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「まず、それぞれが抱える問題を私が提起致します。大きく間違っている部分はないとは思いますが、細部に違いがあったらその都度訂正をお願いいたします。」
「出会って間もないのに分かるの?」
「その事を含め、今からお話致します。まず、私には未来が見えます。見えない部分多いのですが、シナリオ上の大きな出来事ならば概ね見えていると思っていただいて構いません。」
「未来予知っすか!?それは凄いっすねー。」
なんともまぁ、最初からとんでもない物が出てきたものだ。
当然、ハテハテのソフィにこんな設定はなかった。
「これだけなら問題にならないのですが、どうやら私に向けられる害意や敵意や悪意、殺意といったものが霧散してしまうようなのです。」
「ソフィちゃんって確か第二王子の手の物に攫われて行方不明になるんだったよね?」
クロス王太子ルートへ入るとソフィは第二王子が手下を使って攫い、行方不明となる。
主人公とクロスが協力して第二王子が犯人だと突き止めるのだが、追い詰められた第二王子はソフィを道ずれに自害するのだ。
理由は嫉妬。全てに於いて自分を上回るクロスと長年比べられ続け、いつしか壊れた第二王子の異常行動。
公式設定ではないけど、第二王子はソフィを好きだったという考察もある。
せめてソフィだけでも自分の物に。
それが無理なら心中を……という考察だ。
どっちにしろよろしくない思考なのだが、絵師さんがいい仕事をしたおかげで第二王子も一定の人気はあったりする。
ハッピーエンドは婚約者を失い悲しみに暮れる王子を慰め、次第に愛が芽生えるというもの。
バッドエンドはギリギリでソフィを庇い、ソフィの代わりに王太子が死ぬというもの。
王族としては失格かもしれないけど、普段から美しいクロスは死に様すらも美しかった。
だからと言ってこの世界でクロスが死ぬのはまっぴらごめんだけどね!
「そうですね。でも、私を攫おうとしてもその害意が霧散してしまっては実行に移す事は困難でしょう。」
「それならみんな助かるんじゃないの?っていうかソフィちゃんとクロスが結ばれて新ハッピーエンドじゃない?」
私の問いにソフィちゃんが悲しげな表情を見せる。
「残念ながら……。私の誘拐を失敗した第二王子の殺意が向かう先はクロス王太子になってしまうのです。結果的にはバッドエンドと同じですね。本来のハッピーエンドを迎えるには、シナリオ通りの場所で私たちが死ななければいけないのです。」
「それがシナリオの修正力って事かー。クロスルートでハッピーエンドは難しそうだねー。ならさ、ケビンルートは?悪評を立てるのを失敗し続けているけど、みんなが協力してくれるならなんとかならないかな?」
暗に私が犠牲になるという提案をする。
だが、ソフィちゃんの表情を見る限りそれも難しそうだ。
私の問題は自分の事だからぼんやりとではあるけど、わかる。
「先程、未来が見えると言いましたが、私にはもう一つ見えるものがあるのです。それは人の本質を見極める力。善か悪か。嘘か誠か。転生者かどうかもこちらの力で判断致しました。そして、付随する不思議な力も分かるのです。どちらの力も文章として見えるわけではなく、断片的な情報から推測する必要があるので確実性に欠ける部分もありますが……。」
未来が見えて人の本質を見抜いて悪意無効とかソフィちゃんは無敵かね!
そのまんまバトル漫画に行っても通用しそうじゃない?
私の思考が明後日の方向へ向かっている事を察したのか、ソフィちゃんは指を一本立てて注目を集め、続きを話す。
「シャロンさんの力は幸運……とでも言うのでしょうか。シャロンさんの関わる行動が全てプラスの方向へ働いてしまうようです。心当たりはありますか?」
「むしろ心当たりしかないわ……。」
やっぱりか。
そんな気がしてたんだよ。
いくら何でもおかしいもんね?
悪評が思うように立たないからって結構思い切った事もしたもんな。
普通だったら何回牢獄に入れられてたんだろう。
今まで実行して来た悪事をかいつまんで幾つか例にあげ皆に話す。
…
……
「酷い事するっすねー!」
「結果は兎も角やってる事が鬼畜。流石悪魔令嬢。」
うぉぅ!大人しいと思ってたスクナちゃんが結構毒舌!
