第2話 通過点通り越して
酷い目にあった後、どうやら都市の人達から遠巻きにされる悲しき男。フィリップ!
ごめん、某手首からシュルシュルと糸を出すヒーローのネタの真似しようとしたけど、完全に不発だわ。ってか、そのくらい心身共に疲れてるって事を察してください。
でも、昨日のドキッ命懸けだよ、追いかけっこで相当逃げ回ったから、この反応も理解できる。うん、誰だって街中で抜刀してる人に追いかけられまくった奴なんて関わり合いになんてなりたくねーよね。ってか、寧ろ衛兵に取り押さえられても不思議じゃないよね……こえぇぇえええええ、良かったー、俺悪運強くて。
「ともかく、宿を取らなきゃ……取れると良いなぁ」
そういえば、昨日の俺の嫁、あの後どうしたのかなぁ? 出来ればまた会いたいし、運良く会えないかなぁ……っても、この都市アホみたいに広いもんなぁ。多分日本で言う1市町村クラスのでかさあるんじゃねーかな。まぁ、ダンジョンも複数あるんだし、って、現実逃避しても始まらないよなぁ。
仕方ないので、色んな意味で諦めて、近くの宿屋らしき建物に入る。うん、ここが宿屋じゃなくても道聞かないと俺何にも分かんない。勿論冒険者ギルドもどこにあるの? 状態だしね。
「すみませーん」
パカーンと開き戸を開ける俺。1階は酒場みたいだなぁ。2階と3階が宿屋みたい。うん、ここはきっと宿屋だ。お願いします、宿屋であって、もう寝たいんんですよほんと。何時間寝てない――。
「お兄さーん、聞こえてますかぁ?」
「おっと、ごめんなさい、ボケっとしてたわ」
ちょいと大きめの声にはっとする。いかんいかん、妄想するのは元の世界からの癖だけど、一向に直らん……直す気がないのが問題か、まぁ良いや。
「あはは、あの氷結のマリアさんから見事逃げ切った人とは思えないほど抜けてるのね」
「うわー、容赦ねー。ってか、あのお姉さんマリアさんって言うのかー。うん、覚えとこう。
あっ、君中々可愛いね。いずれ俺の屋敷に働きに来ない?」
「あれっ、ハーレムに誘うんじゃないんですか?」
「やー、君もあのお姉さんと同レベルだから中身次第だね」
「うわぁー、何か……ほんと自分に正直というか。そう、失礼な人なんですね」
ニコッと微笑む少女に、うむ、その笑顔でハーレム入りもやぶさかではないと思ったのだが、まぁ、その前に楽しげに笑うように見せかけて全く笑ってない目で見定めている女将さんに会釈する。多分この子のお母さんなんだろうなぁ。茶色の髪に赤目で後雰囲気とか顔の作りとか似てるから。叔母姪の関係も否定出来ないけど。
「えっと、とりあえずそういう訳で宿取れませんか?」
「……何がそういう訳かは分からないけど。とりあえずうちとしてはお金さえ払ってくれれば問題ないよ」
女神だ、女神がいた。どこの世界に刃物で追い掛け回されたアホを泊める親切な人がいる? ここにしかいるまい。この際法外的な金額でも俺で払えるなら払おう……っても、後手持ち銀貨1枚と小銭がちょこっとだから5分休憩でおしまいとかかもしれないけど。
「ありがとうございます、で、1泊いくらです?」
「部屋のグレードになるけど、食事付きスタンダードのやつで青銅3枚――」
「貴方が女神か」
全力でおばさんの右手を包み込む俺、なにこの女神どうしよう、今ならハーレムに入れれるよ。多分夜全然通わないだろうけど、精神的な癒やし的には凄く適所だと思うんだ……っても、人妻って時点でダメかぁ、まぁ仕方ない。俺は自分の規律には全力で厳しくなるのさ。他の規律なんて守れれば守ってやらんでもないって位の心掛けしかないけど。
……お嬢さんが呆れてるけど、もうこの際どうでもいいや。嫁は他にもいっぱい居るんだしね……俺の脳内データーベースにね!
「あははは、なんだ、あんた只の馬鹿かい、面白いねー」
……女神に馬鹿にされた、もういいや、この人は只の宿屋のおばはんや。いずれ娘さんは俺の目を癒してもらう為に借りていきますのでお手柔らかに……ダメだ、寝不足過ぎて相変わらず頭がおかしいや。しまった、頭がおかしいのは前世からじゃん。アウトー!
