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澪と写真と僕の・・・  作者: 双鶴


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8/12

8話 落選の午後、涙の理由

 夏休みが終わりに近づいた頃、美術室にはいつもより緊張した空気が漂っていた。

 コンクールの結果が、今日発表される。


 遠峰奏斗は、筆を洗いながら落ち着かない気持ちで時計を見た。

 白石澪は、いつも通り静かにスケッチブックを開いている。

 けれど、その指先はわずかに震えていた。


「……白石さん、緊張してる?」

「え? あ、ううん。そんなことないよ」


 嘘だ、と奏斗は思った。

 澪は絵に対していつも真剣だ。

 だからこそ、結果を気にしないはずがない。


 *


 しばらくして、顧問の先生が部室に入ってきた。


「コンクールの結果、貼り出されたぞ。見に行くか?」


 部員たちがざわつきながら廊下へ出ていく。

 澪も立ち上がったが、どこかぎこちない。


 掲示板の前には人だかりができていた。

 奏斗は澪の後ろに立ち、そっと様子を見守る。


 澪の名前は――なかった。


 その瞬間、澪の肩がわずかに沈んだ。


「……そっか」


 小さく呟いた声は、雨粒のように弱かった。


 周囲の部員たちは自分の結果に一喜一憂している。

 誰も澪の表情には気づかない。


 奏斗は声をかけようとしたが、言葉が出なかった。


 澪は無言で美術室へ戻っていった。


 *


 部室に戻ると、澪はスケッチブックを開いたまま、じっと動かずに座っていた。

 窓から差し込む光が、彼女の横顔を淡く照らす。


「白石さん……」

「……悔しいとかじゃないんだよ」


 澪はゆっくりと口を開いた。


「ただ……私の絵、届かなかったんだなって思って」


 声が震えていた。


「私、色は得意だけど……構図とか、表現とか、まだまだで……」

「そんなこと……」

「分かってるよ。でも、分かってても……やっぱり、ちょっとだけ、しんどい」


 澪は笑おうとしたが、その笑顔は崩れた。


 そして、ぽつりと涙が落ちた。


「……ごめん。泣くつもりじゃなかったのに」


 奏斗は胸が締めつけられた。

 澪が泣く姿を見るのは初めてだった。


「白石さんの絵……俺、好きだよ」


 気づけば、言葉が勝手に出ていた。


「光が綺麗で……優しくて……俺には描けない世界で」

「……遠峰くん」

「俺の写真、白石さんが描いてくれたとき……すごく嬉しかった。白石さんの絵だから、嬉しかった」


 澪は涙を拭いながら、奏斗を見た。


「……ありがとう。遠峰くんの言葉、すごく……救われる」


 その声は、涙で濡れていたが、確かに温かかった。


 *


 部活が終わる頃、澪は少しだけ笑顔を取り戻していた。


「ねえ、遠峰くん」

「うん」

「今日……話してくれてありがとう」

「……うん」


 澪はスケッチブックを抱えながら、静かに続けた。


「私、もっと描きたい。悔しいけど……やっぱり描くの好きだから」

「白石さんなら、もっと上手くなるよ」

「ふふ、そうだといいな」


 澪は窓の外の夕陽を見つめた。


「ねえ、また遠峰くんの写真、描かせてね」

「……もちろん」


 その返事は、自然に出た。


 澪の涙は、もう乾いていた。

 でも、その涙が二人の距離をまた少しだけ近づけたことを、奏斗は感じていた。


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