夜の話
いつから焚きだしたのか俺達は火を囲んで居た。
鮪乃山さんはあれからすぐに寝てしまって、俺を含む3人もほど良く酔っていた。
結局酒入りのコーラを飲んでしまった俺は、
ポーっとした頭で此処にきたときから気になっていた事を試しに張さんに聞いてみた。
さっきは答えてくれなかったけど今度はノリで答えてくれそうな気がした。
「 張しゃん。」
「 お、何だ清水。フラフラだぞおめぇ。」
そう言っておきながら張さんの顔は真っ赤になっている。
「 いやぁ。どーしてここのパイプが壊れてるってわかったんれすか?」
呂律が回らなくなっている俺の筆問に張さんは、ガハハハ。と笑ってから答えた。
「 なんだよ。まだ気にしてたのか? ここだけ話だから誰にも言うんじゃねぇぞ。」
ヘラヘラになりながら張さんが耳打ちで教えてくれた。
「 あそこは元々半年前にも俺達が工事したんだよ。そん時、仕上げに少しパイプとパイプを
つなぐボルトを緩めておいたんだ。」
「 へぇ。何でまた?」
自然と浮かんだ疑問を口にした。
「 ったく、清水は鈍いなぁ。 そんなの仕事を増やすために決まってんじゃねぇか。」
張さんは耳打ちを止めて、一升瓶を逆さまにして底を叩いた。
生憎酒はもう出てこない。
「 なぁ〜るほろ。」
俺は納得してポンッと手を叩いた。
そうゆうことってばれたらマジでやばくないですか?
・・・・・。
誰も相づちを打ってくれないので周りを見渡すと、
張さんはもう寝ていた。
残ったのは俺と黒さん。
(今気付いたけど俺ってやっぱり酒に強いのか?)
黒さんは相変わらずキャサリンとイチャイチャ(?)している。
張さんが寝たのに気付いたのか、ふと気がついたようにイチャイチャするのを止めた。
すると、黒さんは俺をまっすぐ見た。
「 今聞いた事たこと・・・・。」
「 へ?」
俺は少し拍子抜けた。
「 誰にもホントに言っちゃ駄目だよ。」
会って以来の真剣な口調だ。
「 分かってますってぇ。」
「 なら良し。」
ニコッと黒さんは笑ってそこら辺にあったカップ酒を手にとって話し出した。
「 俺らは金が必要なだけなんだ、それだけ、清水君は何故此処に?」
「それだけ」という言葉が俺に向けられたものではなく、黒さん自信に向けられたもののような
気がした。
「 俺も金が欲しいだけすよ。彼女にプレゼントをあげようと思って。」
「 ほぉ。良い心構えだね、彼女は幸せ者だ。」
黒さんに誉められて照れた俺は「そりゃどうも。」
と言って頭をかいた。
「 俺にもねぇ。昔、愛した人が居たんだ。」
少し意外だった。
こんなチャラチャラした人にそんな人が・・・。( かなり失礼だ。)
「 俺を真っ暗な日常から出してくれたんだけどねぇ。もう居ないんだ。」
「 え? それって。」
もう居ないって事は・・・・
「 死んじゃったんだ。」
「 す、すみません。」
黒さんに嫌な記憶を思い出さしてしまったろうか。
俺の想像とは裏腹に黒さんはハハハと笑った。
「 謝る事なんて無いよ。 もうずいぶん昔の事だから。」
「 でも・・・・。」
「 良いんだって。でも・・・・やっぱなんか悔しいんだ。恩返しがしたかった。もっと多くの時間を
ともに過ごしたかった。せめて最後の瞬間だけでもそばに居たかった・・・・・。」
炎の明かりに照らされた黒さんの横顔はとてもセツナイ顔だった。
「 清水君も仕事は良いけど彼女との時間は大切にした方が良いよ。
後悔しないように―――――――清水君?」
「 はい?」
「如何したの?」
黒さんが驚いたように俺を見ていた。
如何したって?
あれ?
何だろう。
涙が止まらない。
「 す、すみません。」
何故だろう?
酒の所為で涙もろくなったのかなぁ。
でもきっと黒さんはまだその彼女のことを愛しているんだ。
だからあんなに悲しそうな顔をするんだ。
そんなことを考えたら涙がさらに溢れた。
「 男の子がそんなに泣いちゃ駄目だよぉ。」
そう言って黒さんがロールペーパーを差し出した。
横のトイレのじゃないことを祈りながら鼻をかんだ。
「 すみません。」
「 また、あやまるぅ。良いって言ってるのに。」
「 はい。」
俺はそう言ってうつむいた。
「 いやぁ。この話をするのは久しぶりだなぁ。あ、恥ずかしいからこのことは二人の
秘密だからね。」
黒さんはいつなまにかいつもの口調に戻っていた。
「 はい、分かりました。でも、黒さんの彼女も幸せだと思いますよ。
天国できっと笑顔で黒さんのこと見守ってると思います。」
「 ありがと。今も近くに居るしねぇ。」
そう言って黒さんはニッと笑った。
「 え? 」
近くってもしかして幽霊かなんか・・・・・・?
結論に達する前に俺はついに睡魔に負けた。
空は明るくなり始めていた。
と、思う。