きっと疲れだと思いたいが、相変わらず阿呆な事を考えてる俺に今度は満面の笑でおばさんは俺に言い放った。
「良いよ、何泊でもお金の都合がいい限りうちを使うといい。なーに、マリアに目を付けられたと言ってもこんな貧乏宿誰も気にしやしないさ」
「貴方がめが――」
「それはもう良いよ」
本気で言ってるのに笑われながら突っ込まれた。あるぇー、何かデジャブるなぁー。そうか、こっちの母さんとも同じような会話何度もしてたなぁ。たまには顔出し行かなきゃなぁ。オヤジも普通に良いオヤジだし、いずれ呑み比べしなきゃ。
感慨深く勝手に思いながらも、とりあえず宿をゲットした俺は、ホクホク顔で惰眠を貪りに行くのだった。
「うむ、良い朝だ」
嘘です、外はどっぷり真っ暗です。まぁ、余程疲れてたんだろうなぁと自己分析すると共に、何時もの鍛錬をしてないことを思い出す。
これは重大なミスだ。この世界はほんと命の価値が軽いのだ。すぐ死ぬし、死ぬのが当たり前だ。俺だって色々乗り越えたけどそれに慣れるまでのギャップが半端なかった。だからこそ毎日鍛えてたのだが。まぁ、昨日は色々あったし、あれはあれで鍛錬になったから良いかぁと思い直す。
一方的な命のやり取りは久しぶりだったからねぇ、逆や両方でのやり取りなら多々あったけど。
兎も角、自分の中の魔力を操り空中にお湯を作る。うむ、日本人たるものお風呂はキングオブリラクシングマスィーンだよな。これも魔法の鍛錬になるし、一石二鳥。
「ぐあぁぁぁぁ、素晴らしい」
思わず口から漏れ、じっくり使った後パパっとお湯を消す。うん、いい鍛錬にもなった。とりあえず次は体を動かしてもう一度浴びて一眠りしたら、次こそ冒険者ギルドに登録しに行くんだ、俺。
若干死亡フラグっぽく考えて……それがダメだったのだろう、ルンルンしながら空き地を探してたら、程なく見つかり、同時に怖いお兄さん達に囲まれた女の子を発見して考えなきゃ良かったと思いました、まる。
えっ、何故かって? だって、囲んでるお兄さん達足が生えてるんだよ? 人間って逆立ちして生活しないよね? そもそも地面に頭刺さらないよね?
「みーたーなー」
「何これ、何処のパニックホラー!?」
いやー、実は目と目が合ってたのですよー、そう、目と目ーがー、見つめ合うー。みたいな。はぁ、脳内現実逃避もいい加減苦しいな。
仕方ないので、ユラユラと怪しい殺気を体に纏った少女をちゃんと確認する。ってか、真っ黒のマントを羽織ってフードで顔を隠してるから殆ど何も分かんないんだけどねー。分かることは俺より若干身長が低いくらいかぁ。俺が平均身長プラス5センチくらいだから、女の子にしては結構高い。ってか胸滅茶苦茶デケー。これがなければ性別分かんなかったぜ。
「パニックホラーが何かは分からんが、私を見たものは消す」
「何で?」
「隠密作業中だから」
「じゃぁ、俺のハーレム入らない?」
「……はっ?」
おろっ、完全に殺気が消えてフードの中身がちょこっと見えきたあぁぁああああああ。何これ昨日の嫁と同じくストライクゾーンど真ん中なんですけど!?
何これ、この街って美女か美少女しかいないの?
「お前何言ってる?」
「プロポーズ」
間髪入れずに答えると、ぽんっと顔を朱に染め、直後ばさっとフードを外し若干赤みがかった顔で再び同じ問いを俺に投げかける。ってか、魔族かぁ、素晴らしい!
「お前何言ってる?」
「プロポーズ」
あっ、今度は更に真っ赤になって固まった。何この子超可愛いんですけど!
そもそも、元日本人の俺が黒髪黒目が怖いわけないじゃん。寧ろ大和撫子っぽくて素晴らしすぎるんですが。若干タレ目なのも素晴らしいし、耳が尖って犬歯がちょっと長いとかモーマンタイ。まぁ、白目が無いとかは確かに白目あったほうが視線読みやすいし、あったほうが良いかもだけど。しかし、黒髪ロングでサラサラストレートって最強じゃね?
「く、くろかみゅ……」
噛んだ、超かーわーいーいー。内心で全力で萌え悶えつつ、満面の笑みで言い切る。
「黒髪黒目は魔族の紅しだろ? だからなに? 可愛いの前にそんな些細なことどうでもいいよ。
それより、どう、ハーレム入ってくれない?」
会心の口説き文句に……まさか初めて首を縦に振られるとは思いませんでした。おじさんもびっくりです。えぇ、前世から足したら42(きゃっ、元の年齢ばれちゃった)にもなるのに、驚きを隠せませんよそりゃぁ、ってか、何故殺そうとしてたのに急に心変わりって、かーわーいーいー。固まってる俺を不安げに見つめるとか最強過ぎる。
よし、決めた!
「うん、じゃぁお互いよく知り合おう」
「……それじゃぁ友達?」
「違う、俺はハーレムに入ってくれる子を選ぶけど、ハーレムに入るかはその子が気持ちを固めてからっていう絶対の規則があるの」
「規則なら仕方ない……あ、私あなた殺さなきゃ。でも、嫌」
「何で殺さないといけないの?」
「魔族を馬鹿にする奴に制裁を与えないといけないから」
「なんだ、じゃぁ俺バカにしてないから問題ないじゃん。よし、とりあえずこれから俺と一緒に暮らそ」
「夜伽……」
「それはハーレムに入ってから。って、名前お互いに知らないね。俺はフィリップだ、よろしく」
「私は、アンジェリーク=ラ=エスタール=フェンダル」
「うむ、じゃぁアンジェ、行こう!」
張り切って差し出した右手をこの美少女は微笑みながら握り返してうひゅおぉぉぉぉおおおおおおお。やっぱり女の子の体って素晴らしい! うむ、絶対ハーレム作るんだからね!
