第7話 元の世界に戻る、その条件とは一体……
聞けば俺がもきゅ子の体で歩くことに慣れてきたのは、魂とこの体とが徐々に融合しつつある証拠なのだと言う。
そして次第に違和感が無くなり、ついには……俺はもきゅ子自身になってしまうのだとか。
「もきゅ~っ」
(マズイ。これは非常にマズイことになったぞ。俺本来の甘いマスクから、こんな可愛くてファンシーな生き物なんかにジョブチェンジしちまうなんて……ありえねぇよ)
現実世界ではイケメンの名を欲しいままにしていたこの俺(ただしモテない)に、このような仕打ちはあまりにも酷すぎる。
むしろこの体でハーレムを築こうにも何もできやしないだろう。ただ可愛い子ちゃんや美人なお姉さん達に抱きしめられるくらいなものだ(ただしそれも嫌いじゃない)。
「もきゅきゅ。きゅきゅきゅ?」
(そういえば俺の……いや、コイツの本体というか、中身はどうなったんだよ?)
「ああ、ウチの姫さんのことでんな? たぶんやけど、兄さんと入れ代わったんやと思いますわ」
どうやら俺と入れ違いとなり、もきゅ子は現実世界では俺自身になっているらしい。
だがそこで一つの疑問が生まれてしまった。
「きゅきゅ」
(でもよ、ジズさん。俺ってアッチの世界……俺にとっては現実世界で死んじまったから、こっちの異世界に転生したんだけど……それだと体がねぇわけだから、入れ代われないんじゃないのか?)
「ああ、それなら大丈夫ですわ。さっき兄さんが言ってたことやけどな、アンサンこれが2回目の転生世界なんでっしゃろ? ということはやで、その前にもその現実世界とやらで一旦死んだんやないですか? なのにまたその元の体に戻れた。つまり死んだことが無かったことにされてたんやないでっか? 違いまっかぁ~?」
確かに俺は異世界へと転生するのはこれが初めてではなかった。
……というのも、前回も今回と同じように任意保険無加入の4トントラックに跳ねられ死んで、異世界へと転生したのだ。
そこで苦労しながらも仲間共を集め、ついには魔王を倒して、クリアとなった。
で、結局は元の現実世界に戻れて、また死んでこうして異世界へと転生しているのだ。
つまり今ジズさんが言ったように俺の死んだことは既に無かったことにされてしまったのだった。
「きゅ~っ」
(それなら……ジズさんの言うとおりかもしれねぇなぁ)
「そうでっしゃろ? ま、この世界でも『質量保存の法則』を尊重してますさかいに、入れ代わる媒体は等価交換になるんですわ。もしそれでどちらかが意味消失したとなったら、矛盾になりまっしゃろ?」
それは至極真っ当な正論なのかもしれない。
俺がもきゅ子の体に入ったのだから、もきゅ子は俺の体に入っているか、もしくは俺ともきゅ子とが一つの体になっていなければ話がおかしくなってしまう。今の状況を鑑みるに可能性があるとするならば……前者なのだろう。
「きゅ……きゅきゅ……もきゅぅ?」
(じゃあコイツ……もきゅ子が現実世界の俺の体に入っている。そういうことなんだな?)
「ワテはそうやと睨んでますわ。きっと姫さんのことやから、兄さんの体になっても『もきゅもきゅ♪』言ってると思いまっせぇ~」
「きゅ……もきゅきゅ! きゅきゅ……」
(マジかよ……いやいや、そこは普通に人間の言葉喋ろうぜ! 何で俺のイケメンルックスで「もきゅもきゅ」って可愛く鳴かねぇといけねぇんだよ。ビジュアルと相成ってあまりにもファンシーすぎんだろ……)
どうやら俺は早急に元の世界、そして元の体に戻らなければならないようだ。
下手をすれば現実世界に居る周りの人間から頭がおかしくなったと思われるか、もしくは必死に可愛さアピールしている輩だと勘違いされてしまうことだろう。……というか、それでもきゅ子とやらはちゃんとした生活をできているのだろうか?
「そないでんなぁ~。ま、兄さんが早く元の体に戻ればいい話やさかい、そないに深刻にならんでもよろしいんやないでっかぁ~?」
「きゅきゅ~っ……。も、きゅきゅきゅぅ? もきゅ?」
(他人事だと思いやがって……。で、どうやったら俺は元の世界に戻れるんだ? また魔王でも倒すのかよ?)
「いやいや、この世界の魔王は姫さんやさかいに……それを倒すのは不可能なことでっしゃろ? それが目的やと矛盾が生じてしまうのんや」
「もきゅきゅ!?」
(コイツが魔王なのかよ!? た、確かにそれで死んじまったら、もきゅ子は元の体に戻れねぇもんなぁ。それこそジズさんの言葉を借りるなら、矛盾が生じるってことだわな)
「せやろ? たぶんやけども……この寂れたレストランを兄さんが流行らせたら終わりになるんやと思いますわ」
「きゅ? もきゅ~???」
(へっ? それだけ???)
ジズさんの話によれば、この世界はif……つまりもしもの世界であり、いわゆる並行世界なのだと言う。
本来ならば流行っているはずのレストランがこのように寂れているため、その誤った歴史を正せば俺は元の世界へと戻れるかもしれないとのこと。
「もきゅ~!」
(なんだ、案外簡単なことなんだな!)
「兄さん。話を聞いてるだけならそう思うかもしれへんけどな、歴史を捻じ曲げるくらいの出来事なんでっせ! そない簡単に物事が運ぶわけおまへんやろが!」
そうジズさんは憤りながらも、ある条件を満たさねばこの世界が正史に戻ることはないのだと言う。
その条件とは……。
「もきゅきゅ~っ!?」
(コイツの可愛さで客を呼び込めって言うのかぁ~っ!?)
「せや。姫さんはこの世界の魔王であると同時に、愛らしいマスコットキャラでもあったんや。それはこの店においてもそうなんや。せやからな、兄さんがその愛くるしい姿で可愛さを振りまいて、客を取り戻してこそ達成される……つまりそうゆうことでんなぁ~」
要するに元のもきゅ子っぽく振る舞いつつ、出来る限り客を呼び込め店を流行らせれば元の世界へと戻ることが出来るらしい。
果たして俺にそんなことができるのだろうか、不安でしかなかった。
第8話へつづく




