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悪役令嬢として召喚された女子高生

作者: momotarou
掲載日:2026/05/20

 私は、ごく普通の女子高生だった。


 ライトノベルを読むのが好きだった。


 特に好きなのは、悪役令嬢ものだ。


 真っ赤なドレスをまとい、高らかに笑い、悪役令嬢でありながら、本当の悪を成敗する。


 そんな物語を読むたびに、私は胸をときめかせていた。


 恋愛も好きだ。


 溺愛も好きだ。


 けれど、一番好きなのは断罪イベントだった。


 王子が勝ち誇る。


 聖女が微笑む。


 周囲の貴族たちが、悪役令嬢を見下す。


 そして、悪役令嬢が静かに笑う。


 そこから空気がひっくり返る瞬間が、たまらなく好きだった。


 その朝も、電車の中で、私は悪役令嬢もののライトノベルを読んでいた。


 王子が婚約破棄を宣言する場面。


 聖女が勝ち誇る場面。


 そして、悪役令嬢が静かに笑う場面。


 最高だ。


 やっぱり断罪イベントは、ここからが本番だ。


 そう思った瞬間、体がぐらりと揺れた。


 意識が遠のく。


 次に、ぼやける視界でまぶたを開けると、そこは異世界の神殿のような場所だった。


「陛下、成功です!」


「召喚は成りました!」


「我が国を救う悪役令嬢の召喚に成功しました!」


 最初は、意味が分からなかった。


 勇者召喚ではない。


 聖女召喚でもない。


 悪役令嬢召喚。


 次の瞬間、私は神に感謝した。


 ついに来た。


 私の願いが届いたのだ。


 私は、悪役令嬢として召喚された。


 でも、どうやって国を救うのだろう。


 召喚されたからには、きっと何かすごい力があるのだろう。


 私は、その時はまだ、そう思っていた。


 しかし、服を見るとセーラー服を着ている。


 視線の高さも変わっていない。


 視界に入る自分の髪も黒い。


 少し茶髪にしていたが。


 真っ赤なドレスではない。


 縦ロールでもない。


 扇もない。


 ただの制服姿の女子高生だった。


 何の力も与えられないまま、私が悪役令嬢を演じることになるなんて。


 この異世界では、ただのセーラー服が恐れられているなんて。


 その時の私は、まだ知らなかった。


 一応、言葉は理解して話せるようだ。


 王族たちの名前と顔、王位継承の大まかな事情も、頭に入っていた。


 そして、国王を守り抜けば、転移した時と場所に戻れる方法も分かると、愛の女神が伝えてくれた。


 愛の女神なら、国王を守るくらい自分でやれと思うのだが、悪役令嬢になれたので気にしないことにした。


 国王は善良な人物で、国もまとめていて、民からも慕われている。


 第一王子は、文武両道で、国王の補佐として国を支えている。


 しかし、正室の子ではない。


 第二王子は、政治に興味がなく、書と詩に明け暮れている。


 しかし、正室の子である。


 第三王子は、ただの遊び人だ。


 しかし、正室の子である。


 別段、これ、第一王子が国を継げばよいのではないの?


 そう思ったが、この国のルールでは、正室の男子が次期国王になる決まりがあるらしい。


 正室の子の中では第二王子が年上なので、一番次の王に近い。


 第三王子にも、もちろん継承権はある。


 私を召喚する手間を考えたら、このルールを変えればよいのでは?


