第4話 バトルというなの居眠り
「きりーつ、きょーつけ、礼」
学級委員長でもある高杉が号令を掛けた。
クラスの中でも異端児であると自覚している俺でさえ、日本の伝統を
大事にしたいと思っているのだが、今日に限っては男の名誉がかかって
いる。
「え~、はい。まずは、宿題をチェックしたいと思います。」
数学の高橋先生がそう呟く。
ここで、前回のおさらいだが、俺は今、俺のプライドをかけ、にっく
き悪魔の千春と、どちらが先に寝ることができるかという勝負をしてい
る。
ここまで、言ったら、何だ楽勝じゃんということが、認識できるが、
相手は、高橋教諭。
数々の武勇伝を残している彼は、まさに現代を生きる坂本龍馬の様で
あると……。
彼は、中学の頃、剣道部で全国に行くほど、強かったらしい、そんな
彼に「閃光の高橋」という異名が与えられたのも頷けるほど、彼の剣道
には迷いがなかった。
彼の活躍は、彼が教師として赴任してきても、衰えることはなかった
。彼は、初め、教師の立場としてではなく、生徒の目線になって物事を
考えようとしていた、だが、彼は温和の顔をしていたためか、よく生徒
から嘗められていた。そんな時、彼が出した答えは、
「俺の言うことを聞かねぇクズは、粛清されるべきだ。」
それからというもの、彼は素行不良な生徒をちぎっては投げ、ちぎっ
ては投げの繰り返しで、生徒を真面目にするどころか、崇拝の域にまで
達していたらしい。
閑話休題。
今、問題なのは彼をどうやって欺けて、寝ることができるかだ。
高橋教諭が、足早に生徒のノートを見て、頷きながら廻っている。
まだ始まって、5分もたってないが、彼女の様子はーー。
「ぐー、ぐー、すやぁー」
あーっ、ともう寝ている、早い早いぞ。
いったいどのタイミングで寝たのでしょうか?
私、気になります。
………今、思ったけどどうやって勝敗を決めるんだ?
寝たら、どっちが先に寝たかわからなくないか。
まさか、寝たふりをするわけでもないし。
「おーい、多度君、ノート開いて」
宿敵、もとい、爆睡魔に意識を集中させていたので気付かなかったが
近くまで、高橋教諭は来ていたらしい。
「先生、ノートを家に置いてきてしまいました」
「ダメだろう、次回はしっかりもってきて」
「はーい」
実際は、宿題をやってないのだが、やってきたがそのノートを忘れたとい
うことにすれば、意外に叱られない。
マメなテクニックだ。
問題は、次回までの宿題+今回となるので、最終手段だが。
そんな事を思っていると、千春の前に、高橋教諭がやって来ていた。
「千春さん、授業中ですよ。起きて、ノートを見せてください」
「ぐーぐがぐー」
寝言で返事するなよ。
高橋教諭は、さっきより大きな声で。
「千春さん、ノートを見せなさい」
「ぐー、ぐーぐすがー」
「いいかげんにしろ!」
「ぐー、ぐががあぁああ」
高橋教諭が、とても速いチョップを千春の頭に食らわせた。
ふっ、ざまぁみろ。
「なぁなぁ、俊。」
「どうした、高杉」
隣の席に座っている高杉が、ひそひそと小声で話しかけた。
「一応さ、俺、二人の勝負の審判頼まれていたんだけど」
まじか、でも証拠がない以上どうとでも言い逃れができるんだが…。
そういうと、高杉は、左手に持っていたスマホを取り出して俺に見
せた。
出されたスマホの画面を見ると、俺が千春の方をみて、にししと笑
っている写真だった。
いつとったんだよ、お前のスマホは、シャッター音ならないのかよ。
結果はどうであれ、俺は誰も得しない。面白味のない形で、勝負に
負けたのだ。だが、不思議かな。何も悔しさがこみ上げてこなかった。