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ベランダのパンツとパンツ好きのおじさんの偶然の出会い

作者: 文月しわす

 ベランダに汚いおじさんがいた。

 干してある布団にまたがって眠っている。今日はポカポカだから仕方がない。

 ママなら悲鳴をあげている。パパなら警察を呼ぶだろう。やっちゃんは布団ごとおじさんを落としちゃう。


 おじさんはラッキーだ。見つけたのがあたしで。

 100秒数えたけど、おじさんは全然起きない。

 布団を引っ張ったらおじさんは私の方にコロコロ転がってきた。まだ起きない。

 触ると手が汚れるからマルに頼んでおじさんをリビングまで運んでもらった。

 お礼に朝ごはんのソーセージを分けてあげた。大喜びしていっぱい舐められた。

 朝ごはんをごちそうさましてお皿を片付けていたら、おじさんがやっと起きた。


「おはよう」


 あたしが挨拶してもおじさんは挨拶してくれない。ダメなおじさんだ。

 あたしはキョロキョロしているおじさんの前にコップを置いた。オレンジジュースだ。あたしはダメな子じゃないからこんなこともできる。


「ここは?」

「あたしのうち、おじさんはあそこで寝てたんだよ」


 あたしはベランダを指差した。

 おじさんはベランダを見た後、ズボンのポケットから何かを出した。


「これはあなたのモノですか?」

「あ! やっちゃんのパンツ。なんでおじさんが持ってるの?」

「すみません。これはお返しします」


 パンツを渡された。あたしのじゃないからテーブルの上に置いておく。


「今、おうちにはあなた一人ですか?」

「マルと二人だよ。ママとパパは仕事。やっちゃんはシンダイっていうのを打ちに行っちゃった」

「ああー。そう、ですか」

「おじさんはどこのおじさん?」

「私はーーー遠い星から来ました」

「とおいほし?」

「宇宙人ってことです」

「え、宇宙人なの!」

「今はこのおじさんの体を借りてあなたと話をしています。意味、わかりますか?」

「おじさんじゃないってこと?」

「はい、どちらかといえば私は女性に近い存在です」

「女のおじさん!」

「そうなりますね」


 あたしと宇宙人のおじさんは色々な話をした。おじさんの星のこと、宇宙のこと、幼稚園のこと、大好きなキリンさんのこと、ママとパパのこと、やっちゃんのこと、マルのこと、あたしは宇宙人のおじさんのコップに3回もオレンジジュースを入れてあげた。チョコも食べたしお煎餅の袋も空になった。

 宇宙人のおじさんの話は難しかった。「チョウサって何?」って何回も聞いた。どうやら宇宙人のおじさんたちはパンツが好きなおじさんの体にしか入れなくて困っているらしい。


「我々も改善策を講じているのですが、今回も失敗しました…」

「パンツが好きなおじさんじゃダメなの?」

「パンツが好きなおじさんは嫌われ者なんです。パンツが好きなおじさんの姿では誰も話を聞いてくれません。攻撃されることもあります」

「えー、かわいそう。あたしは嫌いじゃないよ」

「そうですね。みんながあなたのように優しくしてくれたら調査も行いやすいのですが…」

「またチョウサって言った」

「すみません。みんなと仲良くなりたいという意味です」

「あたしたちは仲いいよ」

「はい、友達です」


 あたしと宇宙人のおじさんは握手をした。あたしの手はベトベトになった。


「私は帰ります」

「えッ、もう帰っちゃうの!」

「おうちの人が帰ってくると大変なので」

「えー、あたしが紹介するのに」

「次に会ったときにしましょう。そのときはママとパパとやっちゃんを紹介してください」

「次っていつ?」

「わかりません。ですが必ず会いにきます。その時はパンツが好きなおじさんの姿ではなく、カッコイイお兄さんの姿かもしれませんよ」

「あたしはおじさんでもいいからすぐ会いたい」

「おおー、ゲチェナ」

「何それ?」

「私の星で良き出会い、という意味です」


 宇宙人のおじさんは立ち上がった。あたしは宇宙人のおじさんのズボンのポケットにやっちゃんのパンツをバレないように入れた。内緒のプレゼントだ。やっちゃんはいっぱい持ってるから1個くらいいいだろう。

 玄関でもう一回握手して宇宙人のおじさんとはさよならした。



***



 目が覚めたらリビングのソファーの上だった。

 やっちゃんがいた。


「おッ、ようやく起きたか」

「今何時?」

「夕方の5時だ。おまえよく一人でこんなに菓子食ったなあ、そりゃ寝るわ。夕飯食えんのか? 残すとママに怒られっぞ」

「どうしよう…」

「菓子はあたしと二人で食ったことにしな。そんであたしが留守番サボったことは内緒な」

「うん、わかった」

「よし、夕飯はママの目を盗んであたしが食ってやる」

「ありがとう」

「どういたまして」


 やっちゃんはあたしの髪の毛をグチャグチャにしたあと、ほっぺにチューをした。機嫌がいいみたいだ。


「そうだ。今日店にキリンがいたぞ。写真撮ったけど見るか」

「キリンさん! 見る」


 やっちゃんのスマホにはイスに座っているキリンさんが写っていた。


「キリンさん何してるの?」

「人気ない台打ってた、負けてたけどな。このキリン、店の宣伝なのか頭のおかしい奴のコスプレなのか結局わからんかった。そもそも今日おかしな連中が多かったんよ。朝から定員殴ってるじいさんや、ポッケに女のパンツ入れて打ってるおっさんや、うるせー若い奴らにゲロ吐いてる女までいた」

「ふーん」


 写真のキリンさんはあたしが好きな大きいキリンさんじゃなくて、気持ちの悪いキリンさんだった。

 やっちゃんと二人でテーブルの上のお菓子の袋やオレンジジュースを片付けした。

 夕ご飯はやっちゃんがいっぱい食べてくれて、ママには怒られなかった。



◆◆◆

 


 あれから宇宙人のおじさんには会えていない。

 勉強して宇宙にも詳しくなった。

 高校は天文部がある学校を受験するつもりだ。

 今の私ならあのときよりも楽しく宇宙人のおじさんと話せるはずだ。

 ママは呆れて何も言わなくなった。パパは心配している。やっちゃんは「さすがあたしの妹」と褒めてくれた。マルは相変わらずいっぱい舐めてくる。

 誰にどう思われようと私は宇宙人のおじさんにもう一度会いたい。


 だから私はパンツを干す。

 中学生のモノとは思えないエロいパンツを毎朝ベランダに。

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