面白い事
張さんの監視を始めて2日たった。
これ言って大きな動きは無いけど張さんが新聞を読むようになった。
オジサンならこれが普通なのだが気になるのはその日付だ。
どれも半年くらい前のものを読んでいるのだ。
しかも物凄く難しい顔をしている。
それを見て俺も難しい顔をする。
確か、半年前にも張さん達は此処で水道管の工事をしていたらしい。
( お金の為ゆえボルトはゆるめに締めたのもこの時だ。)
その時この『恵比寿公園』にあったのかもしれない。
金のためにわざわざ手抜きの仕事をする張さん達だ。
隠し事をいくつしているかななんて見当がつかない。
この工事現場にはまだまだ秘密があるのかもしれない。
「 う〜ん。」
多分黒さんや鮪乃山さんに聞いたって何にも答えてくれないんだろう。
きっと「 そんなこと言ったら張さんに殴られちゃうよ。」とか言って
さらっとどっか行ちゃうんだろうなぁ。
あんまりじっとして考え込んでいるとかえって張さんに怪しまれてしまうので
ほどほどにしておかないといけない。
仕事。仕事。
なごみおしそうに俺は張さんの事を脳みそから追い出してシャベルを握った。
「 清水君、清水君。」
張さんの事を無理やり追い出して仕事に励んでいた俺に黒さんがそっと耳打ちをしてきた。
( いつ背後に回ったんだろう・・・。)
「 なんですか。」
近くに張さんが居たので俺も小さい声で話す。
見つかったらまた拳をお見舞いされちゃうし・・・。
「 清水君なんか頑張ってるみたいだねぇ。あ、もうすぐ面白い事が起きるよ。」
フフフと笑いながら黒さんは穴の外へ出て行った。
『頑張ってる』って仕事の事か?
も、もしかして張さんの事を嗅ぎ回ってるのバレてたりなんかはしないよなぁ・・・。
ちょっとゾッとした。
後で何言われるか分からないなぁ。
それよりもっと気になるのは『面白い事』だ。
わざわざ俺だけに教えてたかったような口ぶりだった。
( 皆に教えたいならば張さんにも聞えるような声で言うだろうし。)
第一、本当に『面白い事』かさえ分からない。
何たって黒さんが言う事だし・・・・少しずれてる事かもしれない。
俺達にとっては恐ろしい事かもしれない。
「 そうだよ。」
と言われるのが怖かったので黒さんに『面白い事』については
仕事が終わっても聞けなかった。
黒さんにビビッて居る暇もあまり無かったので張さんの監視の続き・・・・。
と思ったらもう張さんは仕事場を後にしていた。
鮪乃山さんに聞いてみたら今日は昼間の仕事が残って居るそうだ。
監視する相手も居ないので張さんが最近読んでいる新聞を見てみた。
手がかりは少しでもほしい。
半年前の事だけど結構忘れている事が多かった。
首相の辞任
川に魚が十何年ぶりに帰ってきたこと
銀行強盗
親が子供を殺してしまう事件
その逆もあった。
読んでいるうちにしみじみ感じた事だけど、世の中悲しいもんだな。
人って新し物好きだから古い事ってどんどん忘れる。
俺もその一人だ。
過去って忘れ去られるものだけどそれじゃいけない気がする。
やっぱ悲しいだろそりゃ。
そんな臭い事を考えていたらずいぶん時間がたっていた。
今日はいつもと違って遅く家に帰る事になりそうだ。
母さんにどうやって言い訳しよう。
家路に着くとまた黒さんの『面白い事』の恐ろしい想像をしてしまった。
どうなるやら。
ため息をつくと、自分探しの旅に出たくなった。