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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
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魔術王の黒歴史

「えぇ!?昨日の夜にそんなことが!?」


 明くる朝。朝食をつつきながら、昨夜の話をすれば、マサミチが大袈裟に驚いた。


「行儀が悪いぞ、落ち着け」


「えっ、でも……その、はい」


 昨夜の騒ぎにとにかく何か言いたいようではあったが、それが言葉にならなかったか、結局、俺の言葉に従ってマサミチは浮かした腰を落ち着ける。


 そこへ、納豆を延々と回していたコジロウが声を掛ける。


「まぁまぁ、何事もなく、良かったではないですか、マサミチ殿。ジャック殿は護衛の務めを果たしただけです」


「えぇ、そう、ですね。ジャックさん、ありがとうございます」


 なるほど。マサミチは、どうやら自身が昨夜の騒ぎを気づかなかったこと、すなわち、実力不足を気にしているらしい。だが、まぁ、一年どころか、半年も経たぬ異世界生活だ。直接戦闘ならともかく、気配に関することはそう簡単には身につかない。


「あぁ、仕事だ。……それより、コジロウ、お前いつまで納豆を回すつもりだ、臭くてかなわん」

「コジロウ殿、私もです……」


「ふむ、そうですか、これが美味しいのですが」


 種族柄、鼻の良い俺とイジネの苦言に、剣聖は目に見えぬ速さで納豆を平らげた。


 技量の無駄遣いだ……。


 ちなみに、イルは庭で日光浴をしており、セイは仲居さんに愛嬌を振り撒いて餌を確保していた。お前、既に一食平らげたろうに。


 ……


 昨夜、リシの言った通り、朝食後少しして、大公家から迎えが寄越された。

 時代劇でよく見るような籠だったのは、何かが違うと苦笑したが。マサミチはそんな違和感を感じないのか、目を輝かせていた。


 エッサホイサと運ばれたのは、ミズホの中心である和城。板張りの広い部屋は、これまた時代劇で見るような空間だ。奥に畳で少し高くなったところがあり、そこにおそらく、大公が座ることになるのだろう座布団があった。


 ……やはり、何かが違う気がする。


 俺たちは、奥から遠く入り口近くの真ん中で、茣蓙に座らされた。左右には、大公家に仕えるのだろう家臣団。俺から見て右手に、リシたちがいる。どうやら、右手の者たちは武官らしく、皆、帯刀している。左手の者は、何故か平安貴族の如き格好をした文官だった。


 ……何やってんだ、ソロモン。


「上様のおな〜り〜」


 どうでも良いことを考えていたら、準備が整ったらしい。役人の一人のその声に、家臣団一同、頭を下げる。俺たちもそれに倣って、一拍遅れで頭を下げた。


 衣擦れの音をさせながら、ゆっくりと大公が奥に近い障子を開いて入ってくる。だが、音からして一人ではない。大公に近しい者も一緒に入ってきているようだった。


 大公の座る気配がする。


「面をあげよ」


 イメージよりも若い声が、厳かに響く。家臣団が頭を上げる気配を感じて、俺たちも上げる。


 視界に入ったのは、紫をベースに金で飾られた着物と袴を着る美丈夫。艶やかな黒髪に鋭い眼光をした黒瞳。帯刀もしており、そして、それが飾りではないことが分かるほどの座り方と覇気。


 武仙国家、ね。


「ようこそ、歓迎しよう、勇者殿とその一行の方々。我が、ミズホの国主、イエナガ・カミイズミである」


「「ゴハッ!?」」


 俺とマサミチは、その名前に思わず吹き出してしまった。


「おや、どうしたのだ?」


「いえ、失礼致しました」


 俺の言葉に、不思議そうな顔をしながら、イエナガは話を続けることにしたようだ。


「しかし、此度は申し訳ない。まさか、我が国に下衆人が入り込もうとは。長年の平穏が、油断を生んでしまったようだ」


「本当ですよ、大公様。まぁ、勇者殿の訪問はお伝えしていなかったので、別に構いませんが」


 イエナガの謝罪に、剣聖がおそらく帝国の立場で言葉を述べる。まぁ、あいつの故郷だから、大ごとにはならんだろう。


「いやはや、コジロウ殿も人が悪い。お知らせくだされば、ご歓迎致しましたのに」


 文官の一人が口を挟む。


「ふふ、すいません。静かに過ごしたかったものですから」


「さて、謝罪も兼ねて、歓待の宴を開くので、勇者殿とその一行の方々には是非とも楽しんでいただきたい」


 大公の言葉に、俺たちは礼を述べて、この場はお開きとなり、宴の場に案内された。

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