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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
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人間らしさ

 目を開けば、木造らしき執務室にいる。


「どこだ、ここ?」


 僕は何でこんなところにいるのだろうか?


 ……そうか!これは夢だ。しかし、何で執務室?


 辺りを見回す。特に気になるものはない。扉はビクともしない。自分の姿はよくわからない。


 革張りの椅子に腰掛けてみた。ギュッといった感じの革特有の音を軋ませながら、柔らかく僕の体重を受け止めた。


 天井を仰げば、満天の星が輝いている。宇宙(ソラ)が見えていた。


「何だ、あれ?」


 何とは無しにジッと眺めていたら、視界の中心に何かがキラリと光る。


「指輪、か?」


 そうそれは指輪。どこかで見覚えのある……


「智紀、朝だよ!」


 パチリと目を開く。


「んわ……?夢を見ていたような?」


「智紀!」


「はーい、起きまーす」


 母の声に返事をして、僕は取り敢えず身支度を整える。


 ……


 ?見上げれば、ママが笑っていた。


 ボクはママに手を引かれて、公園に遊びに行くところだ。


「ママ」

「な〜に、トモキ?」

「えへへ、呼んでみただけ」

「そう、もう少しだからね」

「うん!」


 何でだろう、ママはママの筈なのに、なんだか確認しないと不安になった。


 公園に着いた。


 ボクは一目散にブランコ目掛けて走る。


 ボクは運が良い、ブランコには誰もいない。


「そーれ!」


 スイスイと調子良くブランコを漕ぐ。でも、立ち乗りはしない。あれをした子がこの前、落っこちて痛そうだった。


 チョロチョロと他の子たちも遊びに来た。ママが他の子のママと会話してる。


「ブランコ、代わって?」

「うん、ちょっと待って」


 そんな声を聞いた。だから、漕ぐのをやめてゆっくりとブランコの動きを止める。しっかりと止まってから降りた。


「はい!」

「ありがとう!」


 その子がブランコに乗ろうとした。


「イェーイ!ブランコーー!」


 生意気な子が横取りした。


「あ……」


 悲しそうなその子。ボクは生意気な子のブランコを止めた。勢いはまだなかったから簡単だった。


「なんだよ、オマエ!」

「順番、守れよ。君の前にその子だよ」

「いやだねー、早いもん勝ちだよー」


 生意気な子は譲る気がなさそうだ。ママたちは立ち話に夢中で気づいてない。


 むぅ。


「あの、良いよ。ありがとう、向こうで一緒に遊ばない?」

「む?……わかった」


 その子の言葉に渋々従った。


 砂場遊びを楽しんだ。


「ねぇみてみて」

「なぁに?」


 その子が手のひらにのせていたのは、指輪だった。


「あげる」

「くれるの?」

「うん!」


 お礼を言って受け取った。


「トモキー、帰るわよー」

「はーい!……またね」

「うん、またね」


 ママと手を繋いで帰った。


 ……



「楽しかった?」

「うん!でもね、ブランコでね、えっと、ボクの次に乗るはずだった子がね、他の子にブランコを横取りされちゃったんだ」

「あら?そうだったの。気がつかなかったわ、トモキ、それでどうしたの?」

「えっとね、横取りした子に順番を守るように言ったんだけどね、全然、聞いてくれなくて、取られた子がもう良いよって言ったから、その子と砂場で遊んだの」

「そうなの、でも、偉いわ。トモキはいい子ね」

「うん!」


 ……


 ?ここどこ?ママ?


「すまないが、君のママはいないよ」

「だれ?」


 背の高い男の人だ。ローブをしていて何だか魔法使いみたい。


「僕は魔法使いではなく、魔術師だよ?」


 ???


「あぁ、そうだね、その精神ではわからないか」


 男の人がボクを抱き上げる。


「指輪をしてごらん?それでわかるから」


 指輪?砂場で見つけたの?


「そうだよ」


 ポッケから指輪を取り出して、右手中指に嵌めた。


「ん……ここは、あんたの記憶か?聖下」

「ふふ、そうさ。僕が君の身体の本来の所有者だ。ジャック・ネームレス」

「ハァ……妙な気分だ。俺に親はいない、か」

「そういうことだ。なまじ、僕の知識記憶が残っていただけに、人間らしさ(おや)を求めたようだが、君は不死者で、親はいないんだ、すまないがね」


 聖下は本当に、申し訳なさそうに言葉を吐いた。


「それで、俺が誕生した理由は?」

「他の不死者と同じさ。死体を放置していたから。それだけだ」

「……まぁ、いい。それでどうすれば、クリアなんだ?」

「クリアしたいのかい?」

「……」

「それが答えだ」


 ……


 僕は……。


 布団から起き上がり、制服の胸ポケットをまさぐる。


「あった」


「智紀?こんな時間にどうしたの?」


 母が扉を開けて入ってきた。


「それはなに?智紀」


 僕の手に握られた指輪を母は見とがめた。


「えっと……その……」

「智紀、お母さんに見せて」

「あ……ごめん」


 母の手が伸びてくる。僕は咄嗟に下がって指輪を右手中指に嵌めた。


「……俺に、親はいないよ」

「……そう、それで良いのね?」

「あぁ」


 “愛しているわ”


 聞こえた気がした。


 ……


 意識を取り戻す。


 ?何だ、この感触。後頭部が何か柔らかいものの上に?


 目蓋を上げる。


 イジネの瞳と目があった。


「あ……」


 面白いほど紅潮するイジネの顔。


「……ありがとう」

「!?……どう、いたしまして」


 イジネは、手で顔を隠した。

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