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仲間

夜の公園での一件から数日たった。

今日で俺はここのバイトを辞める。


短い間だったけどここの人たちは俺に厳しくも優しく接してくれた。

力仕事ばっかりで疲れるけどいい職場だった。


もう少しここで働いてみたいという気持ちも芽生えていたけど、契約が切れてしまうからどうしようもない。


俺の口からは自然とため息がでた。

「 はぁ。 」


そんな俺を張さんが心配気味に尋ねた。

「 どうした清水? 」


俺は作り笑いで答えた。

「 いいえ、なんでもないです。 」

「 そうか、なんか元気ないぞ。 」

やっぱり刑事の勘って言うやつなのか、張さんには俺が気に病んでいることに気付いているようだった。


誤魔化しの言葉も見つからなかったので俺は、あはは。と適当に笑ってその場をしのいだ。









そして皆いつもの持ち場について今日も作業が始まった。


俺の気分が沈んでいようがなんだろうが、基本は作業に関すること意外はみんな話さない。

(黒さんの「 キャサリ~ン♪ 」は超例外である。)


今日も黙々と作業は進んでしまい、終了時間になった。







各々片付けを済まして帰路につくため公園をあとにしようとする。


あまりにもいつもと変わらなかったので俺は少し拍子抜けしてしまった。


(もしかして3人とも今日で俺のバイトが終わりってことしたないのか?)


俺は公園を出て行こうとする3人の背中に向かって話しかけた。

「 あの・・・。 」


ん?という様に3人とも俺を振り返る。




3人の顔を見ると、やっぱり寂しいなぁ。としみじみ感じて少し涙が出た。

俺は泣き顔を見られないようにガバッと頭を下げた。


「 1ヵ月間だけでしたけど、お世話になりましたっ! 」



俺の言葉を聴いて3人が俺の立っている所に近づいてきた。



「 そうか今日で最後か・・・。」

「 残念だよ。」




という別れのセリフを述べる3人を想像していた俺が馬鹿だった。








「 何言ってるの清水君! 」







顔を上げた俺が見たのはなんとも明るい黒さんの顔だった。




「 へ? 」





「 今日で終わりだなんてっ水臭いなぁ。これからもヨロシク☆の間違いでしょぉ。 」


黒さんが一体何を言っているのか分からない。

分からないのに黒さんが俺の背中をバシバシ叩く。



「 え、でも僕の契約した期間って1ヵ月だったと思うんですけど・・・。 」


その言葉を聴くと張さんが驚いたように言った。

「 お前もしかしてあのハゲ頭に何も聞いてないのか? 」


「 『何もって』何ですか? 」

俺は相当深刻なことを聞かされていなかったのか?

俺の脳裏に契約した時の事務所の異様な喜びっぷりがよぎった。



「 あちゃあ。清水君可哀想に・・・。 」

黒さんは眉を八の字にして本当に残念そうだ。鮪乃山さんまでうんうんと頷いている。



「 だから何だって言うんですか!? 」




鮪乃山さんがゆっくりと、そしてたっぷり間をもたせて言った。




「 清水君、きみは強いて言うなら―――――















   『生け贄』です。 」
















い・け・に・え?



漢字は俺には思い出せない。


しかし、それが何だかは知っている。


高校生の俺の肩書きとしては明らかにバイオレンスでデンジャラスだ。





頭痛がしてこめかみを押さえながら俺は尋ねた。

「 強いて言わないできちんと僕に分かるように説明してもらってもいいですか? 」



はーいと黒さんは手を挙げて俺のために説明しだした。


「 僕たち3人は自分達で言うのもなんだけど、かなりの問題児なんだよ。 」

「 はい。 」

仕事をわざと作ったり、奇声をあげたり、ふんどし一丁の人たちが問題にならないわけがない。



「 即答かよ今のはちょっと否定してほしかったな。 」

張さんは苦笑いしながら言った。

「 まぁまぁ張さん。事実ですから。 」

鮪乃山さんがすかさずフォローにまわってくれた。




「 清水君も行ったと思うけど、僕たちは駅前の事務所に、仕事を割り振ってもらうことで働くことができる。でも事務所の連中はそんな問題児な僕たちを早いところ独立させて手を切りたがってたんだ。 」



事務所の人たちも問題を起こすならクビにでも――― 


いや無理だ。

鮪乃山さんはもちろん、張さんや本気で怒った黒さんを相手に俺は戦いなんて挑めない。

たぶんそれはいい大人でも同じだ。



「 それで俺が『生け贄』? 」



「 そうそう。僕たちだって生活かかってるんだから、タダでは頷かないよぉ。 」

ニコニコと黒さんが頷いた。


「 独立してやるからもう1人従業員よこせって黒がせっついたんだよ。 」

その時の様子を思い出したのか張さんはちょっと怯えたような顔をしていた。


(一体黒さんはどんな手を使ったんだ・・・。)


考えようかと思ったけど恐ろしくなったので止めた。







「 それで僕がまんまとひっかかったということですか? 」

何だか気がぬけて俺はその場に座り込んだ。





「 早い話がそういうことだな。」


張さんが言う。






「 ちょっとやすっとじゃ逃がさないからねぇ清水君っ。明日からも頼むよぉ。 」


黒さんが言う。







「 うむ。 」


鮪乃山さんが頷く。







あぁ。

ここが恵比寿公園トイレ横の工事現場だなぁ。






そう俺は感じた。









「 ところで、そこに俺の意思は反映されないんですか? 」


「「「 ないっ! 」」」

3人が口をそろえて言った。




やっぱり・・・。




俺のバイトは当分終りそうにない。




 完

完結するのに足掛け5年もかかってしまいました。

続きはもっと早く書けると嬉しいです。(続くのか・・・。)

ご感想、評価、批判なんでもあったら書き込んでいただけると幸いです。

つたない文章でしたが、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。

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