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第十一話 自己満に決着をつけようという罪

 ノストラの声が村の夜に響いたあと、しばらく誰も動かなかった。それぞれの精神が極限まで研ぎ澄まされ、同時にひどく脆くなっていたからだ。誰も、次の一歩を踏み出すことができなかった。

 ロアンソは一家伝統の銀の長剣を落としたが、拾おうともしなかった。ただ私を見ている。その目は、理解できないものを見る目だった。信じたくないものを見た、そんな目だ。嘘だろうと、必死に訴えかけてくる。

 吸血鬼の王、アーカルド。

 ノストラの言葉は誇張でも何でもない。事実そのものだ。何千年も生き続け、人を喰らい、王として君臨する。それこそが私の本質であり、鏡の騎士など外皮に過ぎない。だが人間がそれを受け入れるには、今までの思い出全てを投げ捨て、理解するには、あまりにも重すぎる事実だった。ロアンソはやがて、絞り出すように言った。

「……冗談だ。え、そうなんだろ。なかなかに悪い冗談じゃないのか。」

 乾いた笑いを漏らすロアンソを見ても、私は何も答えなかった。沈黙。それは何より雄弁だった。ロアンソの顔が歪む。この一瞬だけは、この世に映る何もかもを憎々しく思えた。いったい、なぜこんな運命を辿ることになったのやら。

「お前が……吸血鬼?」

「そうだ。私は吸血鬼であり───」

 夜風が通りを抜けた。

「始祖だ。」

 ロアンソは膝から崩れ落ちた。呆然とする。無機質な金属が、かすかに音を立てた。

「……じゃあ。」

 彼女は呟く。

「今までのは、全部……。」

 私は首を振った。

「嘘ではない。」

 ロアンソの視線が揺れる。

「お前と出会った夜も、村を守った時も、囲炉裏を囲んで談笑した時も……すべて本当だ。」

 私は静かに言った。

「少なくとも、私にとってはな。」

 ロアンソは何も言えなかった。その時、遠くで悲鳴が上がった。吸血鬼たちの叫び声。そして断末魔。私はそちらへ視線を向けた。通りの向こうで、吸血鬼が倒れる。首を落とされた同族の体が地面に崩れる。別の場所では杭が打ち込まれている。また一体。また一体。私の子供たちが死んでいく。この夜、ここに来た吸血鬼たちはほとんど若い。まだ世界を知らない者ばかりだ。そして、その多くがもう動かない。

 ノストラが歯を食いしばった。

「……父上様。」

 その声は震えていた。

「まだ戦えます。」

 彼女は前へ出ようとする。

「私が、あの人間を……。」

「やめろ。」

 私は静かに言った。

 ノストラが驚いた顔をする。

「ですが!」

「やめろ。」

 今度は少しだけ強く言った。

 ノストラは黙った。私は彼女を見た。紅い髪が夜風に揺れている。この子もまた、私の子供だ。そして今夜、多くの兄弟を失った。自らの責任だと思っているのだろう。この村へ攻め込んだことを。

「……逃げろ。」

 私は言った。ノストラの目が見開かれる。

「父上様?」

「ここはもう終わりだ。」

 私は周囲を見た。吸血鬼たちは次々と倒されている。この戦いは、すでに決着がついていた。

「だが……!」

「命令だ。」

 その一言で、ノストラは黙った。しばらく私を見つめる。そして、ゆっくりと頭を下げた。

「……御意。」

 ノストラは後ろへ下がり、森の闇へ消えていった。残ったのは、私とロアンソだけだった。村は半ば崩れている。家々は壊れ、血の匂いが漂っていた。ロアンソは低く言った。

「……これがお前の本質か。」

「そうだ。」

 私は答える。

「───人間を襲って生きる。それが私の真の姿だ。」

 村は騒がしい。だが私たちの周りだけ、奇妙な静寂があった。

「そして人間どもに殺されるのも、また本質だ。」

 振り返り、村の惨状と、葬られた子供達の死体を見る。

「今夜、私は多くの子を失った。」

 ロアンソの表情が僅かに変わる。

「だが、お前も同じだろう。」

 ロアンソは答えない。だが視線が揺れた。彼女もまた、多くの人間を守れなかった。その事実は、互いに理解している。しばらく沈黙が続いた。私はふと笑った。

「ロアンソ。」

 彼女は顔を上げる。

「決着をつけよう。」

 ロアンソの眉が動く。

「決着?」

「そうだ。」

 私は言った。

「私の城に来い。」

 ロアンソの目が鋭くなる。

「……罠か?」

 私は首を振った。

「場所を教える。」

 そして私は城の位置を伝えた。山の奥、霧の谷の向こう。人間が決して近づかない場所。吸血鬼の王の城、私の住処。何千年もの間守り続けた秘密の場所を、ロアンソに伝えた。彼女は驚いた顔をした。

「お前……自分の巣を教えるのか。」

「ああ、そうだ。吸血鬼ハンターよ───」

 私は言った。

「終わらせるのだろう?」

 ロアンソは黙った。そして剣を拾う。

「……待ってろ。」

 ロアンソは低い声で言った。震えていたが、覚悟は決まっている。

「アーカルド。」

 その名を、初めて彼女の口から聞いた。

「……私は吸血鬼ハンター、ロアンソ。お前を撃ち倒すことを神に誓う!」

 私は背を向けた。

「来るがいい。」

 そして言った。

「騎士は常に怪物を打ち倒すものだからな。期待している。」

 それだけ言い残し、私は夜の中へ歩き出した。村の灯りは消えかけている。遠くでまだ戦いの音が聞こえる。だが私は歩を止めない。すべてを終わらせるため。決着の地へ赴くため。王は帰還する。吸血鬼巣食う魔の城へ。最期の時を迎えるために。

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