真相
「 い … 」
俺は捻り出すように言った。
「 い? 」
黒さんはその声に気付いて小首を傾げた。
「 一体どういうことなのか説明してくださいっ!!」
俺は隠れていた茂みから勢いよく立ち上がると大声で叫んだ。
「 お前らっ。居たのか! 」
張さんはようやく俺たちの存在に気付いたようだった。
鳩が豆鉄砲を食らうとはこういうことか。
「 いやぁ、清水君が張さんのことでぐるぐるしてたみたいだったので、連れて来ちゃいました。」
黒さんはへらへらっと笑いながら言った。
状況が本当に読めてこない。
にもかかわらず黒さんと鮪乃山さんは落ち着いてるし、張さんもポリポリと頭を掻いているだけだ。
その行動に無性に腹が立った。まるで俺だけ仲間はずれだ。
「 清水君落ち着いて。 」
鮪乃山さんが俺の背をぽんぽんと軽く叩いてくれたけど、そんなもので落ち着けるわけがない。
「 これが落ち着いていられますか!? 」
「 まぁまぁ。棟梁、説明してあげなよぉ。 」
黒さんは困ったなぁという顔で張さんをみた。
「 めんどくせぇな。 」
相変わらず頭をポリポリ掻いている話してくれないんですかオーラ全開で張さんを睨む。
「 あぁ。わかったわかった。だから睨むな。お前も意外と子供っぽいんだな。 」
睨みに屈したのかは定かではないが張さんは苦笑しながら口を割った。
それから張さんが語ったことはどれも俺を驚かせた。
「 お前、しばらく俺のことをかぎまわってたろ。」
(バ、バレていたのか・・・本物の刑事相手には無理も無いけれど)
驚き半分悔しさ半分で俺は素直に認めた。
「 あのっ、それは張さんの様子が足跡の件からちょっとおかしかったので…。 」
「 俺が読んでた新聞もあとから自分で読んでただろ。何か覚えている記事があったら言ってみろ。 」
それもバレていたのかと少々落ち込んだが、俺は無い記憶力を絞って思い出した記事を上げいった。
「 え~っと首相が辞任したとか親が子供を殺したとか銀行強盗とか―――」
「 俺達が今捕まえたのはその銀行強盗だ。 」
張さんはそこだといわんばかりに俺の言葉をさえぎっていった。
「 え!? 銀行強盗!?」
確かその事件はこの町で起きた事件で結構な金額が盗まれたとか・・・。
その程度しか思い出せない俺の代わりに張さんは事件の詳細を語り始めた。
「 半年前、銀行に入った強盗は2人組みだった。銀行員を殴り金を奪って2人は逃げた。
1人はすぐに捕まったんだがな…もう1人は金と共にどこかに姿をくらましちまった。 」
「 それがさっきの男だったんですか? 」
「 そうだ。 」
「 でも、どうして恵比寿公園の俺たちが工事している穴にあの男は入っていこうとしたんですか? 」
俺は張さんに尋ねた。
「 それはな…これだよ。こーれ。 」
そう言って張さんは人差し指と親指の先をくっつけて丸を作った。
「 これって…お金? 」
「 そうだ。金だ。まぁ、銭じゃなくて札だけどな。あの穴に埋めてあったんだよ3億円がな。 」
俺たちしか公園にはもういないのに、張さんは『3億円』という言葉は特に声を潜めていった。
確かに3億円という金額は莫大だし、そんなお金が盗まれたなんて銀行側も真っ青だ。
(警察は血眼になってお金のありかを捜したんだろうなぁ。)
「 3億!! それは惜しいことしたなぁ。僕が見つけたら一割もらえたのにぃ。 」
黒さんはそれを聞いてたいそう悔しそうにしていた。
「 アホかお前は。意地でも俺はやらない。俺がもらうっ。 」
張さんは意地悪そうにわらいながら言った。
