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品定め

 フランチェスカさん専用の応接室に移動した。お店に比べると、シンプルだけど、趣味のいい部屋。

 フランチェスカさんはサラサラと手紙を二通書くと、大きな判子のような物を上に押した。光でできた魔方陣が浮かび上がり、手紙はスッと消えた。


「き、消えた! 魔法ですか?」

「転送の魔道具を知らないのかい?」

「あの、私のいた世界には魔法も魔道具もなかったんです」

「ドライヤーのこと、魔道具って言ってたじゃないか」

「誤魔化すために言っただけです。本当は家電製品って言います。魔法じゃなく、電気で動くんです。でも、電気って知りませんよね」

「何か根本的な仕組みが違うんだね」

「はい、そうです」


 フランチェスカさんはため息をついた。癖なのかな、よくため息をついている。


「わかった。マリアに常識を教えるのは難しそうだって、よーくわかったよ。とりあえず、転送の魔道具は行き先を登録しておくと、この道具で転送の魔方陣を発動できるんだ」


 すごい。えっちゃんに見せたい。


「ギルド長が来るまでに朝ご飯を済ますよ」


 フランチェスカさんに連れられて、食堂へ。昨日と同じようなスープとパンだ。夜のお店だから、朝ご飯は軽いのかもしれない。私は目玉焼きも食べたいところだ。


「マリアの国にパンはあるんだね」

「はい、朝ご飯はパンの人が多いですね。晩はご飯が多いですけど」

「ご飯ねえ。米はお菓子にすると美味しいけど」


 うーん、食べることは好きだけど、料理は苦手だったから、カレーライスを流行らせるなんてこともできないなあ。


 食べ終わる頃にジェシーさんが来た。私服なのか、シャツに革の上着を着ているが、かっこいい。ただ、胸元の開け方がチャラような気がする。


「おはよう。元気だった?」

「おはようございます」


 挨拶が終わると、ジェシーさんは吹き出した。


「大人だって言ってたのに、その服」

「え?」


 今日もフランチェスカさんからもらったエプロンドレスを着ていた。


「子供服だよ。知らなかった?」


 そういえば、ここではミルル以外、着ている子はいなかった。街では見かけたけど、みんな発達がいいから、気づかなかった。

 つまり、ロリータ服で街を歩いたわけ? うわあ。


「これを着せておけば、デルバールの売り物じゃないってすぐにわかるだろ」


 なるほど、まだ、体を売るような年齢じゃないということを示すわけですね。でも、子供服だと知ってしまうと、着ているのが恥ずかしい。


「大丈夫。すごく可愛いよ」


その言い方、やっぱり、チャラい。


「それより、僕を呼び出すって、何かあったの?」


 フランチェスカさんがまた、ため息をついた。


「この子が稼ぎすぎるんだ」

「は?」


 ジェシーさんがじろじろと私を見た。


「売らないことを示すために子供服を着せたんじゃなかったの?」

「売ってないよ。売ったのは髪飾り。うちの女の子たちにつけさせて、お客におねだりさせたら、一晩でマリアの取り分が20万ネイ。さらに新しい物を売り出すつもりだけど、それも売れると思うんだ。だから、ギルド長を呼んでる。ギルド長には落ち人だということを知らせて、マリアの荷物を見てもらった方がいいと思うんだ。一応、マリアを連れてきたのはあんただから、話を通しておこうと思って」


 ジェシーは腕を組んだ。


「荷物が高く売れそう?」

「まだ、見てないからわからないよ。だからこそ、先にギルド長に知らせて、秘密保持契約をした方がいいと思うんだ」


 ジェシーさんまでため息をついた。


「髪結で儲け話になるとは思わなかったよ」

「それで、マリアはどうするの? たぶん、荷物を少しずつ売れば、一生、働かなくても贅沢をしなければ、暮らしていけると思うよ」

「荷物は売りません。髪結を続けるつもりですし、自分のお店を開きたいです。髪にいいオイルや化粧品も改良したいので、他の人にえ研究を頼めるぐらい、稼ぎたいです」


 そんなことを話しているうちにギルド長が来た。フランチェスカさんが先に秘密の契約を結ぶ話を持ちかけると、ジグルドさんはすぐに受け入れてくれた。


「さ、こんな契約が必要だった理由を教えてください」


 魔法契約を結ぶと、ギルド長は尋ねた。


「私が落ち人だからです」


 ギルド長はピクリと眉を上げると、それから、ニヤリと笑った、


「大儲けの匂いがしてきたな」


 うなずいて、ワゴンを取ってくる。元の服や靴も一緒だ。


「元の世界から持ってきた物は売りません。ただ、同じ物を新しく作って、売りたいんです」


 それからは一つ一つの物の説明だ。

 ドライヤー。ヘアアイロンのストレートとカール。霧吹き、ブラシ、コーム、ハサミ、バリカン、シェーバー、毛抜き、化粧品一式。細かい物でガーゼとか、コットンもある。タイマー、カルテにボールペン。動かないスマホ。鏡。もちろん、ワゴンにシザーズバッグも説明する。黒のパンツスーツはストレッチが効くし、靴はレザースニーカーだ。あとは……。


「あの、ジェシーさんはちょっと、出てもらえませんか」

「え、何で?」

「下着を出すので」


 顔が赤くなっているような気がする。


「えー、どんなのか見たいな」

「ジェシー」


 フランチェスカさんが声にドスを効かせると、ジェシーさんは慌てて部屋を出て行った。

 ホッとして、下着を出す。普段はブラトップとかなのに、ブラジャーとショーツのセット。ヘアサロン開業で気合いを入れていたので赤の花柄レースだ。これは恥ずかしい。


「これはいいね。ウチで取り入れよう」


 フランチェスカさんが食いついた。

 それから、分類が始まった。すぐに売り出す物、製作するのに時間がかかる物、とりあえず、対象外にする物。


 すぐに売り出すのはドライヤーとヘアアイロン、それから、下着になった。ドライヤーとヘアアイロンは風や熱の魔方陣を描いて、魔石の魔力で動かすらしい。魔石は異世界の乾電池ですね。

 対象外はスマホに服と靴、欲しい人がいないだろうということだった。私はパンツがいいんだけどな。

 エプロンドレスから脱却する方法を考えなくては。


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