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藪柑子村 開墾地 村童夜話   第1話  片眼が白濁した少年の物語  (小夜物語 外伝)

作者: 舜風人

前書き


この物語の舞台はまだ戦後の焼土も収まりきらない、昭和26年ころの藪柑子村という、僻遠の、山奥のぽっかり開けた台地上の

開拓村での、とある少年が見た、源風景です。


その開拓村は高原の果ての台地上のところで、すぐそばまでうっそうと茂った雑木林が迫ってきていて

その雑木林は、森林というほどは、密植していませんがそれでもほとんど手つかずの状態で

原生林?っぽいんです。


その雑木林には、野ウサギやシカやキツネ、タヌキが住んでいて

季節になると、栗やクルミ、アケビが実り、秋茱萸が実をつけて、少年の口腹を満たしたのです。

当時、コンビニなんてありえませんからね。

その頃の私たちは、野生少年そのものの暮らしでしたよ。

そんな雑木林と少年と村人との交流を描いた物語

それがこの村童夜話なのです。





第一話  眼が白濁した少年の物語  (小夜物語 外伝)




今でも思い出すのはこの村に何の因果か?生まれ合わせたこのわたくしの、奇妙な運命なのです。

一帯こんな不思議な村がほかにも、あるだろうか?

そしてそこに住む不思議な村人たち、

あれから60年今そこに帰ろうとしても決して帰れないいわば幻想の村。

今はもうどこにも存在しない村。

マヨイガ(迷い家)のような

隠れ里のような

永久に失われてしまった村。

それが藪柑子村なのです。

そんな村になぜ私が生まれたのか、まさか語り部としてのお役目でも授かった?とでもいうのだろうか?

なぜ?

この村なのか?

なぜこの私なのか?

全く分からないのです。

気が付いたらこの村にいた?

生まれていた?

なぜ?


わからない。


なんでそうなったのか全く分からない。

だが、、私は60年前に見たことを聞いたことをどうしても語らざるを得ない衝動に駆られて夜も眠れないのだ。

それは一種の強迫観念となって日夜私をさいなんだ、

果たして?語ってもいいものだろうか?

悩んだ末こうして場所と人名を匿名にして語り残そうと決心したのだ。



これから述べることが本当のことなのか?

それとも私の妄想にすぎないのか?

その判断はあなたにお任せします。

デタラメ?と思うもよし、

本当かも?とおもうのもよし、

信じるか

信じないか


それはあなた次第です。


ただ、、、、私は語りのこさずにはいられなかったという事実だけがあるいは唯一の真相なのかもしれませんね。それとも?この私自身すら、、幻想であり、本当は?私なんて、もともと存在していないのかもしれませんものね。私は本当は影法師、、幻想の影法師なのです。






藪柑子村の昭和26年だった。

私の親友で、、文吉(仮名)という名前の少年がいました。

その少年は村の奥のほうで、、村で火葬場として使っていた新田?という場所の近くのわらぶきの家に住んでいた。新田は当時、公設の今のような火葬場のなかったころ、昔から村の火葬で使われていた場所だった。たぶん?江戸時代にさかのぼると思う。川っぷちで、すぐ下がもう河岸段丘の崖になっていて、

その一帯が広場のように開けていて、、村で死人が出ると、そこに運び、枯れ木を積んで、火葬したという。文吉の家はその近くで、昔から、火葬があるとその手伝いをして、報酬を得ていたらしい?

ところで文吉は私ととても仲が良かった、

私はいつも学校帰りに一緒に帰り、日が暮れるまで一緒に雑木林で茱萸採りをしたり狐の穴を探したり、手作りパチンコで小鳥を撃ったりして遊んだものだった。

文吉はなんだか私以外の子はみんな遠ざけているのも事実だった。

文吉のそれは容貌によるものだったかもしれない。

文吉の左目は白濁していて、黒目の部分も真っ白だった。

私は別にそのことを文吉にあえて尋ねたことはなかった。

聞いてはいけない?というのでもない。

そういう子なのだ?と自分なりに納得していたのだと今にしては思う。

ずっとのちになって母から聞いたところによると、文吉が幼いころ、スズメバチに目を刺されて

白濁、、失明したのだという。ただ?それも母の作り話?の可能性もある。

本当は火葬の時の燃えカスがはぜて、飛んできて文吉の目に刺さったのだという人もいる。

文吉の父母は本業は土木作業員で、町のほうに夫婦で出かけて行っては道路普請や土手の補修に携わっていた。

文吉の父は熊蔵(仮名)という名であるとき工事現場で事故にあい、右手の指が3本切断というけがを負い、それでも、その後も暮らしを維持するために土木の仕事は続けていました。

