人間らしさ
目を開けば、木造らしき執務室にいる。
「どこだ、ここ?」
僕は何でこんなところにいるのだろうか?
……そうか!これは夢だ。しかし、何で執務室?
辺りを見回す。特に気になるものはない。扉はビクともしない。自分の姿はよくわからない。
革張りの椅子に腰掛けてみた。ギュッといった感じの革特有の音を軋ませながら、柔らかく僕の体重を受け止めた。
天井を仰げば、満天の星が輝いている。宇宙が見えていた。
「何だ、あれ?」
何とは無しにジッと眺めていたら、視界の中心に何かがキラリと光る。
「指輪、か?」
そうそれは指輪。どこかで見覚えのある……
「智紀、朝だよ!」
パチリと目を開く。
「んわ……?夢を見ていたような?」
「智紀!」
「はーい、起きまーす」
母の声に返事をして、僕は取り敢えず身支度を整える。
……
?見上げれば、ママが笑っていた。
ボクはママに手を引かれて、公園に遊びに行くところだ。
「ママ」
「な〜に、トモキ?」
「えへへ、呼んでみただけ」
「そう、もう少しだからね」
「うん!」
何でだろう、ママはママの筈なのに、なんだか確認しないと不安になった。
公園に着いた。
ボクは一目散にブランコ目掛けて走る。
ボクは運が良い、ブランコには誰もいない。
「そーれ!」
スイスイと調子良くブランコを漕ぐ。でも、立ち乗りはしない。あれをした子がこの前、落っこちて痛そうだった。
チョロチョロと他の子たちも遊びに来た。ママが他の子のママと会話してる。
「ブランコ、代わって?」
「うん、ちょっと待って」
そんな声を聞いた。だから、漕ぐのをやめてゆっくりとブランコの動きを止める。しっかりと止まってから降りた。
「はい!」
「ありがとう!」
その子がブランコに乗ろうとした。
「イェーイ!ブランコーー!」
生意気な子が横取りした。
「あ……」
悲しそうなその子。ボクは生意気な子のブランコを止めた。勢いはまだなかったから簡単だった。
「なんだよ、オマエ!」
「順番、守れよ。君の前にその子だよ」
「いやだねー、早いもん勝ちだよー」
生意気な子は譲る気がなさそうだ。ママたちは立ち話に夢中で気づいてない。
むぅ。
「あの、良いよ。ありがとう、向こうで一緒に遊ばない?」
「む?……わかった」
その子の言葉に渋々従った。
砂場遊びを楽しんだ。
「ねぇみてみて」
「なぁに?」
その子が手のひらにのせていたのは、指輪だった。
「あげる」
「くれるの?」
「うん!」
お礼を言って受け取った。
「トモキー、帰るわよー」
「はーい!……またね」
「うん、またね」
ママと手を繋いで帰った。
……
「楽しかった?」
「うん!でもね、ブランコでね、えっと、ボクの次に乗るはずだった子がね、他の子にブランコを横取りされちゃったんだ」
「あら?そうだったの。気がつかなかったわ、トモキ、それでどうしたの?」
「えっとね、横取りした子に順番を守るように言ったんだけどね、全然、聞いてくれなくて、取られた子がもう良いよって言ったから、その子と砂場で遊んだの」
「そうなの、でも、偉いわ。トモキはいい子ね」
「うん!」
……
?ここどこ?ママ?
「すまないが、君のママはいないよ」
「だれ?」
背の高い男の人だ。ローブをしていて何だか魔法使いみたい。
「僕は魔法使いではなく、魔術師だよ?」
???
「あぁ、そうだね、その精神ではわからないか」
男の人がボクを抱き上げる。
「指輪をしてごらん?それでわかるから」
指輪?砂場で見つけたの?
「そうだよ」
ポッケから指輪を取り出して、右手中指に嵌めた。
「ん……ここは、あんたの記憶か?聖下」
「ふふ、そうさ。僕が君の身体の本来の所有者だ。ジャック・ネームレス」
「ハァ……妙な気分だ。俺に親はいない、か」
「そういうことだ。なまじ、僕の知識記憶が残っていただけに、人間らしさを求めたようだが、君は不死者で、親はいないんだ、すまないがね」
聖下は本当に、申し訳なさそうに言葉を吐いた。
「それで、俺が誕生した理由は?」
「他の不死者と同じさ。死体を放置していたから。それだけだ」
「……まぁ、いい。それでどうすれば、クリアなんだ?」
「クリアしたいのかい?」
「……」
「それが答えだ」
……
僕は……。
布団から起き上がり、制服の胸ポケットをまさぐる。
「あった」
「智紀?こんな時間にどうしたの?」
母が扉を開けて入ってきた。
「それはなに?智紀」
僕の手に握られた指輪を母は見とがめた。
「えっと……その……」
「智紀、お母さんに見せて」
「あ……ごめん」
母の手が伸びてくる。僕は咄嗟に下がって指輪を右手中指に嵌めた。
「……俺に、親はいないよ」
「……そう、それで良いのね?」
「あぁ」
“愛しているわ”
聞こえた気がした。
……
意識を取り戻す。
?何だ、この感触。後頭部が何か柔らかいものの上に?
目蓋を上げる。
イジネの瞳と目があった。
「あ……」
面白いほど紅潮するイジネの顔。
「……ありがとう」
「!?……どう、いたしまして」
イジネは、手で顔を隠した。




