張さん
学校が終わってから、作業着に着替えて恵比寿公園に行った。
薄暗い林の中にある恵比寿公園はちょっとしたお化け屋敷気分になる。
さっそくトイレの横に行ってみた。
そこが俺のバイト場所、水道管の工事らしい・・・・・・。
半年前にも同じ工事をしたらしいのだがまた壊れたらしい。
何故だ?
まぁ、細かいことは気にしないことにした。
新しい事を始める時っていうのは如何しても中学生だった頃を思い出す。
デカイ学ランを来て友達と部活見学行ったな。
そんな事を考えながら辺りをキョロキョロ見回した。
『工事中』のやたらと高い柵で囲まれているトイレの横には誰もいないみたいだ。
「 よっ!新入りか!?」
バンっと背中を叩かれ、振り向くといかにも人の良さそうなオジサンが立っていた。
口にはタバコ、頭にタオルを巻いて、俺と同じ作業着を着ている(お腹も少し出てる)。
「 あ、はい。 清水って言います。」
こういうことは初めが肝心だから、きちんと挨拶をした。
俺の返事を聞いてオジサンはニカッっと笑うと、
「 俺は張ってんだ。礼儀正しい兄ちゃんじゃねぇか、どっかの新入りとは大違いだぜ。」
と、張さんは愚痴りながら柵に付いている戸を開けた。
「 清水、こっち来いよ!」
柵の中から張さんが俺を呼んだ。
「 あ、はい。」
中に入ると穴が掘ってあった。16畳くらいの策の中で穴が開いているのは1畳位だ。
「 ここが仕事場だ。」
そう言って穴を指差した。穴はものすごく深くて底が見えなかった。
「 この下の水道管が破裂してんだ。」
その時俺は変なことに気付いた。
ここは結構都会だ。この公園の下にもいろんなパイプが通ってるはずなのに
どうしてここが壊れてるって分かったんだろう?
しかめっ面をして考え込んでいる俺を尻目に張さんは、
頭にライトの付いたヘルメットをかぶり、体にロープをつけ始めた。
「 張さん、何やってんですか?」
俺が聞くと張さんは目を丸くして
「 清水、当たり前のことを聞くんじゃねぇ。下に行って穴掘るに決まってんじゃないか。」
と、言った。
木にロープを巻きつけ、張さんは穴の中に降りていった。
暗い穴の闇にアッと言う間に飲み込まれていった。張さんを心配しつつ何をしていいのか
分からなかった俺は穴の前でおろおろしていた。
2,3分経った頃だろうか、穴の中から張さんの声がした。
「 お〜い、清水!そこのバケツとってくれ。」
確かに俺の足元にはアルミのバケツが落ちていた。
「 この銀色のでいいんですかぁ〜?」
「 おぅ、それだ! 穴の中に落としてくれ。」
俺は、言われるままに穴にバケツを落とした。
バケツも張さん同様すぐ闇にのまれた。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ ゴツッ!
・・・・・・・・・・・・。
嫌な音がした。
「 イタタァァァ!! おい清水気を付けて落とせよ。」
「 す、すみません!」
やっぱり張さんに当たっちゃったみたいだ。
「 あぁ〜あ、棟梁にバケツ当てるなんて凄い度胸してんだね新入り君は。」
柵の入り口から声がした。
振り返ると男の人が立っていた。
ボサボサの髪の毛、整った顔立ち、引き締まった体、
男にしては低めの身長(と、言っても俺より高い)
俺や張さんが着ている作業着ではなく白いTシャツに黒い七部丈のズボンといった
なんともラフな格好でその人は立っていた。
「 やぁ、新入り君。元気してる?」
片手を挙げてその人は俺に話しかけてきた。