第2話 神さま(笑)との出会い
いつも通り二人と別れて家に帰った紅羽は、その日の夜、ふと、電気もつけないで考えて込んでいた。
「帰るときに助けた爺さんどこ行ったんだろうな? あの後、路地から出てきて来なかったし……まぁ、いいか! もう会うこともないだろうしな」
紅羽は、考えるのをやめてベットに横になった。
「まぁ、明日二人に聞いてみるか!」
そう呟き、静かに眼を閉じるのだった……
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真っ白な何もない場所に一人、紅羽は横たわっていた。
「う、う〜ん……ここは?」
目を開けて、周りを見渡しても辺り一面真っ白で何もなく、人の気配もしない。
「やっぱり、夢だよなぁ〜。これって、」
誰もがそう思っただろう。目を開けて見た光景がこんな真っ白な場所だったら、尚更のこと。
「でも、不思議な夢だな。こんな夢は初めてだ。」
「それもそうじゃろうよ!」
突然、後ろから声がして紅羽が振り向くとそこには昨日、ヤンキーたちから怜空が助けた爺さんが杖の上に乗っていたのだった。
「え、どうしてここに! あ、そうか。これ夢だもんな、昨日会った爺さんも出てきてもおかしくはないよな、たとえ、杖の上に乗っていたとしても。」
一人納得したような顔をしている紅羽をやれやれと呆れた顔で爺さんは見ていた。
「お前さん、これは夢じゃないんじゃ。ほれ、試しに頬をつねってみ! 痛みがあるはずじゃから。」
「いやいや、そんなわけないだろ! ほら、この通り! 痛く……イ、イタイタイタイ!」
言われた通り、頬をつねってみた紅羽は頬の痛みを涙目になりながら感じていた。
「ほれ、夢じゃないじゃろ!」
「ホントだな、夢じゃないみたいだな。」
「だって、この真っ白な世界に呼んだのはこの儂じゃからの〜! ちなみに、儂はお前さんのいた世界とは違う世界の神さまじゃからな!」
杖の上で胸を張って、誇らしげに自慢してきた。
「へぇ〜、神さま(笑)なんだ! すごいな〜!」
「微妙にバカにしてるし、信じてないじゃろ!」
「そら〜、信じろってほうがムリがある。」
「まぁ、仕方ないけどのぅ〜。ああ、そろそろ起きる頃かなのぅ〜」
「え、何を言って……」
そう言おうとした瞬間、爺さんと紅羽の間に突如として怜空と結城の横たわって状態で現れた。
「え! どうして二人もここに?」
「それは……まあ、二人がちゃんと起きたら話すのでなぁ〜」
そう言っているうちに、二人ともが少しずつ目を覚まし始めた。
「う、う〜ん、ここはどこ?」
「う〜ん? ここはどこなんだ?」
二人は少しずつ身体を起こしながら、辺りを見渡していた。そして、紅羽と爺さんがいることに気がついた。
「なんで、ここに昨日助けた爺さんと紅羽が? あと、ついでに結城と。てか、ここどこ?」
「なんで、ついでなのよ〜! え? 夢じゃないの?」
まだ夢だと思っている二人は、爺さんの正体もここが夢じゃないことも知らないのは当然のことだった。
そんな二人のそばに爺さんが杖の上に乗ったまま近寄っていった。
「お前さんら、ここは夢じゃないのじゃ! ほれ、試しに頬を引っ張りあってみ!」
「いやいや、爺さん! そんなアニメじゃねぇんだから!」
「そうだよ〜、そんなことあるわけないって!」
「まぁ〜、一応引っ張ってみるか! 結城の頬が伸びるところとか見てみたいからな!」
「それもそうだね! こうゆう時は一応引っ張ってみるもんだからね! 怜空のほっぺたが変なことになるのも見たいしね!」
お互いにストレスが溜まっていたのか、夢だからと思って本気で引っ張る気だ。まぁ、二人が痛がる姿は面白そうなので、何も言わずにいよう。
二人が向かい合ってお互いに頬を両手で掴み、睨み合っている。やっぱり、止めたほうが良かったかな。
「それじゃあ、せーのでいくよ!」
「おう!」
「「せーの!!」」
掛け声とともに二人とも本気で引っ張り合い始めた。
やめた方が良いのに……
「イ、イタイタイタイタイ!!」
「イッターーイ!!」
二人とも手を離して頬を抑えながら、痛がってる。爺さんが背中ごしにガッツポーズしていた。多分、紅羽の時もしていたのだろう。
「ほんとに夢じゃなかった!」
「夢じゃ……ないみたいだな!」
