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魔法を知らない、魔法使い

作者: あんこ

目を覚ましたとき、私は燃える村の中にいた。


瓦礫の下から這い出た私を見て、誰かが叫んだ。


「――生きてる!この子、ひとりだけ……!」


気づけば、周囲には人が倒れていた。赤ん坊から老人まで、みんな静かだった。


村は魔物に襲われたらしい。

でも、私には記憶がなかった。

名前も、年齢も、自分が誰かさえも。


ただ、右手には奇妙な印が浮かんでいた。

光る花弁のような文様。


「これは……“魔導の紋”……!」


老神官が震えながら言った。

「この印を持つ者は、“原初の魔法使い”の転生体に違いない……!」


私は、“魔法使い”として拾われた。



「お願いです、聖女様。あの子に魔法を教えてください」


「だめよ。彼女は“まだ目覚めていない”の。無理に力を引き出せば、命を落とすわ」


私は“特別な存在”として育てられた。


戦争のために、国は私を求めた。

魔王の復活が迫っていたから。


でも――私は、魔法が使えなかった。


どんなに呪文を唱えても、何も起きない。

杖を握っても、風ひとつ吹かない。


「ほんとうに“原初の魔法使い”なのか?」


「ただの偽物じゃないのか?」


ささやきは、やがて暴力に変わった。


「期待外れだな。口ほどにもない女だ」


私は、魔法の使えない“魔法使い”だった。



十五の冬、私は宮廷を追放された。


寒さのなか、一人で山を越え、森を歩いた。


何度も倒れ、飢え、泣いた。


でも、不思議と生き延びていた。


ある夜、焚き火の火が風に消された。


闇の中、黒い獣が現れた。

牙をむき、咆哮する魔物――


私は震える手で石を握った。


「……お願い、やめて」


魔物が止まった。


……それだけだった。魔法も、力も使っていない。


ただ、心の底から願っただけ。


翌朝、魔物は私の足元に横たわっていた。

静かに、まるで眠るように。



その後も、私は旅をした。


そのたびに、奇妙なことが起こった。


泣いていた子が笑い出した。

争っていた兵士が剣を置いた。


私がただ、そっと触れ、話しかけただけで。


「魔法じゃない。私は、何もしていないのに……」


そう思っていた。


でも、出会った旅の賢者が言った。


「お嬢さん、それが“魔法”ってやつさ」


「……は?」


「火を出すのも、雷を落とすのも、魔法だろう。だが、“世界を変える”力のことを本当は、魔法って言うんだ」


私は言葉を失った。



魔王が復活した。


世界は恐慌に陥った。


王は震えながら、こう叫んだ。


「“原初の魔法使い”は何をしている!」


「なぜ、我々を見捨てた!」


自分たちから「無能」として追放したにも関わらず。

窮地に陥ると助けを求め始める。


私は、誰にも呼ばれていないはずの城門の前に立っていた。

あの日、自分が追い出された門の前に


兵士たちは私を見て、目を見開いた。


「まさか……!?」


魔王の軍勢が押し寄せる。空が割れ、大地が崩れる。


私は、ただ歩いた。


誰かの手を取った。

誰かの頭を撫でた。

倒れていた兵士の背を支え、傷ついた子供を抱き上げた。


そのたびに、魔の気配が消えていった。



魔王が目の前に現れた。


「貴様が、“原初の魔法使い”か」


私は頷いた。


「でも、私は魔法を知らない」


「ならば、なぜここに立てる!」


「……あなたを止めたいと思ったから。

それだけのために、私は来たの」


魔王が剣を振るう。


私は、それを受け止めた。――ただ、願いを込めて。


(傷つけないで)

(優しさを忘れないで)


剣は砕け、風が止まり、空が晴れた。


魔王は、泣いていた。


「なんだ……この暖かさ…。私の負の感情が消え去った……?」


私は、静かに言った。


「それが、私の魔法」



戦争は終わった。


私はどこかの村で、今も静かに暮らしている。


名も、肩書も、すべて捨てた。


でも、時々やってくる子供たちが、こう言うのだ。


「ねえ、“魔法使いのおばあちゃん”!

お話して、ぎゅーってして!」


私は笑って、彼らを抱きしめる。


そう、これが私の魔法。


言葉も、力もいらない。

ただ――世界を少しだけ優しく変える魔法。

息抜きに書いてみました


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