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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: オムカレー

処女作です。

矛盾や実際の制度との違いが多々あります。ご了承下さい。


※この小説には精神障害者に対して好ましくない表現が使われています。ご注意ください。

 閑静な住宅街の一角に佇む小さな一軒家。そこに彼は住んでいた。同居人は年老いた母一人。彼の唯一の肉親であった。

 彼は脳に重度の障害を持っていた。生まれてから十ヶ月、彼は頭を強く打った。母に抱かれていた彼は、母が電話に夢中になっているとき、するりと腕から抜け落ちてしまったのだった。奇跡的に一命は取り留め、身体機能にも何の障害も出なかった。しかし知能はそこで成長を止めてしまった。

 養護学校にて九年の義務教育を終えても、精神病院で様々な治療を試みても、彼が回復する兆しは一向に見られなかった。十四年前と変わらず喃語を発し、十四年前と変わらず泣き喚き、そしてやはり十四年前と同じように無邪気に笑っていたのであった。施設に入れる話も当然持ち上がったが、彼の両親がそれを拒んだ。

 それからというもの、外に出たら何をしでかすか分からない彼は、自宅から一歩もでることなく、両親の庇護の元で生活していくことになった。十二年前のことである。

 しかし一年前、彼が二十五歳の時、事態が急変した。父が急死したのだ。交通事故であった。母は働かなければならなくなったが、五十を過ぎた女性を雇うところなどこの不景気では殆ど無く、何より彼を一人にはできなかった。仕方なく父の生命保険と僅かな生活保護で何とか食いつないでいった。



 ある朝彼は、カーテンの隙間から、窓に張り付いている蝉を見かけた。

 普段カーテンは、母が彼に余計なものを見せないために閉めている。しかしその日は、度重なる心労からくる不注意により、カーテンの一つが少し開いていた。

 彼は蝉に興味を示した。外に出ようとした彼だったが、母がそれを止めた。彼はいつものように泣き叫んだ。母がこれもいつものように泣きやませようとする。しかし彼はなかなかいつものように泣きやんでくれなかった。彼はついに癇癪を起こした。彼は力任せに母を殴りつけた。母は呻きながら床に倒れる。彼は尚も殴り続けた。初めは抵抗の意志を見せていた母も、ある時を境に動かなくなった。気を失ったようだった。

 彼は自由と、力で他人を屈服させることを覚えた。それは悪意からではなく、純粋な快感によって成り立つものであった。

 彼は外に向かって歩き出した。

 もう蝉は居なかった。何処かへ飛んでいってしまったようだ。そして彼もまた、何処へともなくふらふらと歩いていってしまった。



 彼は人通りの少ない通りに出た。無数の光が空に輝いていた。

 彼は飢えていた。道に迷って帰り道も分からなかった。食料品店も近くには無かった。

 若い女が歩いてきた。彼女は彼の異様な風貌におびえているように見えた。無理もなかった。彼は彼女に話しかけた。話といっても彼はただ唸っているだけだが。多分食料を求めているのだろう。しかし当然彼女には何を言っているのか分からなかった。彼はふと近くにあった石を拾い上げると、目をぎらつかせて突然彼女に殴りかかった。声にならない悲鳴を上げて倒れる女性。彼は続けて何度も彼女を殴り、彼女が完全に事切れたことを確認すると、───彼女の肉を喰らった。邪魔な皮膚はその伸びた爪で切り裂き、血を啜り。

 暫くそうしていて、やがて満ち足りた彼は歩き出す。が、直ぐにいつの間にか周囲を取り囲んでいた警察に取り押さえられた。どうやら誰かが通報したようだった。そして彼は警察署に連れて行かれた。

 基本的に精神に障害をきたしている者は罪に問われることはない。三ヶ月精神病院に収容された後、釈放される。彼もまた、三ヶ月の療養生活を終え、出てきた。やはりそれも彼には意味をなさなかった。また彼が当て所なく歩こうとすると、突然フードをかぶった男が彼の眼前に現れた。



 十分後、そこには体中を刺され、血塗れで息絶えた彼の姿があった。



 三年後、死刑台を一人の男が上っていた。紛れもなく、彼を殺した男であった。男は彼が喰らった女性の父だった。

 ──少し時間をやる。何か言い残したいことは?執行人に問われた男は有らん限りの声を出し、思いの丈をぶちまけた。

 それなら言わせて貰おうか!!私にはわからない!知性の欠片も無いあの男は、人ではない、只の獣だ!!それなのに……それなのに何故!

 猪は畑を荒らして野菜を食べただけで殺される!ならば何故畑の野菜どころか私の娘を喰らった獣を殺してはいけないのだ!?害虫を駆除しても許される!ならば何故害獣を駆除してやった私は殺される!?

 奴が曲がりなりにも人間だからか!?只人間というだけで扱いにここまでの差が生まれるのか!!

 私は、私「ガコン」は「ギシッ」───。

 静寂が辺りを包み込んだ。

こんな駄作を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


誤字、脱字などありましたらご指摘お願いします。


感想など書いて頂けたら幸いです。


最後にもう一度、感謝の辞を述べたいと思います。

本当にありがとうございました。


2011年1月29日(土)

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― 新着の感想 ―
[一言]  あまりにも深い。あまりにも重過ぎる。  短い文章なのに、充分その世界が伝わってきました。処女作とおっしゃっていますが、かなり書き込んでいるのでしょう。表現力に頭が下がります。
感想一覧
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