第8話 不思議な出会い 前編
薄暗い迷宮の通路を光の玉で辺りを照らしながら、一歩一歩進んで行く紅羽は、通路の壁に描かれている文字を見ながら歩いていた。
「さっきの部屋の中にあった壁画の文字がそこら中に書かれているなぁ〜、この世界の言葉なのか? それにしても、全然読めないな。少しでも読めたら、この世界のことが分かるかもしれないのに。」
しばらく壁の文字を見ながら歩いていた紅羽だったが、少し立ち止まってもっと近くで文字を見ようとした時、急に出していた光の玉が消えてしまった。
「ん!? 何で消えたんだ!? まぁ、もう一回出せばいいか、“光”!」
紅羽は光の玉を出そうとしたが、なぜか出てこない。
「何で出てこなくなったんだ!? もしかして、何かのトラップか!?」
周りを警戒しながら、ゆっくりと壁の方に背中を向けながら下がっていくが、壁に背中が着いたと同時に後ろの壁が消えてしまった。壁が消えたことに気づけなかった紅羽は、そのまま消えた壁の隙間から落ちてしまった。
「し、しまった! うわあぁぁぁ!!」
落ちていく紅羽の周りは何も見えないほど真っ暗だった。周りには何もないせいなのか、紅羽は止まることなく深く落ちていく。
「“光”! くそっ! やっぱり出ない!」
力を使おうとするが、なぜかまた発動することが出来ない。そうしている間に、段々と深く落ちていった。
しばらく落ち続けていたが、急に紅羽の身体に強い衝撃が走った。
「ぐはぁ!」
真っ暗で何も見えなかったせいで受け身を取ることが出来なかった紅羽は背中から地面に叩きつけられた。叩きつけられた地面には大きなクレーターが出来ていた。しかし、身体能力が高かったおかげで大した怪我はしていないようだ。
「痛って! 身体が丈夫で本当に良かった、でなきゃ今ごろ死んでたかもしれないな! この世界の先祖様に感謝だな!」
ゆっくりと立ち上がりながら辺りを見渡してみるが、真っ暗でよく見えない。
「大分落ちてきたからな、そろそろ力も使えるようになっただろう。でも、“光”って言うのもカッコ悪い気がするからな、もっとカッコ良い名前にするか!」
座り込んで考え始めたが、すぐに思いついたのか、手を上に掲げて叫んだ。
「“光天”!」
すると、掲げた手から前よりも大きな光の玉が出てきて、 数メートルの高さまで上昇すると炸裂した。炸裂した光は前とは比べられないほど遠くまで明るくて照らした。
「へぇ〜、呼び方一つ変えるだけでも大分変わるんだなぁ! 神さまが言っていた通り、想像力によって変化するんだな! やっぱり、この力は凄いな!」
神さまから貰った力に感心しながら立ち上がりクレーターを登っていく紅羽だったが、登りきった瞬間驚いて後ろに転げ落ちた。
「ええ!? 何だよ、これ!?」
紅羽の視線の先にあったのは、紅羽の身体の何十倍もある巨大なモンスターの石像だった。それは、獅子のような姿をしていた。
「うわぁ、ビックリした! こんなにでかい石像なんて初めて見た! でも、石像で良かったぜ。こんなモンスターには勝てる気がしないからな!」
石像だと安心して胸を撫で下ろした紅羽は、またクレーターを登って、その石像の側まで近寄っていった。
「近くで見ると、さっきよりもでかく感じるなぁ。まぁ、モンスターじゃないんなら大丈夫だろ!」
と言っている割には、内心は少し怯えていた。
ーー動いたりしないだろうな? やめてくれよ、頼むから!