そんなぁと黒さんはうなだれている。でも、なんだか楽しそうだ。
張さんは話を続けた。
「 あの男は半年前に盗んだ金をこの工事現場の穴の中に埋めたんだ。
その頃は一旦工事が終わってあとは穴をふさぐだけだったからな。 」
「 よくあとは埋めるだけだって知ってましたねぇ。 」
黒さんが口を挟んだ。
「 お前が外に盛っておいた土を『キャサリーン♪』とか言いながら中に持っていくのを見かけたんじゃないのか? 」
「 あぁ、なるほどっ。 」
ぽんっと手を叩いて黒さんは納得したようだ。俺は苦笑するしかない・・・。
「 とりあえずあの男は金のいい隠し場所を見付た。しかし、1つだけミスがあった。 」
「 僕たちが仕事をつくりたがる人間だったということですね。 」
鮪乃山さんが冷静に言った。
(『僕たち』ってことは鮪乃山さんも黒さんも張さんがボルトをゆるめたまま工事をおわらせたことを知っているのかっ。)
あまり気付きたくないことまで俺は気付いてしまった・・・。
「 鮪の言うとおりだ。ほとぼりがさめたら取りに来るはずだったんだろうが、俺たちがまた同じ場所を半年たって掘り始めたからさぁ大変だ。 」
「 そっか。だからアイツは工事中の穴の中に入ってお金が見つかっていないか偵察に来ていたんですね。 」
「 まぁ、清水に足跡を発見される程度の奴だけどな。」
そういって張さんはエライエライと言うみたいに俺の頭をガシガシなでた。
「 捜査当初からあの男は疑わしかったんだがな、どうにも肝心の証拠が掴めなかった。 」
張さんは参ったというように頭をまたポリポリ掻いた。
「 待ち伏せてみて正解でしたね。 」
黒さんはとっても楽しそうに言った。歌でも歌いだしそうだ。ウキウキしている。
「 あぁ、事件が解決してほっとしたよ。 」
張さんも楽しそうに答えた。
「 それにしても、張さんが刑事だなんて思ってもみませんでした。黒さんや鮪乃山さんには『棟梁』って呼ばれてたから、てっきり本業は大工さんなのかと…。 」
棟梁と呼ばれている人が実は刑事だなんて誰も思わない。
「 それは黒が勝手につけた俺のあだ名だ。意外にしっくり来るもんだから俺もビックリした。 」
そろそろ署に帰って取調べに立ち会うからと言って、俺たちに背を向けて公園をあとにしようとした。
その背に向かって黒さんが叫ぶ。
「 一件落着してよかったですねぇ刑事さんっ。 」
張さんはその声に照れ笑いしながら答えた。
「 おいおい、よしてくれよ。 」
そういって立ち去ろうとした張さんは出口のあたりで振り返って俺たちに向かって言った。
「 あーあっ。守秘義務ってもんが公務員にはあるのになぁ。お前ら他言すんじゃないぞ。 」
「 それを言うなら、公務員はバイト禁止ですよ。張さんっ。 」
黒さんも負けてなかった。
「 おっと、そうだったな。ははっ 」
お気をつけてっと鮪乃山さんが張さんの背中に声をかけると、張さんは右手を上げて答え、
そのまま見えなくなった。
張さんが去った公園で俺たちは特に何をするわけでもなく座っていた。
「 黒さんと鮪乃山さんは張さんが刑事だって知っていたんですね。 」
「 まぁ付き合い長いからねぇ。色んな話もするよ。 」
黒さんがあんまりにも当たり前みたいに言うから、なんだか俺は少し切なくなった。
ここで働き出してもうすぐ1ヶ月たつ。
もう少しこの人たちと一緒に働きたいと思った。でも、俺のバイトの契約は切れてしまう。
「 そうですよね。 」
俺はもうすぐ明ける夜空を見ながらつぶやいた。
だいぶ書いていなかったから、キャラが変わっているような…。