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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
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魔術王の遺産

 宴にしても、やはり板張りの広間で円になるように座り、中心の空いたスペースで、舞妓なり、道化なりが芸事をするような代物だ。供された食事は、白米と焼き魚、味噌汁に、お浸しと、ほぼ和食。まぁ、マサミチは喜んでいるので、謝罪という目的は達成されたことだろう。


「月下の、少し良いか」


 和酒で酔ったらしいイジネが、いつの間にか紛れ込んだエキドナと余興をやっているのを眺めていれば、リシが声を掛けてきた。


「チッ?」


 特に断る理由はないので、セイを肩から下ろし、静かに立ち上がる。セイも、美味い食事から離れるつもりはないのか、疑問の声を上げた後は膳に向き合った。


「こちらだ」


 リシの案内に従い、宴の騒めきが遠く聞こえるような、離れの一室に通される。


「ようこそ、聖下の後継様、我らミズホの民、貴方様をお待ち致しておりました」


 そうやって、頭を下げるのは、大公との謁見のおり、大公の後ろに控えていた老齢の龍人。


 しかし、聖下の後継か。聖龍にも似たようなことを言われたな。


「……聖下とは、魔術王のことか」

「はい、その通りにございます。もはや、長き年月の過ぎ去りしこと、真実を知る者は私と、大公家とそれに近しき方々のみ。それでも、ミズホという国は、かつて聖下より受けた願いを叶えるために、この日まで存続してまいりました。聖下が【星詠(ホロスコープ)】により予見した遥か未来の救世のために」


 未来か。それがすなわち、今なのだろう。


「貴方の名は?」

「我が名、かつて聖下より賜りし名は、ヤマト。大いなる平和を託す者として、聖下はそう名付けられました」


 使命を果たせることに昂ったか、ヤマトは皺の寄った瞳よりポロポロと涙を流す。


「本当に、俺なのか。俺は、吸血鬼だ」

「いいえ、貴方です。貴方なのです。その御姿こそがその証。たとえ、俗世には怪物と畏れられるような種族だったとしても関係ない。貴方のその瞳こそが私に確信を抱かせる」

「……わかった。貴方の使命、引き継ごう」


 強く見つめるヤマトに、了承を伝える。

 それを聞いたヤマトは、涙を拭き取り、一つの小箱を持ち出す。


「こちらが、聖下がこの時代に遺せし代物。知ることで未来が変わることを恐れ、詳細は私もわかりませんが、常に肌身離さず身につけていただくようにお願い致します」


 小箱を開けば、中に収まっていたのは真鍮の指輪だった。紋様はない。シンプルな輪。


 聖書曰く、ソロモン王の指輪は、神が授け、天使と悪魔を従属させるチカラと動物たちと会話するチカラを齎した叡智の結晶。


 しかし、この世界におけるこれは一体、何なのだろうか。おそらく、指輪の形を取っているのは、聖書の伝説を魔術王が知っていたからだろう。


「どうぞ」


 眺めていると、ヤマトが箱ごと指輪をこちらに寄せる。


 まぁ、害はなさそうだ。


 俺は左手で指輪を取り、内側に何も彫られていないのを確認して、右手の中指に嵌めた。


 ……指のサイズにピッタリと合ったものの、それ以外に変わったところはない。なんだ、偽物か?いや、魔力が感ぜられる。かなり繊細な代物だ、本物だろう。


「どうやら、時が来るまでは何も反応を示さぬようだな」

「そのようですね。ささ、どうぞ、宴の方にお戻りください」

「あぁ……」


 ヤマトの言葉に従い、立ち上がり背を向ける。そして、思い立ち僅かに振り返る。


「長き時の忠心、見事だ、ヤマト。後は任せろ」

「っ!?ははっ……」


 今度こそ、俺は立ち去った。

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