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元々お父様とケビンの生家であるマクダウェル子爵家は仲が良かった。
ケビンの家は数代に渡り、騎士団長を務める程の武官を排出しているらしい。
お父様自身は武官ではないが、単純に強い者が好きなようだ。
交渉も煮詰まれば最終的には武力が物をいうと言うのが持論。
人とは強くあるべき、という事を信念に掲げている。
もしかすると、強くあるべきという事を歪んで受け止めた結果が本来のシャロンだったんじゃないだろうか。
この度、私が11歳になると同時にお父様が私とケビンの婚約の話を持ち掛けてきた。
ケビンとは3歳の時に一度会ったくらいだったが現在、既になかなかの実力を身に着けたケビンをお父様が気に入りマクダウェル家に婚約を提案したようだ。
親同士で勝手に決めた婚約ではあるが私としては何の問題もない。
むしろウェルカムである。
本日、ハーツメル家の領地の屋敷にてケビンとの顔合わせがある。
と、言っても3歳の時に一度会っているから初対面じゃないのだけれど。
約束の時間より少し早めに屋敷の前に馬車が止まり、従者からマクダウェル家到着の知らせを受ける。
この日の為に一世一代の大勝負のつもりで気合を入れて着飾った。
当然だ。
ケビンには絶対におかしな姿を見せるわけにはいかない。
とは言っても服を選んだのはお母様だし、着付けはメイド任せになる部分が大きいから私は殆ど苦労してないけどね。
扉が開き、マクダウェル家の現当主に続き11歳のケビンが姿を現す。
いやはや、この世界にカメラがない事がこれほどまでに悔やまれる瞬間があっただろうか。
ばっちりとスーツを着こなすケビン君がかわいくてかわいくて、360度じっくりと眺めまわしたい気持ちを抑えるのに精いっぱいです。
私のお父様とケビンのお父様が軽い挨拶を交わし、応接間へ場所を移す。
ケビンの様子を見ると少々機嫌が悪そうだが、やはり乗り気ではないのだろうか。
だとしたらちょっと傷つくなぁ。
大人同士で形式ばった挨拶を交わした後、ケビンが口を開く。
「お初にお眼にかかります。マクダウェル子爵家のケビン・マクダウェルです。シャロン様のような素敵な女性と婚約出来た事は身に余る光栄です。幼き頃より武のみを追求してきた身。無骨者ではございますが、シャロン様と釣り合いが取れるよう、精進していきたいと思います。」
ケビンが喋った!
いや、そりゃ喋るだろうけど!
この感動を分かち合える相手がこの場にいないのが辛い。
ケビンの生声を聞いた事に感動を覚えながらも挨拶を返さなければいけない事に思い至る。
ただでさえ好きなキャラが目の前に居ると言うだけでニヤニヤが止まらないのに、シナリオ上の私に対するケビンと態度が違いすぎてついつい笑みが顔に出てしまう。
「ハーツメル侯爵家のシャロンと申します。そんなに硬くならなくても大丈夫ですよ。無骨者と仰いましたがとんでもない。今のままのケビン様で十分素敵ですよ。ええ、貴方の為なら私は死ねます。」
舞い上がりすぎておかしな事を言っていないだろうか。
いや、少しくらいおかしくても許してほしい。
この11年、どれだけこの瞬間を待ち望んだか!
状況があまりにも違うから婚約自体無くなる可能性もあったのだ。
その不安から解放された今、私の高揚感が少し溢れる事くらい許してほしい。
きっと誰にも分かってもらえないけど!
いや、分かって貰えそうな人が3人居たわね。
この喜びを語り合いたい!
三日三晩語り明かしたい!
