第3話 授業ってどこかしらでためになるよな
痴女先輩からとの出会いの後、俺は自分のクラスに戻った。
遅刻してきたせいで、今は、昼休憩の時間だった。
今日、いろんなことがあったせいで、眠い。
机にぐだっと伏せて、眠っていると、不意にトントンと肩を叩かれたが無視した。
どうせ、俺に構う奴なんて、知れている。
そんな中で、こんな地味に攻撃する奴は、あいつしかいない。
「なんだよ、高杉!」
あまりのうっとおしさに、我慢できずに振り返る。
「にしし、今度は俺の根気勝ちだな!」
そんな勝負をやってないが、どうやらこいつは本気で俺に勝ったと思っているん
だろう、まったく子供らしいったらありゃしないぜ。
「で、なんかようか?昼飯なら食ってきたから一人で食えよ」
俺は、保健室の帰りに購買に寄り道して、先に焼きそばパンやらメロンパンを
食ってきたので、今はお腹がいっぱいだ。
「そうなのか、折角、お菓子作ってきたのにな」
「マジか!」
高杉は、男子なのに女子より女子力があり、お菓子や、裁縫など、主婦顔負けの
技術を持っている、今時珍しい完璧ヒューマンなのだ。
「今日は、何作ったんだ?」
我慢できず、うきうきした様子で聞く俺。
「今日はな、たい焼きを作ってきたんだよ!」
「たい焼きか、中身はなんだよ」
「クリームとか、餡子とか、チョコだな。おすすめが餡子で、なんと小豆から作
ったこだわりの逸品だぜ」
「こだわりすぎだろ……」
どこの和菓子専門店だよ。
「そんなに、こだわったなら、一個くれよ、チョコ」
あえて、こだわったものとは違うものを頼む俺、まじ性格悪いな。
高杉は、俺に苦笑いを向けると歯切れ悪そうに言う。
「あのな、怒らないで聞いてくれよ。」
「なんだよ。俺がいつ誰に怒った、心配しなくても誰に対しても怒る気はねぇよ」
当然だ、俺は元来、平和主義者だから面倒事がもっとも嫌いだ。その面倒事に2回
も今日、出会ってしまった。疲れてそれどころじゃねぇよ。
「今日、作ったたい焼きな、全部千春に食われた…」
「こらぁあ!、てめぇ、千春、どこにいやがる」
これには、俺でも怒る。なにを言おうとも平和の菩薩みたいな俺でも怒るわ!
当の本人は、しれぇーとした顔で、女子のグループで話していた。
「おい、千春。てめぇ、なにしといてくれてんじゃあ。」
「ん、何さ、俊。まるで、私に唯一の学校で楽しみにしていたイベントである高杉君
のお菓子を私に食べられたことで猛烈に怒っているみたいじゃない?」
「おう、説明ご苦労。まさにその通りじゃ、どう弁償するんだボケ!」
昭和のヤンキーみたいに立て振る舞う俺。
「なに、やるっていうの?今朝のことクラスにばらしてもいいの?」
「なっ?!」
そうだった。今朝の告白の話を聞かれていたのだった。
こいつの名前は、春日井 千春。
小中学校から一緒で何故か、高校も一緒という腐れ縁である。
対戦成績は21勝22敗で、何かと勝負しては負けている。
このままでは、運動馬鹿であるこいつにいいようにやられてしまう、何かいい秘策はない
ものか。
「あのさ、俊!このままじゃあ、男としてのメンツがないでしょ!勝負しようよ!次の授
業で、ケリつけようよ!」
次の授業で勝負だと……。
確か、次の授業は、眠たくなる子守唄で有名の高橋先生の授業。
まさか、こいつ……。
「さすがの、俊でも分かったでしょ。そうどちらが先に寝ることができるか。」
な、なにぃぃいいい。
ま、まさか寝たら負けの勝負ではなく、寝て価値の勝負だと…。
くっ、バカげている、だが、それでこそ俺のライバル。
「いいぜ、勝負だ、俺が勝ったら、俺のあの件を秘密にする、そして、お前は今日、俺の
命令に従う、ということでいいか?」
ふっふっふ、プライドの高い千春のことだ、普通の女子は断ることも、こいつに関しては
屁とでも思わないはずだ。
俺が、勝ち誇った顔で、千春を見据えると、なんとこいつは余裕の顔で涼んでいやがった。
「おいおい、無謀すぎて、降参か?」
あまりにも余裕な表情を崩さない千春に、俺は挑発する。
「ふっふ~ん、甘いね、俊。もうここから勝負は始まってるんだよ!」
まさか、まだ勝負までにあと15分の猶予がある、どういうことか尋ねると、大胆不敵な
彼女は、口を大にして言った。
「あのね、私も噂で聞いたんだけど、どこかの国ではね、勝負する人のことを決闘者って
言うらしいの……」
「………決闘者?」
聞いたこともないワードだ、でも何か叫びたくなる響きだな。
「その人たちが言うには、たかがゲームでも命を懸けることになるらしいの」
はぁ?命をかけるだぁ?そんなんじゃ、命がいくつあっても足りないじゃないか。
「まあ、あくまでの噂だから、気にしちゃだめね」
自分から言ったくせに、まったく無言のパンチをくらわせたいぜ。
きーんこーんかーんこーん。
ひどく鈍った音が教室を駆け回る。
今のチャイムは、昼休憩が終わった合図。
俺と千春は、お互いを向かいながら、熱い闘志を見せる。油断したら負ける。
俺は、相手を見据え、冷静に席に着くのだった。