表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/148

第九話

 ことの始まりは、昨夜のこと。


 「大坂町奉行から知らせがあってな、どうやら壬生浪士組の名を(かた)り暴れている(やから)がいるらしいということだ。まぁ大坂町奉行の連中は俺たちの仕業を疑って、知らせをよこしたんだろうがなっ」

 土方は眉間にシワを寄せ、苛立った口ぶりで話す。


 「それでわたしたちに大坂に行って、その浪士を捕縛せよと?」

 総司は隣に座る斉藤一コト銀三と顔を見合わせると、不機嫌そうな土方ではなく近藤に聞いた。


 「まぁ、そういうことだ」

 近藤が頷くと総司と銀三は揃って立ち上がり「承知しました」と告げ、部屋を出ようとする。


 それを黙って見ていた土方が2人を呼び止めた。

 「話はまだ終わってねぇぞ」

 総司と銀三がほぼ同時に振り返ると、近藤は静かに頷いた。


 「ここからが本題なんだが・・・・・・今回はわたしも同行することにしたよ」

 「??どうしてですか?局長である近藤先生が自ら行かなくても良いのでは?」

 総司の言葉に近藤は土方と顔を見合わせた。


 「俺も初めはそう思っていたんだが・・・・・・間の悪いことに芹沢さんに聞かれちまってな。自分が行くと言い出したんだ。壬生浪士組の汚名返上のために局長として出向かない訳にはいかないってな」

