1
1
そろそろ時間だ。
あたしの稼ぎ時ってやつがやってきた。
自分の身の丈ほどもある竪琴を軽くかついで、あたしは奥の小部屋から見せへと進む。
酒と料理の匂い、そして人々の話声や談笑、かなりニギヤカナ店内、作りも広く品のよい調度品、この町でも1・2を争う規模で、中流階級の人間がよく使うという、酒場。
その中央の部分に大きくもないが楽器を演奏するなり、舞を披露するだけの広さがある少し高めになっているステージ。
軽くステップを踏んで軽々とそこに降り立つあたし。
ニギヤカナ店内が瞬間に静まり、すぐに拍手や歓声と口笛に歓迎された。
ステージを一周して歓声に応えたあと、椅子に軽く腰を下ろした。
頭の上で結い上げているとはいえ、それでもまだ身にまとわりつくほどの長い銀髪を肩に振り払い、軽く周りを見渡してみた。
酒のせいではない、男の性欲なるものを瞳にあけすけもなくやどす者、神秘的な神からの使者を迎えたかのごとくこちらを見つめる者、視線はさまざまだけど、まず皆様の視覚的興味はゲットしたみたい。
まあ当然といえば当然の話よ。
光をきらめかせる長い銀髪、大青空のようにきく透き通る碧眼、雪のように白くきめ細やかな肌は華奢な体を際立たせ、女性らしさは忘れなくボディーラインは出るとこちゃんと出て、それを強調するように見えるか見えないかの際どい黒のレースのワンピース。
自分の体でも、お金になるのでさえあれば有効活用するのは当たり前。
あたしの美少女っぷりには、自他共に認めてる。
容姿だって立派な商売道具でしょ?
何か文句あるなら、お相手するけど、お仕事終わってからにしてほしいものだわ。
「皆様お楽しみのところ、失礼いたします。宴のつまみにでも私の音を」
言葉が終わると同時に、竪琴の弦をはじいてあたしは歌いだした。
風は語る全ての精霊の長として
人々に告げる精霊神の言葉を
火を敬え、日々の釜を守っているのは誰かと考えよ
大地を敬え、実りがどこからきているかを感じろ
水を敬え、命の源を学べ
風を敬え、全てを届ける者に感謝せよ
精霊神に見放されたこの世界はどうなるであろう
知識ある人間にならわかるであろう、この先を告げずとも
心を改め、清め祈るのだ
祈りは救う
神々は見放さないであろう
最後に告げられる言葉、風の声を聞け
祈りは通じ、この世界を守るであろう
最後に一弦鳴らし、
あたしは歌い終わった。
物音ひとつしない広い酒場。
何人もの男女が時を止めたかのように、動きも呼吸もせずにあたしを見つめる。
まあ、しょうがないよね、見慣れた光景なんだけどさ、こんなの。
自他共に認める絶世の美少女が竪琴抱えながら、めったに聞く事のできない風の歌を聞いちゃったのだから。
この歌は、風の精霊神に支える者しか歌い演奏する事ができない。
今は伝説にもなりつつあるが、詩だけは残り語り継がれてはいいる。
そんでもってあたしの美声と竪琴の腕前でしょ?
固まらずにはいられないわよねぇ。
うふっっと小さく微笑んで、左に小首を少し傾ける。
」皆様に風のご加護がありますように」
あたしの一言の後に、どよめきから喝采に変わって。
あたしの周りに金銀銅のコインの雨嵐となる。
うふっ、今日は一曲の演奏でかなりの稼ぎになっちゃった。
周囲にわからないように投げ込まれたコインたちを風の精霊を使って手元の帽子に集めさせる・
優雅にお辞儀を一つと、極上の笑顔を一つ置いて、あたしはステージから軽々と降りて店の奥へと早々に退散した。