 そう思ったが、国王より正室に媚びを売る貴族が多いとか、私にはよく分からない政治事情があるようだ。


ようするに国王は、第二王子と第三王子を王位継承争いから外したいのだ。


王族の権利を失っても、王宮で贅沢三昧はできるらしい。


私なら迷わずその道を選ぶ。


王子にも、いろいろ事情があるのだろう。


 国王に、適当に罪を作って王子を排除すれば、と言ったら、顔を真っ青にされてしまった。


「そんな恐ろしいことはできぬ」


 まわりの偉そうな人を見ても、悪魔でも見ているような目で見られた。


 この世界には、人の良い人しかいないのか。


 なら、私が悪役令嬢として断罪するしかない。


 私は気合いを入れた。


 断罪イベントを起こすには、まず婚約が必要だ。


 婚約がなければ、婚約破棄ができない。


 婚約破棄がなければ、断罪イベントが始まらない。


 つまり、まずは婚約。


 それも、できるだけ王子から見て面倒くさい女になる必要がある。


 よし。


 悪役令嬢、始めます。


 学園に向かう前、国王は王印の印籠を私に預けた。


「第二王子と第三王子に会ってほしい」


 そう言われた。


 私はうなずいた。


 王印の印籠。


 強そうだ。


 水戸黄門様みたいで、少し気分が上がった。


 そして私は、外国から招かれた王族令嬢として、王子たちが通う学校に通うことになった。


 学園は、とにかく周りの人たちが美しすぎた。


 そして、身長が高い。


 青い目に金髪。


 緑の目に赤く輝く髪。


 男女ともに、リカちゃん人形の世界だった。


 そして私は、東洋人の薄い顔で、とても小柄で、セーラー服姿。


 情けない。


 泣きたくなる。


 なのに、みなが憧れと驚きの目で見てくる。


 まったく、理解を越えた世界だ。


 でも、悪役令嬢として振る舞えることは分かった。


 まず、私は自分の取り巻きを作ることから始めた。


 これは簡単だった。


 外国の王族令嬢と紹介され、私が一言喋れば、皆が従う。


 自慢ではないが、淑女の作法などまったく知らない。


 大手を振って、いつものように大股で歩いていると、


「堂々とされているのですね。私たちとは違います」


 と言われる。


「おはよう」


「元気?」


 普通に話しかけるだけで、びくっとされて、とても長い丁重な言葉で返される。


 なるほど。


 普通に振る舞えば良いのだと分かった。


 気づけば、クラスの女子は全て私の取り巻きになっていた。


 では、攻略しやすそうな第三王子を見に行こう。


 そう思い、第三王子のいる教室を聞いた。


 隣の棟の四階にいるようだ。


 階段を上がるのが嫌だと思ったが、魔法昇降装置があった。


 エレベーターだ。


「じゃあ、みんなで行こう」


 そう言うと、取り巻きたちは驚いた。


「男子棟なので入れません」


 そうだ、男女は別で学ぶ学園だった。


「いつ会えるの?」


「週に一回ある、作法を習う時に男女の交流があります」


 頬を染めながら言われてしまった。


 私は短気だ。


 そんなに待てない。


「今から行こう」


「え、今からですか?」


「私の国には、そんなルールはないの」


「男女共学なのですか?」


「男女が同じ場所で学ぶのですか?」


 説明が面倒になった。


「いいから、みんなで行くよ」


 そう言うと、みながついてきた。


 最高の気分だ。


 取り巻きを連れて先頭を歩く。


 最高だ。


 これだ。


 悪役令嬢といえば取り巻き。


 取り巻きを連れて廊下を歩くのは、一度やってみたかった。


 でも、先頭を歩いているのが、薄い顔のちびの私だと考えたら泣けてきた。


 愛の女神。


 なぜ姿を変えなかった。


 恨めしく思った。


 学校がパニックになっていく。


「なんで、あのクラスの子たちはまとまって歩いているの?」


「あ、セーラー服のあの人だわ」


「素敵ね。堂々としている」


「私もああなりたいわ」


「勉強もできるそうよ」


「掛け算ができるの」


「足し算でなく、掛け算?」


「先生が五かける五と聞いたら、即答で二十五と答えたそうよ」


「なんでも、分数もできるらしいわ」


「え、分数って何?」


「私も分からないけど、とても難しい数学と聞いたわ」


「セーラー様は本当にすごいね」


 そんな声が聞こえる。


 女子高生だ。


 分数はできる。


 苦手だが。


 それで驚かれる方が驚くのだが、異世界だ。


 何でもあるのだろうと考えた。


 そうこうしているうちに、男子棟に到着した。


 男子たちが窓から見ている。


 門番と思われる人が、震える声で聞いてきた。


「何の御用ですか?」


「第三王子に会いに来たと伝えてください」


「校則なので無理です」


 先生たちも集まって来た。


「セーラー服様、男子棟には入れません」


「私は国王様から、第三王子に会えと言われているの」


「それでも止めるの?」


「そう言われても……」


 仕方ないので、ポケットから王印の印籠を取り出し、それをかざした。


 みなが頭を下げて、何も言わなくなった。


 水戸黄門様の気分だ。


 私は第三王子に会った。


「セーラー服様、僕に会いに来てくれたのかい」


 甘い言葉でささやかれた。


