キャサリン
「 清水!突っ立ってないで仕事すんぞ。」
「 あ、はい。」
張さんに声をかけられ我に返った俺は張さんの後に続き穴に入った。
( 体にロープを巻くのを忘れないように・・・・・。)
穴の中は肌寒くて寒気がした。
何メートル降りたんだろうか?兎に角底に着いた。
黒さんがシャベルで穴を下へ下へと掘り進んでいた。
それにしても物凄いスピードだ。
黒さんはモグラかなんかじゃないかと思うくらい器用にシャベルを使って掘って行く。
掘った土は空中に高く放り投げられるけどけしてオレや張さんの頭には落ちてこない・・・。
気になって上を見上げてみると土は遥か地上の穴の出口で見事にカーブして淵に山済みになって居るみたいだ。
プロだ。
黒さんは凄い人だ。
「 おい、黒!オレと清水が掘るからお前上に上がって土運べ。」
張さんが黒さんに話しかけたと思ったら土を掘っていた時よりも凄いスピードで張さんに近づいた。
黒さんは張さんの手をとると言った。
「 棟梁、僕にそんなすばらしい仕事を与えてくれるんですか?」
「 あぁ、そうだ。 面倒くせぇからとっとと行きやがれ。」
「 そうだった!」
黒さんはハッとしたように穴の入り口を見た。
そして。
「 キャサリーン!!!!」
は?
黒さんはそう言ってロープを使わず外まで出た。
キャサリンて誰だ?
「 清水、そんな馬鹿面してんじゃねぇよ。そんな大したもんじゃない。」
「 でも。」
メチャメチャ気になります。
「 なら見て来い。」
「 良いんですか?」
「 言っただろう、大したものじゃないって。」
そう言ってタバコをくわえた。
張さんの背中に見送られた俺は黒さんみたいに運動神経が良いほうではないので
(良くても上れないと思うけど・・・。)ロープをよじ登った。
穴の入り口に顔を出してみた。
黒さんは一輪車で土を運んでいる。
頭に『♪』がたくさん飛んでいるのは気のせいだろうか?
その間も、『キャサリン』と言う単語はとまることなく黒さんの口から放たれていた。
穴から少し離れたところから土を置き終わった黒さんがこっちに帰ってきた。
俺は慌てて頭を引っ込めようとしたけど少し間に合わなかった。
黒さんは俺に気付いて一輪車を押して俺の前で止まった。
「 清水君にはまだ紹介していなかったね。 僕の彼女のキャサリンだ。」
そう言って一輪車をポンポンと叩いた。
あぁ。
そういう事でしたか・・・・。
俺は気付かぬ振りをして穴の中に居る張さんの所へ戻った。
張さんはまだタバコを吸っていた。
「 張さん、黒さんってあっちの人だったんですか・・・・?」
張さんは穴の中に紫煙を漂わせると言った。
「 今頃気付いたのか?」
「 え? やっぱりそう――――」
「 んな分けないだろ。 アイツは単なる仕事馬鹿だ。」
俺の言葉を遮り、フッと笑うと張さんは火を消し穴を掘り出した。
「 はぁ・・・・。」
俺は曖昧に言葉を発してからシャベルを持った。