プロローグ
英国アマーダン。
現在ではダンディ州となっているが、以前はアマーダン州であった。
その旧州都となっていたのがグッディ市である。
ここは2020年にアマーダン公爵となるグッディ子爵が居城としている。
そこは、中世には吸血鬼が住んでいたとも言われている。
実際に住んでいたかどうか、ということについては、今は分からない。
ただ、それほど古いということだけは確かのようだ。
私は、グッディ子爵の関係者、手野グループの中心、手野男爵家の4男だ。
職業としては、大阪府手野市居住のジャーナリストをしている。
今回は取材で訪れた。
所属している手野新聞の連載コラム、『妖怪探訪』で書く予定の吸血鬼伝説の話のためだ。
アマーダンにあるアマーダンハウスで、グッディ子爵との会談に臨むことになっている。
アマーダンハウスは15世紀に作られた城で、総石造りのかなり凝った建物だ。
ちなみに、予約すると誰でも宿泊することができる。
「この度は、誠にありがとうございます」
執事によって子爵が待っている部屋へと通されると、すぐに握手を交わして挨拶をする。
向かい合うように置かれた椅子は、ふかふかにクッションが敷かれており、さらに肘置きは木製で、豪奢な彫細工が施されている。
背もたれと座るところには、どこかの博物館にでも収蔵されていそうな織物が敷かれていた。
「さて、まずはこちらをどうぞ」
執事に指示をして、子爵は子爵と私の間に置かれている円状のテーブルに、飲み物を持ってこさせた。
「ウエルカムドリンク、ということですか」
私は思わず聞いた。
「ええ、当領地でとれた果実を使用しました。いわば搾りたてのジュースということになります」
それが本当かどうかは知らないが、オレンジの香りはした。
「今回は、吸血鬼伝説についてのお話を伺いたいということで、よろしいですね」
「ええそうです」
さらにフルーツケーキ――ダンディーケーキというらしい――も一口食べたところで、子爵が言う。
「では、お話ししましょう。当地に伝わる吸血鬼について」