進軍
爆音の嵐を聞きながら、俺たちは意識を切り替える。
いくらかの攻防で敵の数を減らしたのちに、砦の扉が開く算段となっていた。
陣形は、アトリンテとレオニダスを前に、マサミチとイジネを中において、殿には俺とアナスタシア。
「競うか?」
「ふん、アタシが勝つがな」
剛毅な二人のそんな会話だけが場に響いていた。
ふと、マサミチに目をやれば、目を閉じて深呼吸していた。魔力を巡らせている。
緊張を表すかのように不安定だったそれが定まった時、彼は目を開き、そして、砦の扉も開く。
「「行くぞ!」」
異口同音。二人の戦士が猛然と突き進む。
自然な動作でマサミチがそれに続き、イジネが弾かれたように動く。それを確認して、俺とアナスタシアも駆け出した。
目の前に広がるのは、神話が如き戦争景色。
空を飛ぶ戦姫と勇士の軍勢が、地を這う妖鬼の群勢を悉く滅ぼしてゆく。
魔術飛び交うその只中に恐れを知らぬ戦士二人が、それぞれの大得物を振りかぶる。
「はぁぁあ!!」「オリャァア!!」
衝撃波を伴うほどの一振りは、妖鬼の群勢に亀裂を入れる。その結果、当然と戦士二人は反応示さず飛び込んだ。
「主よ、今ここに守護の御力を【破魔護壁】」
魔術や流れ矢を防ぐための神聖魔術をアナスタシアが詠唱した。
順調だ。もう群勢の中ほどまで来ている。ほとんどの妖鬼が前衛二人に蹴散らされ、その威容に呑まれてこちらに襲いくるモノはいない。
しかし、それで終わりはしない。妖鬼たちの動きが変わる。戦況を見た鬼人族が命令を下したのだろう。
未だ怯えの色が見えるものの、妖鬼たちは前衛二人を避け、横合いからマサミチを狙う。
精霊魔術【嵐壁】
メンドーなので攻性結界魔術を行使した。風刃で構成された嵐の壁が、近づく妖鬼を斬り刻み、射かけられる矢や魔術を防ぐ。
ふと、隣からジト目を向けられた気がするが気のせいだろう。そもそも、頭上までは【嵐壁】は対応していない。あんたの魔術も無駄にはなっていない。
やがて、妖鬼の群勢を抜けた。
そこにいた鬼人たちが驚愕の表情を浮かべながらも、各々の得物を構える。精鋭なのだろう。しかし、前衛の二人には敵わない。
「邪魔だ!」「死ねぇ!」
妖鬼のときと変わらない速度で突破した。
不意に影が掛かる。
頭上、確認するまでもなく、俺たちは飛び退いた。
衝撃音と土煙。姿を隠した敵が得物を一振りすれば、土煙が晴れた。
立つところは陥没していた。
「魔王国軍四天王『鬼謀軍師』イブキ・アラハバキ。これ以上、貴様らを進めるわけにはいかん。通りたくば、俺の屍を越えろ」
大太刀を肩に担ぎながら、堂々たる名乗りを上げる鬼人。
他の鬼人族と比べて、大きいわけではない。どちらかと言えば、小さいかもしれない。だが、発する威圧感は別格。四天王に相応しい。
「ほう、少しは骨がありそうだね、アタシが相手してやるよ」
「おいおい、勝手に決めるんじゃねぇよ、ソイツは俺の獲物だ」
互いに見合うは一瞬。
「早い者勝ちだよ!」「違いねぇ、な!」
「ぐぅ……」
突っ込んだ二人の剛撃を受けて、イブキが怯む。
「じゃあ、任せた。マサミチ行くぞ」
その横を悠々と駆けて、俺たちは魔王城へと先を急いだ。
「待てっ!」
「よそ見とは」「余裕じゃねぇか!」
イブキが思わずといった様子で声を上げる。それを獰猛な笑みで挑発する猛獣二匹。
「くっ……お前たち!何をしている、今すぐ追いかけろ!」
鍔迫り合いで徐々に押し負けながらも、イブキは猛獣二匹の威容に呆然としていた部下に命じる。彼らは弾かれたように、勇者一行を追いかけていった。
……
「追ってきたな」
「では、私は予定通りに足止めを」
その言葉に、マサミチが振り向く。
「大丈夫ですよ、マサミチ殿」
「……はい、生きて会いましょう」
「えぇ、皆さんご武運を」
そして、アナスタシアが足を止めて後背より迫る敵に振り向く。
俺たちはいつの間にか姿を現したエキドナの案内に従って、魔王城を目指し駆け続ける。