 ずっと不機嫌な顔をしているのはそのせいか、と銀三は内心呟く。


 つまり。

 芹沢が局長として出向くと言っている以上、近藤も出向かなければ局長としての面目を保てない。

 というより派閥争いの最中、芹沢だけに手柄を挙げられては困る。

 というのが土方の本音といったところだろう。


 「とはいえ、市中見廻りも(おろそ)かにするわけにはいかない・・・・・・で、今回俺は京に残ることにした。そのかわり山南さんに同行して貰う」

 「芹沢先生の方はどなたが?」

 土方の言いたいことを理解したのか、銀三が質問をする。


 「平山と野口が同行して、新見と平間が残るそうだ」

 「なるほど・・・・・では、こちらは原田さんや永倉さんも同行したほうが良いのでは・・・・・?」

 銀三が提案するのと同時に、土方はニッと口の端を上げ笑った。


 「さすが、斉藤だな。俺も同じことを考えてた・・・・・・あと源さんにも行って貰おうと思ったんだが?」

 土方が同意を求めるかのように近藤を見ると

 「そうだな。ここは年の功ってことで、源さんにも付いて来てもらうか」

 と、納得した表情を浮かべて頷いていた。


 「じゃあ早速、皆に伝えて支度をしないといけませんね?」

 相変わらず呑気な顔で総司が言うと、土方は少し呆れた顔をしながらも小さく頷く。




 「というわけで、急なんですけど・・・・・・」

 「そうですか・・・・・・それで、ご出立は?」

 少し淋しげな顔であかねは総司を見つめる。


 「そ、それが・・・・・・明日なんですよね」

 あかねの視線に、申し訳ない表情を浮かべ頭をポリポリっと掻いた。

 「あ、明日!?ですか?・・・・・・そ、それは、また急ですね」

 さすがのあかねも、これには苦笑いするしかなかった。


 正直言えば、自分もついて行って総司の盾になりたい。

 が、それは許されないだろうということも解っていた。


 そんなあかねの気持ちを読み取ったのか、総司はあかねの頭にポンっと手を置くとニコッと笑った。

 「大丈夫。何も心配いりませんよ?すぐに下手人を捕まえて戻りますから、ね?」

 優しく言う総司の言葉に、あかねは素直に頷く。 



 総司と別れひとり部屋に戻ると、部屋の中には銀三(ぎんぞう)の姿があった。

 思わぬことにあかねは目を見開く。


 「わぁっ!びっくりしたっ!!」 

 「部屋の前で待っていると、人目につくからな。悪いと思ったが勝手に入らせて貰ったぞ」

 「もうっ、脅かさないでよね!?」

 少し膨れっ面であかねが睨むと

 「スマン」

 と、銀三(ぎんぞう)は申し訳なさそうに頭を掻いた。


 「で?」

 「あぁ、明日から大坂に行くことになったんでな」

 「兄さまから聞いたよ・・・・・・そうだ、そんなことよりっ」

 あかねは思い出したように銀三(ぎんぞう)に詰め寄ると、銀三(ぎんぞう)は少し寂しそうな顔をする。


 「そんなことって・・・・・・お前。ちょっとは寂しいわぁ。とか心細いわぁ。とか気をつけてねぇ。とかないのかよ!?」

 銀三(ぎんぞう)が抗議するかのように言うと

 「・・・・・・そうだね。寂しくて心細いけど気をつけてね」

 と、あかねはしれっと言われた通りの言葉を羅列する。


 「なんだぁ!?その心のこもってない棒読みな言葉は!?」

 銀三(ぎんぞう)の抗議を軽く受け流したあかねは、言いたかったことを続けた。


 「どうして会津様はこの浪士組に資金援助してくださらないの!?」


 壬生浪士組の台所を預るようになって、ここが思っていたよりも貧困なことに気がついていた。そのことを調べているうちに、会津藩から俸禄が下されていないことを知ったのだ。

 そのため大店(おおだな)から結構な額の借財をしていることも・・・・・・。

 おそらくは、明里が言っていた芹沢の悪い噂というのも金絡みのことだろうとあかねは予想していた。


 こういうことは、総司に聞くよりも会津と通じている銀三(ぎんぞう)に聞く方が早いと思ったのだ。

 あかねの言葉に一瞬銀三(ぎんぞう)は言葉を失ったが、ひとつ息をつくとあかねをその場に座らせる。


 「いいか?あかね・・・・・・この浪士組は寄せ集めの部隊だ。後ろ盾になるだけでも、藩内では批判の声が多い。その上俸禄(ほうろく)なんて(くだ)してみろ?間違いなく反対派が黙っちゃいねぇ。ここを敵視するものも現れるだろう。容保様とて苦渋の決断をなされたんだ。それも、ここの浪士たちを守るためにだ」

 「・・・・・・でも、そのせいで無茶な借財をしているのも事実でしょう?」

 銀三(ぎんぞう)の言葉に、落ち着きを取り戻したあかねが冷静な声で意見する。


 「まぁ、確かにな・・・・・・そんなことは俺もわかってるさ。だが、今の状況じゃ無理なんだ。それが現実だ・・・・・・」

 そう言って顔を背けた銀三(ぎんぞう)の横顔が辛そうに見えて、あかねはそれ以上言い返すことが出来なかった。


 「ごめん・・・・・・・」

 (うつむ)いてしまったあかねに銀三(ぎんぞう)は優しく頭を撫でる。

 「お前の気持ちもわかるが、ここは(こら)えてくれよ?」

 「うん・・・・・・」


 「それで?今度は心を込めて『(ぎん)がいないと寂しい』って言ってくれるのか?」

 少しおどけた口調で銀三(ぎんぞう)が言うと、あかねは少し目を潤ませる。

 「うん。寂しいよ・・・・・・」

 「あかね・・・・・」

 潤んだ瞳で見上げられ、思わず抱きしめたい衝動に駆られたのも束の間。


 「兄さまと離れるなんて・・・・・・」

 「そっちかよっ!?」

 ガックリと肩を落とした銀三。

 それを可哀想に思ったのか、あかねが銀三の顔を覗き込む。


 「ふふふ・・・・・・それも正直な気持ちだけど、やっぱり銀三(ぎんぞう)がいないと寂しいよ?からかう相手がいなくなるし・・・・・・」

 「銀三(ぎんぞう)言うなっ・・・・・・しかも、からかう相手ってなんだよっ」


 少し怒ったように銀三(ぎんぞう)はあかねに背を向けると、その背中にあかねがそっと頬を寄せ自分の体重を預けるように寄りかかる。

 「!?」


 「気をつけてね、(ぎん)・・・・・・・」

 あかねには見えなかったが、この時の銀三(ぎんぞう)の顔は赤く染まっていた。


 「あぁ・・・・・・・」

 照れていることを、悟られまいと銀三(ぎんぞう)は小さく返事を返しポリポリと額を掻いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