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3 side-ジーナ

 戦争の種となっていた鉱山が広範囲崩落を起こした。生き埋めになったカラン共和国の調査隊を、ヴォルグの暁獅子騎士団が救出した。共和国の調査隊には議員も多く含まれており、休戦ではなく停戦を進言したらしい。ヴォルグ王国とカラン共和国は、再戦後二ヶ月で停戦し、その後正式に和平を結んだ。ジーナ傭兵団の連中は、軽傷を負った者こそいたものの、幸い死人も重傷者も出さずに済んだ。

 戦後処理に追われる政府首脳部に呼び出された時、私は旅支度の最中だった。

「ジーナ傭兵団を解散するというのは本気かね」

 議長と議員二人を前にして、私は静かに頷いた。戦後すぐに国との雇用契約を解いたのは、団を解散するためだ。

「理由を聞いて良いですか」

 私と年齢の変わらない女性議員の問いに、対外的な理由を答える。

「剣士として修業をやり直したい。暗黒の戦乙女なんて恥ずかしい通り名がついちまって、実力が追い付いてない」

「団員の大半は副官だったツァイスが作る傭兵団に入る。ツァイスは国と契約を結ぶつもりでいるし、私がいなくても問題ない」

「成程、では君はどこで修行をやり直すつもりだ?」

 神経質そうな眼鏡の議員が、口を挟む。

「関係あるのか?」

 苛立ち交じりに問い返すと、唐突に議長が話を変えた。

「実はヴォルグから君に婚姻の話が来ていてね。和平と友好の象徴にもなる縁組でね。我々としては是非受けて貰いたい」

「はぁ?」

 女とはいえ荒くれ傭兵団の長を指名する物好きの存在に首を傾げる私の前に結婚証明書が差し出された。新郎の欄に【ケント・フォンブル】と署名されている。まさかと息を飲む私に議長が畳みかけた。

「金獅子騎士団の団長だ。ヴォルグでは英雄として名高いし、年齢も三十二だというし、釣り合うだろう? 君の後見として私とヴォルグの王弟が付く。悪い話ではないと思うが、どうかね」

 茶目っけたっぷりに片目をつぶる議長を私は呆然と見つめる。

「私をからかって楽しいか」

 呆然と答える私を、神経質そうな議員がじとりと睨んだ。

「我々はそんなに暇ではない」

「ヴォルグの英雄とカランの戦乙女の結婚ですから、これ以上ない和平の象徴となります」

 女性議員が興奮しているらしく弾んだ口調で言い募る。脳裏を子犬のような目をしたケントの笑顔が過る。ベッドで見せた狼のような獰猛な表情も思い浮かんだ。国まで動かした優男の情熱に、胸が震える。私は眼鏡の議員が差し出したペンを受け取り、証明書に【ジーナ・ソーディス】と署名した。



「綺麗でした、ジーナ」

 黒目がちの目をきらめかせるケントを前に、私は苦笑を浮かべる。ヴォルグとカランが和平を結んでから半年後、私とケントは出会った土地である自由都市フランベールで結婚式を挙げた。両国とも戦に参加したのは職業軍人だけであり、市民に犠牲は出ていないが、敵同士だった私達がどちらかの祖国で挙式するのは抵抗があった。

「ケントも……似合ってた」

 英雄と呼ばれる騎士団長だと知っても、ケントが優男だという印象はぬぐえないが、式で身に着けていた軍服姿は決まっていた。

「本当ですか。僕、儀式用の軍服って堅苦しくて嫌いだったんですけど、ジーナが良いというなら、毎日着ます」

「いや、別に毎日着なくても良いけど」

 小声で答える私の身体は寝台に沈む。圧し掛かって来た夫を満たされた心地で見つめた。

「愛しています、ジーナ。どうかずっとそばにいて」

「うん、ありがと、ケント」

 

 ありふれた名前を持つ私達は、今も仲良く暮らしている。  

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