″ソレ″との暮らし
私はいつの間にか気を失っていた。
目が醒めると其処は、穏やかな夜の街並みだった。
「何ここ...空気が綺麗.....。」
沙月は、普段の引きこもり具合と全く違う環境に気持ちが穏やかになっていた。
「こんな綺麗な場所存在するんだなあ...でも誰もいる気配ないな...。」
そう辺りを見回しながら歩いていると、
ギュゥイーーーーーーーーン
「残り5分です。直ちに建物内に隠れてください。」
街中に放送が響き渡る。
「え...?隠れる..ってどういうこと?」
沙月は突然の展開に困惑した。
「おいっ!!何やってんだよ!!」
沙月は見知らぬ男に腕を掴まれ、全力で走る男に引っ張られる。
「ちょっ..何ですか!!」
沙月が何度話しかけても、男は答えず無心で走る。
「(突然何...。)」
沙月は黙ってついて行く事にした。
そしてある建物へ入った。
「とりあえずこのクローゼットの中に入れ。」
男に言われ、沙月と一緒にクローゼットの中へ入る。
中は凄く窮屈で、呼吸をするのが少し苦しかった。
「あ..あの....。」
沙月が声を出そうとすると、男は手で沙月の口を抑える。
「(黙ってろ。)」
そんなアイコンタクトで沙月は感じた通りに黙った。
ギギ..ギギギ...ガタンッ
「(え....。誰か来た。)」
沙月は突然得体の知れない存在が近くに居る恐怖に襲われ、肩をすくめた。
?「や..嫌...!!やめて!離し....」
同じ建物から女の人の声が響き渡る。
「グチャッ...ゴリゴリゴリ......」
その時、何かを咀嚼する音。
すると、足音が少しずつ離れていく音がした。
「大丈夫..そうだな...。」
静寂な中、男はそう言った。
「何だったの?何で隠れるの?」
沙月は一体何が行われているのか分からなかった。
「お前はまだ地獄に来させられたばかりか。」
焦る沙月に男は優しく言った。
「来させられる....?」
男は黙って頷く。
クローゼットの隙間から月明かりが差し込む中、沙月は男から話を聞いた。
「え...食べられる......?」
「そうだ。まあ、正しく言うと喰われる、だな」
男に聞くとそれは、得体の知らない何者に
見つかった人間は喰べられてしまうという。
沙月は話についていけずただ話を聞く。
「夜、20時になると何者は来る。そして人間を見つけたら喰う。
何者は何体も存在してる、ただ建物に逃げ込むだけじゃダメだ。」
沙月は恐る恐る尋ねる。
「逃げ込むだけじゃ、ダメって...?」
「建物内のまた何処かに隠れなければならない。例えばこのクローゼットとか。」
沙月は理解が早かった。臆病な性格だが、切迫詰まる時は強い部分が発揮される。
「そうなんだ。何となくは分かった。」
「おお、すげえな」
晃太は沙月の異常な理解力に驚き腹を抱えて笑う。
それから、建物内で泣き叫ぶ声や震えている人など沢山いる中
沙月は男の話を聞いていた。
男の名前は、井上 晃太。地獄に来て一週間だと言う。
合流した人たちは既に何者に喰べられてしまったらしい。
「ここまで来れたのは今まで出逢って来たアイツらのお陰なんだよ...」
晃太は、これまで沢山辛い想いをして来たのだろう、沙月はそう感じた。
「(いつになったらこんな残酷な場所から出れるんだよ.....)」
「ん?なんか言った?」
沙月は晃太が口に出していたと思っていたが、心の声だった事に気付いた。
「(そんなに怖かったんだね。)」
沙月は声には出さず、心の中でそう伝えた。
「とりあえず今日はもう休めよ。俺もちょっと遠出で疲れたから。」
そう言って晃太は毛布を沙月に渡した。
「うん、おやすみ。」
薄暗い月明かりが差し込むクローゼットの中。
肌寒い風が、毛布をより暖かく感じさせてくれた。
その温もりに包まれながら、沙月は眠りにつく。
そして翌朝、沙月は目を覚ますと其処に晃太は居なかった。