 鳥肌が立った。


 まわりの取り巻きは、目を輝かせている。


 確かによく見れば男前だ。


 美しすぎる。


 ふと、見とれてしまった。


 だめだ。


 悪役令嬢が見とれてはいけない。


 私は悪役令嬢だ。


 王子に惚れるために来たのではない。


 王子に婚約破棄されるために来たのだ。


「あなた、私と婚約しなさい」


「僕が、セーラー服様と?」


「嫌なの?」


「こんな積極的で美しい人に言われたら、断れないな」


 第三王子は、にこりと笑った。


「喜んで、お姫様」


 よし。


 これで断罪条件はそろった。


 私は短気だ。


 時間をかけて婚約などしたくない。


 あとで婚約破棄イベントに使うだけだ。


 順調にいったので、第二王子にも会いに行った。


 第二王子は本を読んでいた。


 政治に興味がないというだけあって、机の上には分厚い詩集が積まれていた。


 顔は整っている。


 儚げで、物静かで、文学青年という感じだ。


 悪役令嬢ものなら、一見まともそうに見えて、土壇場で面倒なことを言うタイプだ。


 油断してはいけない。


「私と婚約しなさい」


 私がそう言うと、第二王子は目を丸くした。


「いきなり何を言っているのですか」


「婚約したいの、したくないの」


「前例がありません」


「したいの、したくないの」


「淑女として、そのような迫り方は」


「したいの、したくないの」


 第二王子は少し黙った。


 そして、頬を赤くした。


「……したい」


 言った。


 言ったぞ。


 これで二人目だ。


 取り巻きの人たちは、私を神でも見るような目に変わっていた。


「お二人と婚約してよいのですか?」


 丁重に聞かれたが、


「断罪イベントの設定のための婚約だからよいの」


 と言った。


 誰も理解できなかった。


 しかし、困ったことに、私が教室に戻ろうとしたら、第一王子が近づいてきた。


 第一王子は、他の王子たちと雰囲気が違った。


 派手ではない。


 甘くもない。


 けれど、まっすぐこちらを見ていた。


 そして、私の前で膝を折った。


「セーラー様」


「はい」


「僕と婚約してください」


 あれ。


 違う。


 これは違う。


 第一王子の断罪予定はない。


 王様は伝えてなかったのかな。


 いや、でもこの人。


 私と本当に婚約したいの?


 第二王子と第三王子は、勢いと空気で流された感じだった。


 でも第一王子は違う。


 目が真剣だった。


「あなたは、誰の前でも恐れずに歩く」


「はい?」


「古い校則にも、貴族の顔色にも、王子の身分にも怯えない」


 いや、怯えるほど事情を知らないだけだ。


「あなたは、この国を変える方です」


 違う。


 私は断罪イベントを起こしたいだけだ。


「どうか、僕と婚約してください」


 周囲が息を呑む。


 取り巻きたちは両手を口元に当てている。


 男子たちは窓から身を乗り出している。


 先生たちは固まっている。


 私は頭の中で必死に考えた。


 第二王子、第三王子と婚約した。


 断罪イベントの種はまいた。


 ここに第一王子の婚約が加わるとどうなる?


 分からない。


 まったく分からない。


 悪役令嬢ものはたくさん読んだ。


 けれど、三人の王子に同時に婚約を申し込まれる悪役令嬢は、あまり覚えがない。


 私は悪役令嬢になりたかった。


 王道ヒロインになる予定は、一文字もなかった。


「第一王子は、今回の断罪イベントには関係ありません」


「婚約はしません」


 私がそう言うと、第一王子はすごく落ち込んでしまった。


 胸が少し痛んだ。


 なぜだ。


 私は悪役令嬢なのに。


 なぜ断った相手の顔を見て、少し申し訳なくなっているのだ。


 さて、問題は、どのような断罪をするかだ。


 私は頭をひねっていた。


 そこで、私は大事なことに気づいてしまった。


 小説は読めても、設定は作れない。


 断罪イベントは好きだ。


 婚約破棄も好きだ。


 王子が青ざめる瞬間も好きだ。


 でも、その前にどうやって事件を起こすのか。


 どうやって聖女を絡ませるのか。


 どうやって貴族たちを集めるのか。


 どうやって綺麗に破滅へ持っていくのか。


 そこは、作者様が全部やってくれていた。


 私は読者だった。


 まあ、そのうち何とかなるだろう。


 そう思いながら、王宮のふかふかのお姫様ベッドで横になった。


 ベッドは信じられないほど柔らかかった。


 天蓋もついていた。


 これはこれで悪役令嬢っぽい。


 私は少し満足した。


 目を閉じる。


 これは夢。


 それとも現実。


 そんな言葉が、心に浮かんだ。


 そして、眠りに落ちる直前。


 第一王子の真剣な目が、なぜか頭から離れなかった。

ポイントを入れていただけると、大きな励みとなります。

こちらの作品もおもしろいと思います。お読みいただければ有難いです。

連載 <長編版>妹に婚約者を譲れと言われたので、慰謝料をもらって旅に出ることにしました

https://ncode.syosetu.com/n2477md/

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