「ほれ、夢じゃなかったじゃろ?」
爺さんが得意そうに言っているのが三人とも少し腹が立ったのは、仕方がないことだろう。頬の痛みが少し引いた怜空が立ち上がって、疑問に思っていることを口にした。
「それはそうと、夢じゃないならここは一体どこなんだ? それに何で俺たち三人とも居るんだ?」
「そうそう! 何で三人とも居るの? あと、お爺さんは一体何者なの?」
「それは、儂が神さまで、ここは儂が創った世界じゃ! 三人をここに呼んだのは、儂が気に入った人間じゃからじゃよ!」
紅羽は、爺さんが神さまと先に聞かされていたので驚かなかったが、怜空と結城は少し驚いた表情をしていた。
「ええーー!! お爺さん、神さまだったのー!!」
「紅羽、ほんとに神さまなのか? 信じられないな。」
「いや、俺も未だに信じられないけど、多分神さまだと思う。その辺の爺さんが杖の上に乗ることなんて出来ないし。」
「それもそうだな!」
怜空は少し疑っていたが、二人とも一応信じたらしい。でも、普通は信じられないと思うのだが、結城は信じやす過ぎだな。
「お主らに信じてもらえたようじゃな! では、お主らをここに呼んだ理由を話そうかのぅ〜。」
杖の上から降りた爺さんは、その杖を地面に突き刺した。すると、何もなかった真っ白な世界がまったく見たこともないような世界に変わった。
「な、何だよ! ここは!?」
「いったい、どうなったんだ!?」
「すご〜い!! さっきまで何もなかったのに〜!」
この一瞬の出来事に三人とも驚きを隠せないでいた。それもそうだろう、この世界は紅羽たちがいた世界とは、全く違うファンタジーあふれる世界なのだから。
「ほほほ、凄いじゃろ? これが儂が創った世界なのじゃからのぅ〜! ほれ、下を見てみぃ!」
「下? 地面がどうしたって?」
「いやいや、怜空! 早く下を見て!」
「何をそんなに焦って……え!? う、浮いてる!!」
周りを観るのに精一杯で、下を見てなかった怜空と結城は、さっきから浮いてたことに気がついていなかった。ちなみに、紅羽は初めに下を見て驚いていたのだが、二人が気づいていなかったので、そのまま二人の反応を伺っていたようだ。紅羽は、人の反応を見るのが好きなようだ。
「そんなに慌てんでも、落ちたりはせんよ! それと、外から見える事もないしのぅ〜。」
「それなら良いんだけど。それで爺さん、俺たちをここに呼んだのは何か理由があるんだろう? それと俺と結城が五咲なのは関係しているのか?」
「察しがいいのぅ〜、さすがは五咲といったところじゃの! その通りじゃ! 五咲がいた方が都合が良いのでなぁ〜。」
「ちょっと、待ってくれ! 俺はどうなんだ!? 五咲でもなければ、特にこれといった特徴もないぞ!」
それを聞いた爺さんは、高らかに笑った。
「ほほほ、お主よ、嘘はいかんのぅ〜、嘘は〜。」
「えっ? 何かあるの、紅羽?」
「べ、別に何もないよ!」
さすがは神さまといったところか。全てお見通しらしい。紅羽がパルクールをやっていることも、それも世界一位の実力者だということも。
「紅羽〜! なに〜? 気になるから、教えて! ねぇ、怜空も気になるでしょ?」
「そうだな。おい、紅羽! 俺たちの間に隠し事は無しだぞ!」
「別に大したことじゃないって!」
二人ともこういう時、やたらと食い付いてくるところは似てるんだよなぁ。何で、こういう時だけ意見が合うんだよ。
「これこれ、五咲の二人よ! お主らも隠してる事があるじゃろ? 五咲の力の事とかの!」
「ちょっと! それは言ったらダメなやつ!」
「おい、爺さん! それは五咲の中でも最重要機密になってる事だぞ!」
「おいおい、お前らも隠してる事あるのかよ〜!」
爺さんは神さまであることをいいことに人の秘密をやたらとバラしたがるようだ。神さま失格だな。
「すまんの〜。つい、口が滑ってしまったのじゃ! 許しておくれ、どうせすぐに使うことになるからの〜!」
「それって、どういう……」
そう怜空が切り出そうした瞬間、三人の浮いていたはずの身体が地面に引っ張られるように下へ落ちていった。
「地面に激突せんように頑張ってのぅ〜!」
「「「え、ええぇぇぇ!!!」」」
この時、三人とも同じことを思ったことだろう。
ーーこの爺さん、ほんとに良い神さま(笑)してんなぁ〜と、