背の小ささも相まって毒舌ロリとして一部で需要が出ると思います。
中身が何歳なのか知らないけどね。
ちなみに悪魔令嬢というのはシャロンの愛称だ。
数少ない男性ユーザーがシャロンに悪魔コスさせた絵を描いて盛り上がっていた記憶がある。
「シャロンさんに関わる人間全てに影響する様なので私たちが協力しても悪役令嬢を勤め上げる事は厳しいかと思います。」
「だよねー。うん、悪役は諦めるしかないのかな?他の方法を探すしかない?」
「残念ながら、そうなりますね。」
ここで残念と言えるのも凄いね。
だって悪役でシナリオ通り進めば私が死ぬんだもん。
攻略キャラの為なら喜んで命を捧げる事ができる。
そういった人間じゃないとこの言葉は出てこない。
同志が居るってやっぱり嬉しいなぁ。
ちなみにシャロンがライバルになるのはケビンルート。
騎士団長の息子であるケビンは正義感の塊だ。
親が勝手に決めた婚約者とはいえ、途中までは矯正させる事が己の使命として頑張ってくれていた。
しかし、学園に入り仲が良くなった主人公をシャロンが暴漢を使い殺そうとした事をきっかけにシャロンと敵対する事となった。
ケビンは己の正義を胸に、マクダウェル家の私兵を率いて暴漢を捕らえた。
尋問の描写はなかったから誰がやったのかは分からないけど、尋問の結果、暴漢は組織立って過去にも同じような事件を起こしていた事が判明する。
シャロンの命令に忠実に従い、シャロンの邪魔者を”行方不明”にしてきたのだ。
詳しく書かれていなかったから行方不明者がどうなったのかは分からないが、それが致命傷となってシャロンの刑は斬首にまで及んだのだ。
少なくとも行方不明者は乙女ゲーで描写するには厳しい状態にあったのだろう。
ケビンルートのクライマックスでは暴漢の組織を殲滅し、シャロンを処刑台に送る事によってハッピーエンドを迎える事が出来る。
暴漢の組織を殲滅せずにシャロンの処刑を先に実行した場合はバッドエンドを迎える事となる。
バッドエンドを迎えた場合、投獄されていたシャロンが組織の手によって脱走を果たし、ケビンが暗殺される。
その後ケビンの亡骸を大事そうに抱え、シャロンが何の為に罪を犯して来たか独白するシーンが挟まれる。
子供の頃、一度見たケビンに惚れ込み、ケビンに好意を持って近づく女性を徹底的に排除してきたとか。
最終的に殺してしまえば身も心も私の物ですね、というヤンデレの末期的思想に至ったらしい。
権力と実行力のあるヤンデレは厄介過ぎるわ。
「私の場合ってどうやってシナリオに繋がるの?意図してないのに私の評判めちゃくちゃいいし、ケビンを傷付ける気なんてないんだけど。」
「詳しくは分からないのだけれど、その場合は何かしらの罪を擦り付けられて断罪されるみたいね。なまじ評判がいいから裏の顔を知った時の落差が大きかったみたい。」
「それならケビン死ななくない?私の命だけで済むならそのままでもいいよ?」
「シャロンさんを信じて疑わない人達が暗躍するようですね。シャロンさんを脱獄させ、シャロンさんの投獄の直接的な原因になったケビンを殺めてしまうようです。」
余計な事を……!
どうせ仕事するなら私の幸運を修正しなさいよ。
どんな罪でも全部被ってあげるからさぁ!
私が死ねば全部丸く収まるのに。
ここでふと一つの可能性が頭をよぎる。
事件が起きる前に私が命を手放した場合どうなるのだろう。
シナリオ上のイベントが起こることなく、全て解決するのではないだろうか。
「って事を考えたんだけど、どう?」
「それは既に私が検証済みです。私たちの力は自身にも及ぶようで、私の自身への殺意も霧散してしまいました。」
そういってソフィは懐から小ぶりのナイフを取り出し私に渡して来た。
「試してみますか?」
なんでそんな物を携帯してるんですかね。
っていうか、ドレスの胸元によく忍ばせる事が出来たな!
物は試しと、自分の胸元に押し込もうとしたナイフは根元からぽっきりと折れた。
ソフィちゃんも大概だけど、私の幸運もとんでもないな。
どうやらイベントを避ける事は出来ないみたいだ。
シナリオの修正力も大きな障害だけど、私たちの意味の分からん力も邪魔でしかない。
変則バッドエンドを回避するための作戦会議は終わらない。
初評価ありがとうございます!
5点目指して頑張ります!