死そのものの死・ほか3編
死そのものの死
夜遅き埋葬/葬儀者との対話/破れた写本/すれ違った死者どもの群れ
先日ひどくおそろしい夢をみた/乾いた意識のさざ波/変容の象徴?
背高泡立ち草/夕焼けと遭遇のヴィジョン/そろそろ自らに閉幕を
妙に湿っぽい身体/膝はふるえ/腕はもがれて/けれど密やかに昂ぶる
深遠な流動星/狂った中心星/パニックとやら/支離滅裂の英字新聞
sudden death(突然の破局)/沈鬱な空気を裂いた/かげろうの亡霊
死屍への残忍な眼差し/罵声を放つ生者ども/相変わらずの銀色の空
出発点はもう見えない/聞こえない/触れないものを/お前はいずこ?
このままでは/不一致にぶつかってしまう/そんな煙草を思い出す
野石で塔を/ボーリンゲンの塔を/真鍮の光沢を/手に入れた喜びも
あつい土埃をかぶる/立ち去った・立ち去った/ただつまらないもの
隕石の欠片をにぎって/星の子供/月の子供/たった背丈を見つめて
心の入口に立っている/ちょっと不気味な子供/お前の様子を見ている
残されたもの/脱落していくもの/病床に臥し/色あせて見えるもの
仔羊の結婚/気高い台座/静かな死を守る朝/そっと目を閉じた先に
宛名のない手紙/剝がされた切手の跡/行方不明の旅客機が消えた先
飾りの欠けている向う側/門へ向かうとき/魂の巣箱はあすこへあるか
無辜なる遺骸よ/異郷をつなぐる接地点/死者は沈黙という形で物語る
けれど/誰だ!死者をさらに殺すのは/よってたかって傷つけ陥れるのは
死を認めぬおこがましい者/欠陥治療の果て/無慈悲な対話を求めている
論理に囲繞され/いつも以上に溺れる/お前は水のない海を想像できるか
全言葉を失った者/世界に穿つ瑕疵ひとつ/それがお前だ/それが私だ
行き止まりの先/空虚に存在する質量/不動の挙動/極右の極左/有の無
ほら/世界は霊に満たされている/死そのものの死が/世界を包んでいる
近づいても獲得できない/明日が手に入らない/それが約束/破棄できない
光もない/闇もない/絶無の水源からやってくるもの/死そのものの死
もう夕暮れ頃は過ぎている/死者からしか見えないものを大切にせよ
無限の汝
エイズ時代の私たちへ
突然くずおれる膝
忽然いなくなる友
冷静な日々はひび割れる
いくら泣訴しても戻らない
哀れなる私たちに救いを
そんな言葉は空虚にさまようだけ
救いを求める私たちを誰が見定める?
私たちだけが私たちを見ているに過ぎないのに
時代に流行る自分だけを手に入れるな
余計な自分・生き抜く自分・誘惑する自分
密告者・征服者・錺職の喪失
私の坩堝・私の混沌・私の健忘
涙・涙。あとどれくらいの私を持てる?
記憶に縛られない自分をどうにか
靭帯の引きちぎることを学んだ私は
もはや幽霊的な私になることしかできない
私は私を失う
早くそうしたい
早くそうなりたい
神殺しの儀式
埋め尽くされた神の遺骸
惨殺された人ならざる者の祈り
空中を漂う無念・それの成れの果て
神殺しの儀式をおこなう凡百の人間
土の壁・混ざりあう花びら・上澄みの精神
彼らの忘れてしまったものたちの美意識
神の死後写真を見事に撮影して喜んでいる
それは眩しくて目を瞑ることに似ている
微かな隙間の逆光だけが彼らを照らしている
散らした花びらは眼前にはもはやない
死滅
どうにもならない
近づいてくる靴音
どうやっても途切れない
靭帯の切れる音
喉音からこぼれる苦しい息
歯の痛みだけを共感できる
死滅すれば天国も地獄もない
死滅すれば・・・