こうして、なし崩しにハーレム入り予定女の子、魔族の姫アンジェが仲間になるのでしたー……いや、こんな軽くじゃダメなのかもしれないけど、それに、いくら無知とはいえ魔族の王族の名前くらい俺でも知ってるし。っても、今更だしねー。よし、絶対この子を守れるよう色んな意味で早く強くならなきゃなぁ。今は只の粋がってるクソガキだし、ギギギ。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「フィリップ、何それ?」
「あっ、アンジェおはよう」
「あうぅ、お、おはよう」
うわぁ、頭撫でただけでこの反応ですよ奥さん! 顔どころか体中真っ赤ですよ旦那さん!! いや、この場には俺とアンジェしか居ないけど。ってか、勝手に連れ込んで良かったのかなぁ? まぁ、良いや、何かあったら色々言われるだろう。とりあえず下に報告に行くかぁ。
しかし、添い寝って素晴らしいね! 勿論いやらしいことやら後ろめたい事は皆無だよ? 最初のセリフは某ドラゴンを倒す物語が大好きだった俺だから漏れた一言だよ。添い寝自体がいやらしいとかは知らん、知らんったら知らない。
そう言えば、何で頭撫でるとこんな反応なるのかなぁと思ったら、この世界では愛おしい相手にしか頭を撫でないって風潮あったなぁ。まぁどうでもいいし、実際元の世界でも愛おしくなけりゃぁ頭なんぞ撫でないよね? スキンシップ能力が高い人は除くけど。ってか、それ全て鑑みても俺おかしいことしてないし、モーマンタイ!
「さぁ、今日はギルドにってしまったあああああ、また鍛錬するの忘れてたぁ」
「フィリップ面白い人」
アンジェに正しい認識をされながら、2人で階段を降りる、デフォで腕組んでるぞ、うはは、昔の俺羨ましいだろうー、念願の三次元嫁だぞ。って、殺してでもってのは止めてくれよな。未来の俺なんだし。
っと、急に右手が寂しくなる……忘れてた、魔族って人前に絶対姿を見せないし、見せるときはもしくは見たときはその者が死ぬ時だって話だったんだ。うわー、俺良かったー。寧ろ魔族嫁にしちゃったぜー、へへへっ。
「フィリップさん、何か女性の声聞こえてたんですけど、誰か連れ込んだりしてます?」
「おう、ハーレム入っても良いよって人がいたから、好きになって貰う為頑張ってる最中だよ」
「……ツッコミどころが多すぎて、どんな顔したら良いかも分かんない……」
「笑えば……良いと思うよ」
「いや、全然決まってないですから!」
某少年のセリフを折角ドヤ顔で言ったのにつれない返事に若干悲しくなる、うむ、元の世界とは違うのだ、せめてセリフだけでも気合入れて普及しないとな。素晴らしいセリフばっかりだし。
「だが断る!」
「もう、意味が分かりません」
ちょっと本気で怒られ、女将さんにもちょいとお小言を貰ってしまった。うん、何事もほどほどが一番だよねー。でも反省しても後悔は以下略。
しかし、これじゃぁアンジェと会えるのは夜もしくは限られた僅かな時間って事になってしまう。本当に残念だ。とはいえこれは仕方ないし、上手い具合に距離感つかんで貰うしかないなぁ。第一世間も世間だ、あんな可愛い子を捕まえて破壊の代名詞みたいにさぁ、高々魔族1人で国が1つ滅亡する程度でしょ。うん、俺あの子を守るためには国壊せる位にならないとダメなのかぁ……寿命足りるかなぁ?
色んな意味で哀愁漂ってきた俺の目の前に、漸く冒険者ギルドの立派な建物が広がる。とりあえずあれだ、外国の城を想像してたのだが、まんまって感じだスゲー。
物凄い賑わいを見せてるけど、ダンジョン都市なのだ、それも当たり前だろう。よし、少し予定は遅れてるけど、その後がハーレム以外ノープランなんだし。気軽に行こう。しかし、賑やかなの好きな俺には俺得過ぎる場所だよなぁ。何気に目の保養さん多いしね。
そんなこんなで、色々と予定とずれまくりながらも、登録しに第一歩を踏み出した。
実は、最初のタイトルは初ダンジョン~って感じだったのですが、ご覧の有様です。いかに僕が勢いだけで書いてるか分かるかと思われます。
脳内プランも凄ぶる勢いとノリだけなので、そこを楽しんでいただければと思います。
兎も角、頑張ります。
次こそ初ダンジョン……になれればいいなぁ。最初の女の子達の再登場はいつになるのやら……脳内では大分組み立ってはいるので後は組み立てるだけですが……今回の様に組み立てたらご覧の有様的展開になるやもしれません。ご容赦下さいませ。