第9話 守るための決意
「もきゅ~? もきゅきゅ?」
(そういやさっきジズさんが言ってた『お立ち台で宣伝活動』ってなんだよ? コイツ……いや、もきゅ子って宣伝するのが主な仕事だったのか?)
「そないですぅ~。店の外にある樽の上に立ってやな、道行く人たちに愛想を振りまいて呼び込み営業をしてましたんや。時には道行く人の目を惹くため、飛び跳ねたりしてダンス紛いのことをしたりもしてましたわなぁ~」
「きゅ~? もきゅ? もきゅきゅ……」
(樽の上でダンスを? そんなことまでしていたのかよ? 客の興味を惹くためとはいえ、コイツそんなに頑張ってたなんて……)
どうやらこの可愛い容姿を生かした仕事を宛がわれていたらしい。
それでも客が入らないのだから一体どうすればいいのか、俺には皆目検討もつかない。
「もちろんそれだけやないですぅ~。店の中でも大活躍してましたんやで! なんと姫さんは客が食べ終わり帰ろうとした際にズボンやスカートの裾を引っ張りまわして、『なんでもう帰っちゃうの? 帰っちゃいやだよ~』っと悲しそうに泣きながら、再び客を座らせ注文を取る大事な仕事もしてましたんや! どないですぅ~、さすがの兄さんもこれには驚いたんやないでっかぁ~?」
「…………」
(もきゅ子って、そんなあざとい仕事まで平気でやらされていたのかよっ!? いや、まぁ……容姿相応というかお似合いの仕事だとは思うけどな。俺だってそんなことされちまったら、もう一回席に座って注文しちまうもんなぁ~。でも今はその役割っつうか、仕事を俺自身がやるんだよな? それはちょっと……)
俺はもきゅ子の主な仕事2つを聞かされてしまい、つくづく「この店大丈夫なのか?」っと疑問に思わずにはいられなかった。
しかもそれを中の人(中身おっさん30歳)がするのだ、ある意味でバツゲームに他ならない。むしろ外の人……もといもきゅ子は何の疑問も持たずにそのあざとい仕事を平気でしていたのだろうか?
(そう考えると、もきゅ子って凄えぇヤツだったんだな。俺にはとてもじゃないが真似できねぇもんなぁ~。もしかしてそれが天性の能力だったとか? 確信的にそんなことしていたら、精神的に参っちまうもんな)
ただ可愛さを周囲の人間に振りまき、呼び込みをしているファンシーな子供ドラゴンだとばかり思っていた俺だったが、改めてもきゅ子の精神の強さにただただ感心するばかりだった。
「あら、もきゅ子にジズ。どうされたのですか、そのようなところで? 何かあったのですか?」
玄関先で話をしていた俺達を通りすがりに見かけたシズネさんがそんな風に声をかけてきてくれた。
たぶん店に客が一人も居ないため、彼女自身何もすることがないのかもしれない。
右手には濡れた雑巾らしきものを持っていた。きっと暇を持て余し、店内の掃除をしていたに違いないだろう。
「ああ、別に何にもおまへんで~。しいて言うなら、姫さんとどないすればこの店が流行るのか話し合っていたんですわ。ほら、今日も店に客が少なかったやないですか。それでこうして作戦会議と称してミーティングをしてたんですわ」
「そう……なのですか? すみませんね、お二人にまで心配をおかけしてしまって……」
「きゅきゅ……」
(シズネさん……)
シズネさんは悲しそうな顔で申し訳なさそうに俺達に頭を下げてくれた。
たぶん彼女自身も流行らない店に対して色々と試行錯誤しているのだろうが、未だその成果が得られず居た堪れないのかもしれない。
「も、もきゅっ! もきゅもきゅ、きゅ~きゅ~」
(だ、大丈夫っ! 必ずこの店は俺が流行らせるからさ、だからそんな悲しそうにしないでくれよシズネさん。俺まで悲しくなっちまうよ……)
「もきゅ子……ワタシのことを慰めてくれるのですか?」
シズネさんのスカート裾を引っ張り元気付けるようそう語りかけたのだが、生憎と彼女に俺の言葉は通じない。
ただ悲しそうに鳴いているので、その気持ちだけは伝わっているのかもしれない。彼女は俺を慰める形で頭を優しく撫でてくれた。
「きゅ~っきゅ~っ」
「ふふっ。そのように泣かなくても大丈夫ですからね」
「……姫さんも姉さんのために頑張りますわ! って言ってますわ。だから姉さんも元気出さなあきまへんでっ!」
「そうですね……落ち込んでいたからとお客が入るわけではありませんしね。ふふふっ。まさかお二人に励まされるとは思いもしませんでしたよ。ですが、ありがとうございますね……ほんとうに……」
ジズさんのフォローにより俺の言いたいことが伝わると、シズネさんは笑顔を取り戻していた。
だが俺にはそんな彼女の笑顔が俺達に心配かけまいと無理矢理に笑い、今にも泣き出してしまいそうに見えてしまい余計悲しく感じてしまう。
「きゅ~っ……きゅ……」
(これはほんとに早くなんとかしないと……俺自身のためは元より……彼女のためにも……絶対に……)
俺はまだ出会ったばかりの少女の笑顔を守るため、これから全力で頑張ろうと決意を胸に抱くのだった。




