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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第一章 忘れ去られた地下墓地
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怪物

 一塊となったそれは、カタチが定まったのか、纏っていた靄を霧散させる。


 一言で言ってデカい。身の丈は、中背の俺の三倍。丸太のような四肢と継ぎ接ぎの目立つ樽のような胴、そして、その上にある頭は仮面のような骨が貼り着き、目の位置に穴が、口元には縦格子状の()()()が空いていた。


 ……。そうだ。こいつは、息をしている。荒く、苦しげに、湯気なのか冷気なのかはわからないが白い息が吐かれている。


 真理眼(イデア)を行使。


『個体名:No Name Lv.20

 分類:不死者(アンデッド) 合成獣(キメラ)

 種族:継ぎ接ぎの怪物(フランケンシュタイン) 』


『継ぎ接ぎの怪物:人工的に死霊魔術(ネクロマンシー)によってのみ、産み出される怪物。異常な再生能力と怪力は獣鬼(トロール)に匹敵し、鈍足であるがその巨腕は豪速で振るわれる。生命神秘を探究した錬金術師(アルケミスト)ヴィクターが開発したこの世界で最も有名な死霊魔術の一つによる失敗作。この怪物が術者の制御下にあることは絶対にない。』


 な!?レベル20だと。おいおい、剣持ち骨鬼(スケルトン)のときは、種族差で勝てたが、それだって、レベルが10以下の低次元の争いだからできたことだ。


 13と20じゃ、かなりの差があるはずだし、こいつはおそらく、屍霊(リビングデッド)の完全上位互換である不死者に分類されている。種族的なアドバンテージはない。


 ……どうする?


「チッ!」


「セイ、どうした?」


 俺は未だ、動かない怪物を見据えつつも問いかける。

 

「チッチッ!」


 魂の繋がりでなんとなくだがわかる。セイの浄化なら、あの怪物を弱体化できると言っているんだ。


「そうか……。頼むぞ」


「チッ!」


 セイの頼もしい一声。

 雰囲気の変化を感じたか、怪物も動きを見せる。


 息を大きく吸い……


「グゥアアアアアアア!!!!!!!」


 咆哮。

 それは明らかに生物の範疇を超えていた。本能に直に訴えてくるどころか、物理的な衝撃を伴った。


「チッ……」


 セイが本能から怯む。俺はセイを抱えて、ぶっ飛ばないように耐えるので精一杯であった。


 長く感じた咆哮は終わり、怪物はのそのそとさっきの威勢に対して随分と悠長に迫ってくる。いや、あれで精一杯なんだ。


 その巨体によって、速度を奪われている。真理眼での説明にもあったように鈍足なんだ。


 セイを地面に下ろし、剣を構えた。真理眼はなんと説明した?そう、鈍足されど、その巨腕の一振りは豪速。


 ならば、不用意に近づけば、ヤられる……。


「セイ!」


「チッ!!」


 青白い正の魔力が、浄化という方向性をもって、怪物に迫る。力の代償に速度を奪われたそれに回避の術はなく、狙い違わず、セイのチカラは命中した。


「グゥオオオオ!!?!?!!」


 怪物は、堪らず苦しみだす。負の魔力、それによって編まれた呪いの身体は強靭な分、弱点に対しては異常なまでに弱い。


 だが、怪物を倒すには至らない。継ぎ接ぎの部分が緩んだように見えたがそれだけだ。怪物は依然としてそこに立っている。


「セイ、隠れとけ」


「チッチッ」


 その返事を聞きながら、もはや、必要のない呼吸を整える。


「いくぞ、デカブツ」


 ドン!


 と人外の脚力で地を蹴った。鈍足の怪物はこれ自体に追いつくことはできない。


 が


 シュン!!


 目では追えない。仮に見えても、間に合わない。くっきりとした死の予感。

 勘を頼りに、方向修正。横に思いっきり飛び退き、なんとかことなきを得た。


 だが、そんな偶然がいつまで続くだろうか。


 怪物は、遠心力に振り回され、位置がズレていた。

 俺がいるのは、怪物の真後ろ。


 好機。


 今度は静かにされど性急に接近を試みる。

 しかし


 グルン


 という音でも聞こえてきそうなほどあっさりと怪物は首だけを回してこちらを見た。


 !?んなのありかよ!!


 不死者だからか、合成獣だからか。こいつに関節は関係ないらしい。


 ザッと緊急停止。すぐさま後ろに飛び退いた。


 シッ!!


 とばかしに、鼻先ギリギリを怪物の巨腕が通り過ぎた。


 おいおい、方向転換する必要もねぇのかよ。一瞬で後ろを取らなきゃ意味ねぇか。

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