私が少年の当時は、土木はもう、やめざるを得なくて、リヤカーを引いて屑屋さんをしていました。

遠くの村までリヤカーを引いて、古鉄や古着とか古道具を回収してきてそれを町の問屋に売るのです。

文吉の母親は、生まれつき、背中に大きなこぶがあって、背中が大きく曲がっており、歩くのも不自由な様子でした。それでも熊蔵さんと一緒に、いっぱい古鉄くずを積んでりやかーを押しているのを見たこともあります。その当時、

文吉の祖母がまだ生きていてその祖母というのは、片手先と鼻が欠けていて無いのでした。

なんでも私の母によると、このおばあさんは若い時に都会で、芸者まがいのことをしていたそうでそのときにいい旦那が客について、いたのだそうですが、それが酒乱でして、些細な痴話げんかがもとで荒れ狂い、どこからか日本刀を持ちだしてきて振り回してこのおばあさん(当時は若くって芸者?)手と鼻をそぎ落としてしまったのだというのです。

それで仕方なく村に出戻って着てそこでこの熊蔵さんを身ごもっていたので生んだという話です。

さて私と文吉はとても馬が合って❓仲良しでしたね。

放課後は何時も一緒,夏休みもいつも一緒でした。

多くの、少年が一種の通過儀礼?でやるような、まあ、罪のない?悪いこともしました。

昭和26年ですからやることも、すごい、レトロ?ですがね。

今では死語?のようなことばかりです。

柿泥棒、、というのがあります。よくサザエさんの漫画に出てきますよね。

人んちの畑や森の野性の柿を盗んで食べるのです、

いまこんなことする少年って?ありえませんよね?

雑木林の栗もよく拾って食べました。

そこらの、雑木林といっても当然所有者はいるわけですら厳密に言えば、クリ泥棒ですよね?

まあ当時はそんなことをとがめる人など皆無ではありましたけどね。

柴刈りだって厳密に言えば他人の雑木林の柴を無断でもってきてしまうのですから

泥棒ですよね?

まあでも、当時は万事鷹揚で、そんなことを目くじら立ててとがめる人もいませんでしたがね。

あの当時民んが平等に?貧しくて。でも鷹揚で?

ナアナア、、で暮らしていたそんな時代でした。

ある意味いい時代だったといえるでしょう。

仲の良かった文吉と私も、私が、中学出て遠い町の高校に進学することになって

この村を離れて下宿暮らし、、交友の縁が切れてしまいました。

文吉は中卒で、川崎にある小さな鉄工所に集団就職したそうです。

その後私は文吉がどうなったのか知り得ません。

私はさらに高卒後東京の大学に進学して故郷から遠く離れて卒業後はさらに遠い縁もゆかりもない他県に就職です。

文吉君のことなど、私の頭からすっかり消え去っていたのも事実でしたね。

あれから60年、私もすっかりおじいさんになりました。

その間実にいろいろなことがありました。

つらかったこともたくさん、ありましたよ、

まあ楽しいこともちょっぴリはありましたがね。

そうして、、定年退職、


そんな日々にふっと?

そうだ、、文吉君って子がいたよね。

と、妙に、まざまざと思い出したのですよ。


文吉はそれからどうしたのだろうか?

川崎の小さな鉄工所でずっと勤め上げたのだろうか。

それとも、多くの集団就職の子供たちがそうであったように、

すぐやめてしまってその後転々と職を変えたのだろうか?


そして文吉の両親は?

熊蔵さんは、

あの背中が曲がった文吉の母親は、

あの鼻が欠けたおばあさんは。


いま私の生家も跡形もなくなり、私の父母も20年前に亡くなっていますので、

調べようもないのが事実です。


全く分かりません


私の生まれた村はその後、、限界集落となり、

やがて廃村になったそうです。

いまそこに行っても、そこはただの一面の雑木林が繁茂してるばかりです。

かってこの辺りに村があったなんて痕跡すらありません。


そうして、、、


この私の記憶の中だけにある「幻想の村」のことなど、

ましてやそこに住んでいた庶民がどうなったなど、


誰に尋ねようもないような

いまとなってみれば、、、


まさに私の幻想と見まがうようなそれはまさに「カゲロウ」にすぎないのかもしれないのでしょうね。




おわり











㊟この物語は完全なフィクションであり現実に存在する一切とは無関係です。


































































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