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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
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三つ巴

 深夜。何処からか、虫の鳴き声を聞きながら、縁側に腰掛けていた。

 空には、人を馬鹿にしたような笑みを浮かべた三日月が輝いていた。


 マサミチたちは、すでに布団を被って眠っている。


「気づいたか」

「えぇ」


 コジロウが側に立っていた。


「ここは任せる」

「はい、お任せを」


 ゆらりと立ち上がる。静かに、その場から飛んだ。


 ……


 勇者一行が泊まった旅館は、仮面を付けた集団に囲われていた。


 白いシンプルな仮面の中で、一人だけ狐の面を付けた者がいる。ミズホの和装に身を包む狐面が、合図を送った、その瞬間。


 別の集団が襲いくる。


「チッ」


 狐面の舌打ち。その背後に迫る氷の矢。


 くるりと振り返りながら、抜刀。初撃を打ち払う。


 俺は、空よりその背に急襲した。


「ッ!?」


 悪寒でも感じたか、狐面が前方に走り抜ける。


 空を切った夜刀姫を地面スレスレでとどめて、低空飛行で狐面を追った。


 脚と翼。その差は歴然。


 狐面もそれに気づいて、横に跳ぶ。狐面が外れたことで、その先にあった氷の矢が俺に迫る。慌てはしない。魔力の反応はあった。すべて切り払い、止まった。


 狐面の気配が夜闇に紛れた。


 頭上より迫る幾十の氷の矢。前方に飛べば、左より迫る狐面の唐竹割。速度を上げる。狐面は空振り。その勢いのまま、駆ける。


 っ疾い。


 背後より、狐面の横薙ぎ。宙返りしつつ、上下逆さまの姿勢で、夜刀姫を合わせた。


 狐面は、迫り合いをする気がないらしい。刃を滑らせ、俺の側を走り抜ける。また、夜闇に紛れた。


 背後より魔力反応。


 片手を地面につけ、押した。その反動で氷の矢に向き合う。


 占星魔術(アストロロギア)月鏡結界(リフレクト・ムーン)


 俺を護るだけなので、あの時より規模は小さい。


 魔力を稼ぐ必要もないので、シンプルに氷の矢を跳ね返す。


 砂を軋ませる音。狙撃手が動いた。


「【氷華の円盾(アイス・ブロッサム)】!」


 狙撃手に迫った狐面の刃は、魔術の盾に防がれる。矢のように放たれる盾に、狐面は押される。


「『氷麗姫(つららひめ)』?何故、あんたが」

「五月蝿い、吸血鬼!貴様は、殺す!」


 狙撃手の方は、魔剣大会の時に見たシトナ・イカームだった。

 シトナは、こちらに殺意と憎悪を向ける。片方の集団は、吸血鬼狩りヴァンパイア・ハンターというわけか。おそらく、吸血人(ダンピール)も所属しているのだろう。それでこちらの正体を知った。


 仮面を付けた集団。十中八九、〔仮面舞踏会(マスカレード)〕の連中は、劣勢。吸血鬼狩りの練度が高い。今回、動いている〔仮面舞踏会〕のほとんどが吸血鬼。対策で固められた集団では、こうもなる。剣聖は何もしないまま、終わりになりそうだな。


 だが、狐面は吸血鬼では、ない。


 なんだ?あの狐は、幻獣か。


 それは、狐面の周囲に浮いていた。


「死ね!」


 シトナの矢が迫る。姿を捉われたからか、狙撃はやめるようだ。常に移動しながらの射撃。


 一本払おうとも、今度は別方向からまた、迫る。面倒だな。


 精霊魔術(シャーマニズム)風霊(シルフ)()加護(バリア)


 すべての矢が、風霊の起こす烈風に弾かれる。


 狐面は何処だ。


 ッ!?背後からの殺気。前方に飛んだ。


 振り向けば、薙いだ姿勢の狐面。


 相変わらず、狐の幻獣が浮いていた。


 目が合った。


『姉を止めてくれ』


 姉。……守護霊か。おそらく、狐面は彼に気づいていない。


「あんたは、何を望んで剣を振るう?」


 答えはない。静かな踏み込み、こちらに迫る刺突。


 横にズレる。が、連撃。


 夜刀姫で流しつつ、隙を窺う。


 ただ、この戦いは、三つ巴。


 頭上より、矢の雨が降り注ぐ。


 互いに、背後へと離脱。離脱点に迫る矢。同じく、狐面にも。


 狐面は払った。俺は跳んで、駆けた。まずは、シトナの無力化とする。弟くんの頼みもある。狐面はゆっくりとやろう。

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