのだろう。

 未だ怯えの色が見えるものの、妖鬼たちは前衛二人を避け、横合いからマサミチを狙う。


 精霊魔術(シャーマニズム)嵐壁(テンペスト・ウォール)


 メンドーなので攻性結界魔術を行使した。風刃で構成された嵐の壁が、近づく妖鬼を斬り刻み、射かけられる矢や魔術を防ぐ。


 ふと、隣からジト目を向けられた気がするが気のせいだろう。そもそも、頭上までは【嵐壁】は対応していない。あんたの魔術も無駄にはなっていない。


 やがて、妖鬼の群勢を抜けた。


 そこにいた鬼人たちが驚愕の表情を浮かべながらも、各々の得物を構える。精鋭なのだろう。しかし、前衛の二人には敵わない。


「邪魔だ!」「死ねぇ!」


 妖鬼のときと変わらない速度で突破した。


 不意に影が掛かる。


 頭上、確認するまでもなく、俺たちは飛び退いた。


 衝撃音と土煙。姿を隠した敵が得物を一振りすれば、土煙が晴れた。

 立つところは陥没していた。


「魔王国軍四天王『鬼謀軍師』イブキ・アラハバキ。これ以上、貴様らを進めるわけにはいかん。通りたくば、俺の屍を越えろ」


 大太刀を肩に担ぎながら、堂々たる名乗りを上げる鬼人。

 他の鬼人族と比べて、大きいわけではない。どちらかと言えば、小さいかもしれない。だが、発する威圧感は別格。四天王に相応しい。


「ほう、少しは骨がありそうだね、アタシが相手してやるよ」

「おいおい、勝手に決めるんじゃねぇよ、ソイツは俺の獲物だ」


 互いに見合うは一瞬。


「早い者勝ちだよ!」「違いねぇ、な!」

「ぐぅ……」


 突っ込んだ二人の剛撃を受けて、イブキが怯む。


「じゃあ、任せた。マサミチ行くぞ」


 その横を悠々と駆けて、俺たちは魔王城へと先を急いだ。


「待てっ!」

「よそ見とは」「余裕じゃねぇか!」


 イブキが思わずといった様子で声を上げる。それを獰猛な笑みで挑発する猛獣二匹。


「くっ……お前たち!何をしている、今すぐ追いかけろ!」


 鍔迫り合いで徐々に押し負けながらも、イブキは猛獣二匹の威容に呆然としていた部下に命じる。彼らは弾かれたように、勇者一行を追いかけていった。


 ……


「追ってきたな」

「では、私は予定通りに足止めを」


 その言葉に、マサミチが振り向く。


「大丈夫ですよ、マサミチ殿」

「……はい、生きて会いましょう」

「えぇ、皆さんご武運を」


 そして、アナスタシアが足を止めて後背より迫る敵に振り向く。


 俺たちはいつの間にか姿を現したエキドナの案内に従って、魔王城を目指し駆け続ける。

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