竜鱗族の事情
ちょっとした追加設定
人狼と魔女の総称を魔狼族。
魚人と人魚の総称を魚鱗族。
蜥蜴人と人蛇の総称を竜鱗族。
とします。まぁ、総称がないと登場させるときに種族話で不便なのでね。つまり、今回は、亜人さんの登場なのですー、ではではどうぞー
揺らめきより現れ出でるは、深き森のような深緑色の髪を揺らし、瞳孔の縦に割れた灼眼の美女。その下半身は蛇身となっており、彼女が竜鱗族の女、人蛇であることを示していた。
隠密のためか、肉感的なスタイルを際立たせる灰色の装束を身に纏っている。
チロチロと蛇舌をチラつかせながら、憂い顔で大扉に凭れ掛かった。
「はぁ、もう、私、これでも暗殺者なのよ?自信無くしちゃう……」
女の声は、とても敵対しているような調子ではない。だが、女の名乗る通りの職業ならば、感情など当てにはならないだろう。
「誰だ?」
前に出て、誰何する。
女は、今度は明るい表情を浮かべて答えた。
「私は、魔王国軍四天王が一人、第四軍諜報部隊を預かる者、『蛇眼女帝』エキドナ・アマリリスよ♪」
「魔王軍四天王……」
エキドナの名乗りに、勇者がポツリと零した。
俺は、夜刀姫を血流より具現化した。
『出番?』
「そうだ」
次いで、イジネが構え、遅れてマサミチが抜剣する。イルは、セイを抱えてネブカの元に。
「アァン、そんな警戒しないでよぉ。私、直接戦闘は苦手なんだからぁ」
今度は間延びしたような調子で、いちいち曲線的な仕草をしながら喋る。
大扉に背を預けてズルズルと身体を滑り落とす様は、どこか頽廃的だ。一見、言葉の通り、戦闘をする気がないように見える。だが、下半身が蛇身であるために、人類には思いもよらぬ動きもできるだろう。体勢が崩れているように見えるのは、ブラフの可能性もある。
それに先の隠密は、気配ではなく、姿そのものを消していた。真理眼で見る限り、今の姿が偽りでないことは確かだが、そのカラクリはエキドナの魔眼によるものだ。
幻惑の魔眼。
魔眼は種族的特徴として現出するものも含めて、すべてが強力だ。通常の方法では、まず抵抗できない。エキドナのそれは、人蛇であるから彼女独自の才能だが、その効果は視界内に幻を見せるというもの。俺たちを視界に捉えている以上、常にそれを警戒しなければならない。
「そう、警戒しないでよぉ……」
しかし、エキドナは先程から情けない姿を見せるばかりであった。
「……仕事は?」
「勇者の監視と隙をついての暗殺でーす♪」
マサミチの表情が少し強張った。
「アハ!勇者ちゃん、可愛い!」
エキドナはその反応を面白がるだけだった。
「……なぁ、ジャック」
「言うな」
「……」
イジネの呆れた調子に言葉を返し、一つの魔法を発動させる。
血魔法【呪腕凍土】
夜刀姫の鋒から放たれた俺の血液が、エキドナの蛇身に付着。組み込まれた術式に従い、それを起点に急激な熱吸収が実行される。瞬く間に、蛇身とそれと接触した床とが、凍りついた。
この場にいる面々に隠し立てする必要はない。そのため、種族的に最も威力の高い血魔法での拘束を選択した。
「あらら?」
身体が冷えたため、少し目がトロンとしたエキドナに危機感はない。
「あなた、吸血鬼だったのね?私を眷属にする気はないかしら?」
エキドナは、あっけらかんとのたまった。
「それは、魔王国を裏切るということか?」
「そうよ?」
不思議そうに首を傾げて答えるエキドナ。その調子は、何を当たり前のことを、とでも思っていそうだ。
「忠誠心は?」
「ないわよ。私は、種族の存続のために魔王国に参戦しているのだから」
そこにあったのは、真面目な表情だった。
竜鱗族の存続か。まぁ、人蛇はともかく、男性体である蜥蜴人はほとんど蜥蜴の見た目だ。その姿は、人類側からすれば、恐ろしげに映るため、魔族側の方が受け入れられやすかったということだろう。
「あなた、亜人の保護を宣言しているみたいじゃない?それに、その強さも確認できたしね?戦わないに越したことはないわ」
魔王のところでは、参戦する義務がある。俺の保護下ならば、確かに闘う必要はない。ならば、当然、後者を選ぶだろう。もちろん、勢力規模が拮抗していることが条件ではあるが。
理には叶っている。
「……なるほど、わかった。そうだな、魔王国での道案内くらいは務めてもらおう」
「えぇ、それで構わないわ」
了承の様子に、夜刀姫の鋒をエキドナの手の届くところに突き出す。エキドナは、それを迷うことなく握り込んだ。
血魔法【血の誓約】
魔法を発動させ、その効果が正しく働いていることを確認する。
「眷属にはしてくれないのね?」
「……。それでこの後はどうする?」
「見学していくわよ?」
「まぁ、俺は良いが」
他の面々を見れば、渋々と言った感じで頷いていた。
「さて、では本題といこう。ネブカ」
『えぇ、試練を始めましょう。異界の勇者、と救世主の後継よ』
俺もか?