「死っ……いえ、むしろ私がシャロン様を守る立場です。その様な事は仰らないでください。」
「はは、冗談を本気で返されてしまったな。」
「冗談……でしたか。申し訳ございません。」
お父様の言葉でケビンが赤くなる。
かわいいじゃないかっ。
まぁ私としては冗談のつもりなんて一切ないんだけどね。
ここはお父様に乗っかろう。
「ケビン様はとても素直なお方なのですね。ケビン様のお気持ち、とても嬉しく思いますわ。」
まぁ冗談だと思ってくれたのか少しだけ表情が和らいだからよしとしましょうか。
機嫌が悪いと言うより緊張していただけみたいね。
「ふむ。実際に会ってみてケビン君をどうしても嫌だと言うのならこの話はなかった事にするつもりだったが、どうやらいらぬ心配だったようだな。」
政略結婚の面も多少はあったろうにお父様は私に甘いな。
もっとも、相手がケビンなら断るわけがない。
でも仮に相手がケビンじゃなかったら私はどうするのが正解だったんだろうか。
断った場合、幸運と呼ばれる私の力がどんな影響を引き起こすのか分からない。
最悪の場合には相手の家が没落してしまうような状況さえ引き起こしかねないだろう。
さっきは気軽に死ねるとか言ってしまったけど、それも今思えば危ないセリフだったかもしれないという考えに至り一人反省する。
今後は気を引き締めていかないと。
幸運のおかげで友好な関係を築けそうだけど、同時に大きな危険ももたらしそうな自分の力が本当に恨めしい。
「折角の機会だ。少し二人きりでその辺りを歩いてきてはどうだね。お互いを知るいい切っ掛けになるだろうしな。」
それは最高の提案ですね、お父様。
これは紛れもなく初デートである。
男女が二人並んで歩いたらデートと呼ばずに何と呼ぶのだ。
ただしケビンに限る。
「お気遣いありがとうございます。ケビン様、エスコートをお願いしてもよろしいですか?」
「私でよければ喜んで。」
お父様たちに軽く頭を下げてからケビンと二人、部屋を出る。
廊下を歩いて居るだけだと言うのに心が震える。
私は今……ケビンと並んで歩いて居る。
もう、なんていうか、今が人生の絶頂期なんじゃないだろうか!
「綺麗なお庭ですね。」
庭に出るとケビンが話しかけてくる。
無難な話を振ってくるのは距離感がつかめていないからだろう。
私としてはもっとがっつり来てくれてもいいんだけどね。
「ありがとうございます。ケビン様に褒めていただけたのなら庭師も喜ぶでしょう。」
当然の如く満面の笑みで言葉を返す。
意識しなくても自然と笑みがこぼれちゃうのよ。
今後ケビンが私の笑顔以外の顔を見る事はないかもしれないけど、こればかりは許してほしい。
「……シャロン様は私を怖がらないのですね。」
お、突然どうした?
「なぜ怖がる必要があるのですか?」
「どうやら私の顔は少し怖いようで、ご令嬢にお会いすると目を背けられてしまうのです。」
それは多分美形に見つめられるのが恥ずかしいだけじゃないかな。
確かに近寄りがたい雰囲気のあるクール系ではあるけど、怖がられるタイプじゃないでしょ。
世の令嬢は勿体ない事をする。
私ならケビンがそこに居る限り一秒でも長くガン見するからね。
それに恋人関係になった時、普段はクールなのに二人きりになると甘えてくるケビンを私は知っている。
そのギャップが最高によき。
でもここはそんな事を指摘するのではなく、褒めたおす!
嫌われる必要がないならべったべたに甘やかしてくれるわ!
「世の令嬢は見る目がありませんのね。ケビン様のお顔はとても美しいのに。時間が無限にあるのならいつまでも見つめていたい程ですわ。」
私の言葉にケビンが頬を掻き視線を逸らす。
赤くなっちゃって……かわいいなぁもう!
照れてしまったケビンの口数が減ってしまったがそれはそれでよき。
無言でゆっくりと歩く時間もケビンと一緒なら至高のひと時でございます。
だが、そんな時間を破壊する事件が唐突に発生する。
一秒も無駄にする事なくケビンの顔を見つめていた私が小石につまずいてしまったのだ。
いやはや、私は馬鹿かと。
転んでドレスが汚れたらこのデートが終わっちゃうぞと。
自ら至福の時間を終わらせる原因を作るとか自分を恨んでも恨み切れないよ……。
だが、結果的にこの素晴らしい時間は終わらなかった。
むしろそれ以上の結果に私の胸は高鳴った。
ケビンが受け止めてくれたからだ。
立ち位置が良かったのか私がケビンの胸の中に飛び込むような形で転倒を回避する事ができた。
「お怪我はありませんか?」
「あ……ありがとうございます……。」
心配そうに覗き込むケビンと目が合った。
近い!眩しい!脳が焼き切れる!
天にも昇る気持ちとはこういう気持ちを指すのだろうか。
これが幸運の力?さっきは恨んだけど、私に宿ってくれてありがとう幸運様!
この後、他愛もない会話をしている内にケビンとの初デートは終わってしまったけれど、最高の時間を過ごせたことは言うまでもない。
ちなみにこのデート中、私は何もない場所で七回程躓いてしまった。
後半はケビンも分かってしまった呆れと照れが混じったような困ったような顔をしていた。
ケビンのこの表情を見る事が出来たのはきっと後にも先にも私だけだろう。
元々悪役令嬢だし、これくらいの悪事は働いてもいいよね!
学園編はある程度まとまってから投稿します。
本編は全20話くらいでまとめる予定です。