″ソレ″が目覚める
何者は目覚めた
先ほどまで起こっていた事は、きっと実在していないのだろう。
脳裏から離れる事なく、瞼の外から眩しい光が差し込まれ、私は目覚めた。
私は、羽成 沙月
小さい頃から″かくれんぼ″が嫌い。
何故嫌いになってしまったのか理由も分かっていない。
毎日窓の外を眺め、ただ無心になる。夢など勿論ない。
人生において楽しいという感情を忘れてしまった。
今日も、憂鬱だな。嗚呼、鳥になりたい。
「んん...っ、んぁ〜。」
凄く、眩しい。ダルそうに重たい瞼を開けた。
「またか...」
私は小さい頃に見た夢を今だに見ている。
何度も見ている夢なのに、何も思い出せない。断片的でもなく
記憶から削除されたみたいな感覚でいる。
「あ〜...もうこんな時間。バイト行かなきゃ...」
もう少し、もう少しと。そしてまた深い眠りについてしまった。
ギギ..ギギギ...ガタンッ
「...?」
耳障りな物音が聞こえる。
黒板を爪で引っ掻いたような、不愉快な音みたいに。
?「た..助け....て」
グシャッ..........。ッゴク。
何者の興奮したような奇声。耳が潰れてしまいそうな狂気じみた響き渡る声。
「(何...何なの..)」
目を開けるのを躊躇った。が、まるで私が目を開けるのを待ってるかのように
暫く何も聞こえなくなってしまった。
恐る恐る目を細めて見てみると暗闇の影の何者はいた。
目の前に広がる残酷で最悪な光景を目にしてしまった。
(グチョ...グチョグチョ..)
待っていたとばかりに、卑猥な音が聞こえてくる。
暗闇の中で微かに光が差し込んだ部屋で、1人の少年が何者に襲われている。
体が動かない。物凄い異臭と邪悪な空気が辺りに漂う。
「え.....。何これ...。」
鼓膜が破れそうな、得体の知れない何者の興奮した息遣い。
グシャグシャと響き渡る咀嚼音。
「(食べられ..てる...?)」
逃げ出そうとした。けど体が動かない。
「(どうして...!動いて!動..け...!)」
必死になって自分の足を叩いた。だが、反応もしない。
「(どうしよう...どうしよう....)」
ヒヤリと背中が凍りついた。その何者が私の存在に気付く。
窓から差し込む月光でお互いに姿を確認する。
何者はニヤリと笑った。反射で光る血が吹き出た口の大きな牙は、何故かとても美しかった。