表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
澪と写真と僕の・・・  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/12

7話 夏の光と、二人だけの制作時間

 夏休みの美術室は、静かだった。

 窓から差し込む強い光が、机の上の水彩紙を白く照らしている。

 扇風機の音だけが、ゆっくりと空気をかき混ぜていた。


 遠峰奏斗は、筆を持ったまま動けずにいた。

 水彩は相変わらず苦手だ。

 色を置くたびに紙がざらつき、思ったようにいかない。


「遠峰くん、今日も来てたんだ」


 振り返ると、白石澪がスケッチブックを抱えて立っていた。

 夏の日差しを受けて、髪が少しだけ明るく見える。


「……うん。練習しようと思って」

「えらいね。私も描くよ」


 澪は奏斗の隣に座り、パレットに水を落とした。

 その動きは、いつも通り迷いがない。


「遠峰くん、今日は何描くの?」

「……海、描こうと思って」

「いいね。遠峰くんの海、好きだよ」


 胸が少しだけ熱くなる。

 澪は何気なく言っているのだろう。

 でも、その言葉はいつも奏斗の心を揺らした。


 *


 しばらくして、澪がふと顔を上げた。


「ねえ、遠峰くんの写真、見てもいい?」

「……いいよ」


 奏斗はスマホを渡した。

 澪は画面をスクロールしながら、ひとつひとつ丁寧に見ていく。


「やっぱり、光の入り方が綺麗だね」

「光……」

「うん。遠峰くんの写真って、光が“触れない距離”にある感じがする」


 その言葉は、以前も聞いた。

 でも、今日は少し違って聞こえた。


「ねえ、この写真、描いてみてもいい?」

「え……?」

「遠峰くんの視点を、私の色で描いてみたいの」


 胸が跳ねた。

 自分の写真を、澪が絵にする。

 それは、想像以上に嬉しかった。


「……いいよ。描いて」

「ありがとう」


 澪はスケッチブックを開き、写真を見ながら筆を動かし始めた。

 色が重なり、光が生まれる。

 奏斗の写真が、澪の手で“絵”になっていく。


 その光景を見ているだけで、胸が熱くなった。


「……すごい」

「なにが?」

「俺の写真じゃないみたい。白石さんの絵になってる」


 澪は少し照れたように笑った。


「ふふ、当たり前だよ。でもね、遠峰くんの“目”があるから描けるんだよ」


 その言葉は、夏の光よりも強く胸に刺さった。


 *


 しばらくして、澪が筆を置いた。


「ねえ、遠峰くん」

「うん」

「私、遠峰くんと一緒に描くの、好きだよ」


 その言葉は、恋ではない。

 でも、確かに特別だった。


「……俺も。白石さんと描くの、好き」

「そっか。よかった」


 澪はスケッチブックを閉じ、窓の外の強い光を見つめた。


「ねえ、夏ってさ……光が強いのに、影も濃いよね」

「……うん」

「遠峰くんの写真みたいだなって思う。優しい光と、静かな影」


 胸がまた熱くなる。

 言葉が出ない。


「だからね、遠峰くん」

 澪は少しだけ笑った。


「これからも、写真見せてね。私、遠峰くんの光が好きだから」


 その言葉は、夏の午後の空気に溶けていった。


 奏斗はただ、小さく頷いた。


 ――この時間が、ずっと続けばいい。


 そう思ってしまった自分に、気づかないふりをした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