恐る恐るその石像に手を伸ばしながら少しずつ近づいていく。そして、手の平が石像に当たった時、紅羽目を閉じた。
しばらく石像に触っていたが、動く気配はない。紅羽はそっと目を開けて石像を見るが何も変化はない。
「はぁ〜、驚かせんなよ! 触ったら動き出すのかと思ったじゃねぇか! こいつ〜!」
すっかり安心した紅羽はさっきとは変わって、その石像を叩きまくった。すると、叩いた所からみるみる紅く染まっていき、石像の全身が紅く染め上がってきた。
「何か紅くなったけど、何も起きないよな?」
すると突然、石像の目が赤く光って大きな音を立てながら、石像が動き出した。
「うわぁ!? 動き出しやがった! 動いて欲しくなかったのに! そう上手くはいかないよなぁ!」
動き出した石像は足元にいる紅羽を見ると、前足を大きく上げて踏みつけようとした。紅羽はそれを後ろに飛ぶようにして避ける。
「そう簡単に踏み潰されてたまるかよ!」
石像は前足を大きく上げて一気に振り下げた。大きな音とともに鋭いかまいたちが紅羽に向けて放たれる。
「な!? そんなのありかよ!?」
まだ空中にいる紅羽は、普通に避けることは出来ない。
「仕方ねぇ、まだ試したことはないけど、やってみるか! “空蹴”!」
空中で自分の足に触れて叫んだ紅羽は、空中を蹴ることができた。放たれたかまいたちを空中を蹴って避けることに成功した紅羽は、そのまま空中を蹴りながら加速し、石像に一気に近づいた。
「やっぱり、この力自分の身体にも効果が出るんだな! じゃあ、この攻撃も出来るはず、“裂壊”!」
そのままの勢いで石像に触って叫ぶと、紅羽が触った所から石像に亀裂が走り、大きな音とともに石像が破裂した。
「神さまが言っていたのは、生きている生物だけでこの石像みたいなただ動いているような物体には、直接攻撃出来るんだな! 初めてやってみたが、成功して良かったぜ、失敗してたら今頃、かまいたちで八つ裂きになっていただろうだからな!」
降ってくる石像の瓦礫を避けながら、後ろに下がった紅羽は、またしても後ろに大きな亀裂がある事に気づかずにその亀裂に足を滑らして、落ちてしまった。
「うわぁぁ〜! また落ちるのかよ!? でも、今度は力が使えるから大丈夫だけどな! “空蹴”!」
今度はちゃんと力が使えたようで、落ちそうになった亀裂から空中を蹴って戻って来ることができた。
「ふぅぅ。今度は落ちずに済んだぜ! さすがに同じ失敗を繰り返してたら、あいつらに笑われるからな! それにしても、この石像いったいどうなってるだ?」
石像の瓦礫を拾い上げて詳しく見てみるが、なぜ動いたのかはわからないようだ。落ちている瓦礫を避けながら辺りを見て回ると、さっきまで石像が立っていた場所に下に進めそうな階段を見つけた。
「こんなところに階段なんかあったか? いや、そうか。さっき石像が立ってたから、見えなかったのか! デカ過ぎてよく分からなかったわぁ!」
紅羽は瓦礫を避けながら、ゆっくりとその階段の所まで近づいた。
「この迷宮をさっさと脱出したいから、上に登る階段を見つけたいんだけど、石像が守るほどのものがここにあるってことだろうから、試しに行ってみるのも良いかもしれないな! この世界のことが少しでも分かるかもしれないしな!」
階段の先を確認しながら、一歩一歩慎重に降りていく紅羽だったが、階段を降り切ったところで行き止まりになっていた。
「何だよ、行き止まりかよ! って、そんな訳ないよな? 絶対何かあるはずだ!」
その行き止まりになっている壁を隅から隅まで見ていくと下の辺りに小さな鍵穴があった。
「お、やっぱりあった! 鍵穴か、俺には鍵穴なんてあってないようなもんだからな! “解除”!」
鍵穴に手をかざしながらそう叫ぶと、がちゃと鍵が開く音がして、行き止まりだった壁が徐々に上へと上がっていった。
「どんな秘密があるんだろうな〜? まぁ、進んでみたら分かるか、“光天”!」
壁が上まで上がりきったところで、光の玉で前を照らしながら進んでいった。
しばらくその道を進んでいくと、大きな広間にたどり着いた。持っていた光の玉を天井まで上げて炸裂させて、広間を明るくした紅羽が前を見ると、そこには一人の少年が氷の中に閉じ込められていた。紅羽はその氷の前まで歩いていき、少年の顔を見て驚いた。
「えっ………」
その少年は、紅羽にそっくりの顔をしていたのだった……