12話 半年後の手紙、再び歩き出す光
新しい街の冬は、どこか乾いていた。
遠峰奏斗は、駅前の雑踏を抜け、アパートへ向かう坂道を歩いていた。
風が冷たく、指先がかじかむ。
――写真、撮ってないな。
引っ越してから半年。
学校にも慣れた。
クラスメイトとも話せるようになった。
でも、カメラだけは触れなかった。
撮ろうとすると、胸の奥がざわついた。
光を見るたびに、澪の横顔が浮かんだ。
あの丘の風の匂いが蘇った。
だから、撮れなかった。
*
アパートに戻ると、ポストに一通の封筒が入っていた。
差出人の名前を見た瞬間、息が止まった。
――白石澪。
手が震えた。
封筒は薄く、軽い。
でも、その重さは胸の奥にずしりと落ちた。
部屋に入り、机の上に封筒を置く。
深呼吸をして、ゆっくりと開いた。
中には、便箋が一枚だけ。
奏斗は震える指で広げた。
*
「遠峰くんへ」
「あの写真、今も部屋に飾ってるよ。
毎朝見るたびに、胸の奥が少しだけ温かくなるの。
あの光は、私にとって“がんばれる理由”になってる。」
「遠峰くんがいなくなってから、美術部は静かになったよ。
でもね、私、前より絵が描けるようになった気がする。
遠峰くんの写真みたいに、光を大事に描けるようになった。」
「ありがとう。
あの写真をくれて。
私の絵を見てくれて。
私の話を聞いてくれて。」
「遠峰くんの写真、やっぱり好きだよ。」
「また会えたらいいね。
そのときは、もっと上手く描ける私でいたい。」
「白石澪」
*
読み終えた瞬間、胸の奥が熱くなった。
涙は出なかった。
でも、何かが静かにほどけていくのを感じた。
奏斗は机の引き出しを開けた。
半年間触れなかったカメラが、そこにあった。
手に取ると、重さが懐かしかった。
窓の外を見る。
冬の光が、薄く差し込んでいる。
シャッターを切った。
カシャ。
その音は、半年ぶりの音だった。
胸の奥が、ゆっくりと温かくなる。
――会いに行こう。
言葉にした瞬間、迷いは消えた。
澪の手紙が、背中を押してくれた。
奏斗はカメラを肩にかけ、コートを羽織った。
外の空気は冷たい。
でも、胸の中には確かな光があった。
丘の風の匂いを思い出しながら、奏斗は歩き出した。




