方舟
方舟
楽園へ向かう方舟。
私と、お兄様は、楽園へ迎えられる事が出来るのでしょうか。
楽園は、私達を迎えてくれますか?
私達は、禁忌を犯した。そこにあるのは愛だけ。
この道を選んだことに、後悔はない。
二人の進む道を変えたのは、高らかに笑う白衣の男達。
被験体と呼ばれるお兄様。
今日は目。
昨日は腕。
一昨日は足。
お兄様の身体から、ひとつずつ失われていく。
私はお兄様の代わりができない。
泣いても喚いても変わらないこの世界。
被験体は、使い捨てという。
自分で動くことも出来ないお兄様は、今私の膝の上で眠っている。
眠っているのか、死んでいるのか、その失われた瞳には何も映らないから分からない。
お兄様…
私を、置いていかないで。
私を、嫌わないで。
私を、愛して。
お兄様は最後に残された右腕で、私の涙を拭う。
触れる唇は、死人のように冷たく、そして鉄の味がする。
「お兄様、私と一緒に…」
ひとつになって、方舟に乗りましょう。
私達が求める世界が、あの光の奥にあるのだから。
赤く染まったお兄様の肌に、私は己の赤を重ねる。
痛みも苦しみもない。これは、私達の愛の色。
深く交わる、赤と赤の融合。
次に目覚めた時は、私達の求める世界に居ると信じて、私は瞳を閉じる。
動かなくなった二つの塊を見つめている白衣の男は、方舟を呼んだ。
ひとつに結ばれたまま息絶えたその死骸を、共に埋葬する為に……