第9話 不思議な出会い 後編
「何だよ、こいつ! 俺、そっくりじゃねぇか!」
ガルタ迷宮のとある広間で氷の中の自分そっくりの顔をした人をじっと見続けている紅羽は、周囲が何者かによって囲まれているのに気づいた
「この氷の俺みたいなやつのことをもっと調べたいが、そうもいかないらしいな! おい、いるのは分かっているから、姿を現したらどうだ?」
姿を消して周囲を囲んでいた何者かが姿を現した。
「ここには人が居ないと思っていたが、そうではないらしいな! お前たちは何者だ?」
「我々は、ガルタ王国の炎雄騎士団だ! 我々はここにある迷宮の調査を王国から任されている。そういうお前こそ、一体何者だ? ここには、王族と騎士団しか入る事は出来ないはずだが?」
騎士団長らしき人物が警戒しながら、問い詰めてくるので、俺は頭を掻きながらどう説明するか考えていたが、騎士団が徐々に近づいてくるので、仕方なく嘘を交えながら話すことにした。正直に話しても信じてもらえないだろうから。
「え〜と、ここにはたまたま迷い込んだんだ。俺の後ろに通路があるだろ? あそこから来たんだ。」
「しかし、あの通路の先は行き止まりだったはずなのだが?」
「確かに行き止まりだったが、その壁の向こう側には鍵穴があって、それを俺の力で開けて来たんだ。」
「力? 魔法ではないな、そんな魔法など聞いたことがないからな! ますます怪しいな、捕らえさせてもらう!」
団長が手を挙げて合図をすると、周りの騎士たちが武器を構え直して一斉に襲いかかって来た。
「ちっ! 仕方ない、こうなったら力強くでいくしかない!」
紅羽が臨戦態勢に入り力を使うために声を出そうとした時、氷に亀裂が走りパキパキと音を立てて砕け散った。氷の中にいた紅羽そっくりの人が静かに目を開けた。紅羽だけではなく、騎士団もその人の方に目を向けた。
「……誰だ、お前たち? それに俺に似ているやつまでいやがる。どうなってやがる?」
見た目は紅羽に限りなく近いが、中身の方はそうでもないようだ。
「おい、そこにいる俺とそっくりなやつ! どうなってるか説明しやがれ!」
「俺にも何が何だか分からないんだよ! お前こそ何者なんだ!?」
「俺か? 俺は、この世界の魔王、クレハ・レジナニュートだ!」
「「ま、魔王だってえぇぇ!!」」
この一言に紅羽だけではなく、騎士団も驚いて叫ばずにはいられなかった。
「確か、魔王はドルノラ大峡谷にいるはず! こんな所で氷漬けになっているはずがない!」
「何言ってやがる、俺こそが魔王だぞ!」
神さまが言っていた息子というのは、こいつのことなのか? しかし、騎士団長の様子を見るにもう一人魔王がいるのも本当っぽいよなぁ。
そんな考えを頭の中で巡らしていると、騎士団長が動いた。
「お前の正体がどうであれ、二人とも捕らえることには変わりはない! お前たち、かかれ!」
騎士団長の合図で周りの騎士たちが再度襲いかかってきた。紅羽は臨戦態勢に入り直し、騎士たちの攻撃に備えるが、自称魔王は構えるそぶりもなく立ったまま目を閉じた。
「自称魔王は諦めが良いらしい。覚悟!」
騎士の一人が剣を振りあげて斬りかかろうとした瞬間、自称魔王が目を開き片手をその騎士に向けた。
「“風爆”!」
「ぐあぁぁぁ!!」
叫び声と共に斬りかかってきた騎士が吹き飛ばされて壁に激突した。
「今のは、俺のと同じ力だ! おい、自称魔王! その力、誰から貰った!?」
「ああ? 何言ってやがる、この力は俺自身の力だ! 誰からも貰ってねぇよ!」
それが本当なら、こいつがあの神さまの息子でこの世界の魔王ってことになるな。じゃあ、さっき騎士団長が言っていた別の魔王は一体何者なんだ?
