表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
106/139

聖龍

 心臓を射抜かれたダロガは確かに、意識を手放した。だが、その後、微動だにしない。


「……?」


 力が抜けて膝をつくどころか、ふらつきもしないダロガを訝しんで、アトリンテも片眉を上げる。しかし、流石に血を失い過ぎた。


「おとと……」


 足元が覚束ず、手近の壁に手を添える。


 ッ!!!


 その一瞬の隙に反応するかのように、ダロガの遺体から魔力が噴き上がった。


「何!?」


 それに慌ててアトリンテが眼を向ければ、そこには遺体を膨れ上がらせ、ともすれば、龍になろうとする憐れな骸の姿。


 みるみるうちに、巨体になりゆくそれを見ながら、矢を構えようとするものの一度、気が抜けたために力が入らない。


 鈍ったか、半ば死を覚悟したアトリンテだが、数瞬の後に、助かったことを察知した。


 いつの間にか、アトリンテに歩み寄る青年の姿があった。その背後では、骸の巨体が真っ二つに切り裂かれ、吸血鬼としての死に様、すなわち、灰となって消え去った。


「久しぶりだな、コジロウ」

「えぇ、久しぶりです、アトリンテ。相変わらずのようですね」


 苦笑を浮かべる青年は、帝国の最強戦力『剣聖』。当然、骸は彼が両断したのである。がしかし、アトリンテはその気配を察知しただけで太刀筋は見えなかった。


 相変わらずの技量(バケモノ)だ。


 そんなことを思いながら、彼女は意識を手放した。


「っと、はい、お疲れ様です」


 倒れるアトリンテを受け止めて、コジロウは薄く微笑んだ。


 ……。


 『バベル』の道程は順調と言って良いだろう。


 当初、ペース配分を間違えて疲れを見せていたマサミチも実践によって慣れてゆき、今は問題のないペースで行動している。


 そして、今は如何にもな大扉の前で一時の休息をとっていた。


「疲れました……」


 そうマサミチが息を吐く。大扉の守護者との一戦によるものだろう。慣れを見せたといっても、それは道中の敵に対するもの。それを普遍的な慣れにするのは、まだ、しばらく掛かる。守護者は、その特性を道中の敵と大きく異なることはなかったが、やはり、守護者を任されるだけあって、その攻撃の威力や耐久性は軒並み上をいく。だが、息を切らせてはいないのだから、確かな成長があった。


「まったく、だらしないわねぇ。イジネ、お茶を出しなさい」

「はい、イル様」


 イルに言われる前から準備していたイジネが、お茶を差し出す。それに礼を言って、マサミチは受け取り、お茶に口をつける。


「ほら、ジャックも」

「あぁ、すまんな」

「チッチッ!」

「わかったわかった、ほら」


 イジネからお茶を受け取り、セイの催促に応えて、果実を取り出す。


 しばらく、そうやって身体と精神を休めた。


 ……。


「よし、行くか」

「はい」「わかった」


「行くぞー!」「チー!」


 イルとセイの様子に微笑みながら、俺たちは大扉を押し開けた。


 まず、視界に広がったのは、蒼く澄み切った大空だった。床に目をやれば、どこまでも白く石のタイルが貼られている。壁は見当たらない。広大な空間に大扉だけが鎮座していた。


「屋上、でしょうか?」


 マサミチの言葉に否定を答える。


「いや、階段の数と外観は合っていない。ここはまだ、塔の中ほど。まぁ、物理法則は当てにならないかもしれないが、そもそも、この塔に終わりはないとされている。勇者であるおまえに用意された目的地と考えるのが妥当だろう」


『その通りです』


 唐突に、絹のような声が響く。直接、頭の中に語り掛けるような声。


 ゆっくりと空を見上げる。

 

 遠目に影が見えた。細長く蛇行して空を泳ぐ影。


 段々と近づくそれは、龍だ。


 紺碧の鱗に覆われ、身体に対して少し短めの四肢には3本の鋭い爪、頭部には強靭な顎と牙、そして、後方に向かって伸びる鹿のような双角。


 美しかった。その瞳は黄金色に輝きこちらを慈しむように潤んでいた。


『よくお越しくださいました、異界の勇者。それに、救世主(メシア)の後継よ』


 龍は俺たちから十歩ほどの距離で空中に留まった。


『私は、聖龍ネブカ=ド=ネザル。ネブカとお呼びください』


 救世主の後継などと仰々しい呼び名だ。しかし、それは確かに俺に向けられていた。この龍は何を知っているのだろうか。


『後継よ、私は語る言葉を持ちません』


 視線に気づいたネブカに先を制させる。


 俺はここに来た目的に頭を切り替えた。


「さて、それで勇者は何故ここに呼ばれた?」


『我が鱗を神剣の材料にするために。されど、私とて、誇り高き龍族。たとえ神々の言いつけでも、ただでは与えません。その心、試練をもって試させて貰います』


「なるほど」


 俺は、当事者であるマサミチに目を向ける。なんだ、その惚けた面は?


『しかし、その前に、解決すべき問題がありましょう』


 俺とマサミチの視線の応酬?を置いて、ネブカがそう言った。


 俺は迷うことなく、背後を振り返る。


「隠れてないで出てきたらどうだ。流石に、龍を欺く自信はないだろう?」


 そう言ってやれば、女の声が聞こえる。


「はぁ、どうやら、あなたにもバレていたみたいね?」


 そう言って、開けたままの大扉から見える空間が揺らいだ。

そろそろレビューが欲しいッス!


ジャック「……よし」


よし、じゃねぇよ!?なぜ、斬りにきた!?


「生意気だ、あと五百年は修行しろ」


てめぇも修行なんざしてねぇだろうが!?


「……死ね」


ちょ、うわぁ!?ま、まぁ、とにかく、応援よろしくー!!


ちょまっ、!!くっ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