そんな考えをよそに騎士たちは紅羽にも襲いかかってくる。
「隙ありぃ!」
騎士が振るう剣を紙一重で交わし、鎧の上から容赦なく腹を拳で殴りつけた。その衝撃で騎士が倒れていくが、次々と騎士たちが斬りかかってくる。
「お前も少しはやるようだな! 俺に似ているだけあるってことだな!」
「魔王に褒められるとは、光栄なことだ、なっ!」
魔王と話しながらも襲いくる騎士たちは殴って倒していく。騎士たちも面を食らいながらも斬りかかってくる。
「流石に騎士なだけあって、そこそこやるな! それに数が多いな。」
「それじゃあ、一気にやってしまうか! お前、避けろよ!」
「何をする気だ!?」
「こうするんだよ! “爆風暴雷”!」
魔王が両手を地面に叩きつけると、叩きつけた所から大きな亀裂が走り、その亀裂から激しい風と雷が噴き出した。周りにいた騎士たちはその風に吹き飛ばされて四方の壁に叩きつけられている。紅羽は、魔王が両手を地面に叩きつけると同時に高く飛び上がって回避した。
「おい、危ないじゃないか! こんなの当たったらタダじゃ済まないぞ!」
「良いじゃねぇか! 当たらなかったんだから!」
「おい、お、お前たち!」
騎士団長が魔王の攻撃で吹き飛ばされたにも関わらず、片膝をついて剣で身体を支えながら必死に立ち上がろうとしていた。
「おお、俺の爆風暴雷をまともにくらって意識を保てるとは。流石は騎士団長だな! だが、そのダメージでは立ち上がれないだろうがな!」
「お前たちはこの世界で何をするつもりなんだ? 魔王と言うだけには、世界の征服が目的か?」
「おいおい、俺はこいつとは全く関係ないのだが……いや、少しはあるか。」
「征服? そんな気はさらさら無いな! だが、魔王の名を語っているやつをぶっ倒しには行くがな!」
この魔王は神さまが言っていた息子とは、随分と違うようだが、さっきの力は俺が神さまから貰った力と同じもののようだし。そうだとしたら、神さまは魔王の名を語った偽物を息子と勘違いしているのかもしれないな。
「お前が大峡谷にいる魔王を倒すと言うのなら、止めはしないが、と言うより止める事も出来そうにないがな。しかし、大峡谷の魔王と同じことをしようとしたなら、たとえ勝てないと分かっていてもお前を炎雄騎士団の名にかけて倒しに行くぞ!」
「そんなことはあり得ないがな!」
魔王は階段の方へ振り返り、歩き始めた。ふと、紅羽は思うのであった。
あれ? 俺のことを忘れられてるよな? 一応、魔王を倒さないといけないのは、俺だと思うんだが……。
そう思いながらも、その場の空気を読んで歩いていく魔王に続いて階段の方へ歩き出すのだった。
騎士団との戦闘があった広間を後にした紅羽は、少し前を歩いている魔王に尋ねるのだった。
「なぁ、魔王? 何であんな所で氷漬けにされてたんだ?」
「ああ、それはこの世界でやる事が無くなって、暇だったから自分で自分を氷漬けにしたんだよ。何十年と眠るためにな。」
「眠るのに氷漬けになる必要があるのか?」
「何十年も眠る時は俺の身体が傷つかないようにする為に氷の中に入るのが一番良いんだよ!」
「そうなのか〜。」
納得した様子の紅羽に今度は魔王が問いかけてきた。
「それはそうと、お前は一体何者なんだ? さっきから、気になってるんだが?」
「俺はお前の父親、この世界の神さまに好き勝手やっている魔王を倒すように言われて、別の世界から召喚されたんだよ。」
「親父が、俺を? いや、俺じゃないか。偽物の方のことだろうな、多分。」
「そういうことになるだろうな。」
なぜこんな風に本物の魔王相手に普通に接しているのかが分からないが、本物の魔王が自分に似ているのもあるだろうが、悪いやつには見えないからだろうなぁ。
紅羽は自分と瓜二つの魔王と出会い、これからの道中を共にするのだったが、そのせいで大事件に巻き込まれることになるのだが、それはまだ先の話である。
遅くなってごめんなさい!